

モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり、人とクルマを鍛えることをテーマとして、新たな体制とともに2025年のスーパー耐久シリーズに参戦しているTOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TGRR)。5月に行われた第3戦富士24時間レースでは、水素エンジン搭載のTGRR GR Corolla H2 conceptがしっかりと完走を果たし、ドライビングの楽しさを実現した。またENEOSとの“共挑”によるカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みで、低炭素ガソリン(E20)燃料を使用したTGRR GR86 Future FR conceptも523周を走破。ノートラブルで走り抜き、大きな知見を得ることができていた。
そんなTGRRのシーズン2回目の挑戦の舞台は、大分県のオートポリス。この一戦に向け、TGRRは1月の東京オートサロンで予告したミッドシップのGRヤリス M コンセプトの投入を目指していたが、これまでのテストで多くの課題があり、より改善を目指すべく、今回は参戦を見送った。
しかし、もっといいクルマづくりに休んでいる暇はない。TGRRは、TGRR GR86 Future FR conceptに加え6月のニュルブルクリンク24時間に挑戦したTGRR GR Yaris DATをオートポリスに持ち込み、日本の特徴である高温多湿などの性質が異なる過酷な環境下での走行を通じて、サスペンション性能やエンジン出力などにおける知見を得ることになった。ドライバーたちは前日まで別の開発テストを行っていた富士から移動し、7月24日(木)の特別スポーツ走行から挑戦をスタートさせた。
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PRACTICE 特別スポーツ走行/専有走行
7月24日(木)〜25日(金) 天候:晴れ/路面:ドライ
迎えた第5戦は、32号車TGRR GR Yaris DATはモリゾウ/佐々木雅弘/石浦宏明/小倉康宏というお馴染みの4人がドライブ。一方TGRR GR86 Future FR conceptは大嶋和也が監督に専念し、佐々木栄輔/坪井翔/福住仁嶺/豊田大輔という4人でステアリングを握る。晴天に恵まれ夏の暑さが残るものの、やや風がありほんのりと涼しさを感じるなか、7月24日(木)の特別スポーツ走行に臨んだ。
ニュルを走ったTGRR GR Yaris DATは、国内で鍛えてきたGR Yarisとは左ハンドル、サスペンション等さまざまな部分が異なる。ニュルでこの車両をドライブした石浦から走行を始め、モリゾウがドライブ。このクルマが初めての佐々木、小倉と交代。操作系など細かな不具合を修正しながら周回した。
「どんどん慣れてもらって、みんなに『乗りやすい』と言ってもらっています」と石浦。同じST-Qクラスに参戦する104号車GR Yarisはスーパー耐久で鍛えてきたクルマだが、2台を使ってのフィードバックを得る活動を進めていった。
またTGRR GR86 Future FR conceptは、大嶋監督いわく「富士からは細かい設定が変わっているくらい」というものの、暑さのなかでのバランスなど課題は残っていると語った。事前にオートポリスではテストを行っているが、このコースはタイヤに厳しく、摩耗が課題となっていた。
また今回、自らの地元でのレースでドライブすることになった福住も「このコースはタイヤの摩耗が激しいので、グリップが落ちたときのクルマの悪いところが顕著に出ます。難しいですが、逆に言えばやり甲斐を感じています」と振り返った。
金曜にはチーム全体でニュルブルクリンクの打ち上げを行うなど、開発の仕事をきっちりとこなしながら、チームは和気あいあいとした雰囲気で週末を進めていった。


QUALIFY 公式予選
7月26日(土) 天候:晴れ/路面:ドライ
7月25日(金)の走行後、オートポリスには細かい雨が舞うなど、山の天候となったが、迎えた7月26日(土)の予選日はやや雲があるものの晴天で迎えた。ただ専有走行日までよりも風が強く、7月とは思えない涼しさのなかでの一日となった。
午前10時15分から行われたグループ1のフリー走行では、TGRR GR Yaris DATはモリゾウがドライブ、TGRR GR86 Future FR conceptは坪井がドライブし、午後1時30分から行われた公式予選に臨んだ。
まずTGRR GR Yais DATのAドライバー予選に臨んだのはモリゾウ。ここでまずは2分05秒782という好タイムを記録し、チームを盛り上げると、Bドライバー予選では佐々木雅弘がドライブ。2分02秒602を記録し、ST-2クラス車両を3台上回ってみせた。Cドライバー予選を石浦、Dドライバー予選を小倉がしっかりとこなしたが、石浦は予選後「104号車はやはりスーパー耐久のセットアップに合わせているので、速さの面ではあちらに分がありますね」と振り返った。
ただ、ニュルブルクリンクのセットアップで得られた多くのデータに対し「エンジニアたちはとても嬉しそうでした」とも。2台で同時に得られる知見が開発に大きく貢献しているのは間違いなかった。
一方TGRR GR86 Future FR conceptは、まずは佐々木栄輔がAドライバー予選で2分04秒415を記録。続くBドライバー予選では、F1のシミュレーターに参加していたため木曜の特別スポーツ走行を走れなかったものの、金曜から着実にドライブしていた坪井がステアリングを握り、2分01秒447を記録。ST-2クラスでも上位に食い込むスピードをみせた。
Cドライバー予選では福住が2分04秒980を、Dドライバー予選では豊田大輔が2分03秒818という好タイムを記録するなど、TGRR GR86 Future FR conceptは富士に続くスピードを発揮。充実の予選日を終えることになった。
予選後、モリゾウをはじめとしたメンバーはオートポリスのパレード走行に参加するなど、スーパー耐久を盛り上げながら予選日を終えることになった。


RACE #32 決勝レース
7月27日(日) 天候:晴れ/路面:ドライ
3日間の走行を経て、迎えた7月27日(日)の決勝日。この土曜までは風があるものの晴天に恵まれていたが、決勝日のオートポリスはかなり雲が多く、午前11時からの決勝レーススタート時には青空が見えているものの、細かい雨粒が舞ったかと思えば日射しが差す難しいコンディションとなっていた。
そんな決勝レースで、TGRR GR Yaris DATのスタートドライバーを務めたのはモリゾウ。グループ1の最後列からスタートを切ると、TGRR GR86 Future FR conceptを追いながら好ペースでレースを進めていくことに。後方のグループ2の車両を大きく引き離しながら、20周のファーストスティントをしっかりとこなすとピットイン。小倉康宏にステアリングを託した。
小倉のスティントでは変わらず風がかなり強いものの、雨の心配はなくなり、青空が広がることに。この週末を通じたセットアップ変更が功を奏し、小倉は自らの33周のスティントをしっかりとこなし、佐々木雅弘にステアリングを託した。
「今回、僕は決勝レースで33周を走りましたが、チームからは『スティントの終盤でタイヤがタレると厳しくなりますよ』と言われていたんです。でもセットアップを進めていただいたおかげで、残り4〜5周こそ突っ込みすぎるところはあったものの、それ以外はすごく順調に走ることができましたね」と自らのスティントを笑顔で振り返った。
安定した戦いぶりをみせるTGRR GR Yaris DATは、その後佐々木のスティントで長い周回数をこなしていくことになった。モリゾウが20周、小倉が33周というスティントだが、なんと佐々木は42周ものラップをこなしていった。
「このオートポリスは非常にタイヤに厳しいコースではありますが、このTGRR GR Yaris DATはニュルブルクリンクに合わせて作られているので、すごくタイヤには優しかったです」と佐々木。
「それでもタイヤをコントロールしながら走り、42周を走ることになりましたが、安定して2分06秒台のラップを刻むことができました。『これ以上は厳しいかな』というところでピットに入りましたが、本当にニュルブルクリンク仕様はよくできたクルマだと感じました」
佐々木はこの長いスティントで、ニュルブルクリンク向けに開発されたTGRR GR Yaris DATのメリットをさらに語る。
「42周のスティントは長かったですが、ニュルブルクリンクはすごくたくさんのクルマが走っていますよね。だからモニターもすごくたくさんついていますし、外からの情報も得やすいクルマです。クーリングもしっかりしていましたし、24時間をドライバーに負担なく走るという意味では、TGRRの皆さんの開発の成果が出ていて、モリゾウ選手、石浦選手、豊田大輔選手、大嶋選手みんなが快適に戦えるパッケージだと思いましたね」
佐々木が得たフィードバックは、もちろん今回のニュルブルクリンク車両をスーパー耐久に持ち込んだもので得られたものだ。そしてニュルブルクリンクとスーパー耐久というふたつの舞台で開発を進めるというアプローチが正しいものであると証明したとも言えた。
レース途中にはセーフティカーランも発生したり、トラブル車両も発生するなど、後半はやや荒れはじめた第5戦だが、長いスティントを終えた佐々木から交代した石浦は、アンカーをきっちりと務めていった。
結果的に、TGRR GR Yaris DATは総合21位でフィニッシュすることになった。もともとスーパー耐久を舞台に鍛えてきた#104 GR Yaris DAT Conceptに対しては、予選ではスピード差はあったものの、決勝レースでは近いペースで戦うことができていた。佐々木が言う乗りやすさ、ドライバーへの配慮などが貢献したと言えるだろう。
石浦監督はレース後、「今後に向けて役立つことをたくさん得られたと思います。すごく意義があるレースになった」と今回の挑戦を振り返った。本来、GRヤリス M コンセプトで出場するはずが叶わなかったものの、その機会をしっかりと収穫に結びつけることができた。
スーパー耐久の次戦は、3ヶ月後に岡山国際サーキットで迎える。このレースに向け、TGRRは今度こそGRヤリス M コンセプトをデビューさせるべく、開発を加速させていく。

RACE #28 決勝レース
7月27日(日) 天候:晴れ/路面:ドライ
3日間の走行を終え、迎えた7月27日(日)の決勝日、オートポリスは前日に続き風が強く、雲が次々と流れていくコンディション。日射しが出るときもあれば、小さな粒の雨が降るときもあり、難しい状況のなか午前11時、決勝レースのときを迎えた。
TGRR GR86 Future FR conceptのスタートドライバーを務めたのは豊田大輔。レース序盤、後方にモリゾウ駆るTGRR GR Yaris DATを従えつつ、ST-2クラスの車両を追いながら走行。17周と早めのタイミングで一度ピットに戻った後、大輔がダブルスティントを敢行していった。
レース序盤こそ雲が多い状況だったオートポリスだが、大輔のスティント途中から次第に雲が晴れ、少しずつ気温も上昇していった。体力面でもジェントルマンドライバーには厳しい状況になりつつあったが、大輔は34周まで走り、佐々木栄輔にステアリングを託した。
大輔は自らのファーストスティントについて、「オートポリスは多少雨が降っても大丈夫なので、あまり気にならなかったですね」と振り返った。
ただ、早めのピットインについては「もともと予定していたことなんです」と語った。木曜の特別スポーツ走行からドライバーたちが口を揃えていたタイヤの摩耗がその原因だ。
「いま、このクルマに対してタイヤがマッチしていない領域になってしまいました。もちろんタイヤは良いものなのですが、クルマとのマッチングを考えると、摩耗がすごく早くなってしまうんです」と大輔。
TGRR GR86 Future FR conceptはこれまでの開発により、ST-2クラスと同等のスピードをもっている。ただ、GR86の車格は本来ST-4クラスのものだ。もちろん履いているタイヤは、ST-4クラスに合わせて作られている。オートポリスは日本国内のサーキットで最もタイヤに厳しいコースだが、スピード、パワーがST-4のタイヤではTGRR GR86 Future FR conceptに適さなくなっていたのだ。
とはいえ、チームはとにかくプッシュを続け、タイヤが厳しくなったらすぐにピットインする戦略を採った。大輔から交代した佐々木もその戦略で走行を続けていた。
ただ、佐々木がドライブしていたTGRR GR86 Future FR conceptに思わぬトラブルが降りかかった。47周を終えて佐々木は急遽ピットに戻ると、「ギヤが入らない」と佐々木は訴えた。
チームは原因究明を行いながら、ミッションの交換作業を行っていった。作業は2時間24分という時間を要し、ようやくコースに戻ることができたのはレースも残り1時間弱。ふたたび佐々木がステアリングを握りコースに戻り、周回を重ねた。
佐々木はふたたびその感触を確かめると、ピットに戻り最終スティントを地元レースの福住に託した。18周とそのラップはそれほど多いわけではなかったが、TGRR GR86 Future FR conceptにとっては貴重な18周だ。
「トラブルが出てから、1時間ほど走行することができましたが、まずはチーム全員に感謝しています。またこうしてトラブルが出たことで、チームメンバーの動きの課題、改善しなければならないところも見えたと思います」と福住はトラブルも前向きに捉えた。もっといいクルマづくりのためには、トラブルも大切な糧だ。
「自分のスティントは40分くらいでしたが、木曜からいろいろなセットアップをやってきて、良いところ、悪いところ、こうしたい……等いろいろ見えてきましたし、今日のレースでは、やってきた方向性が良いフィーリングに繋がっていました。個人的には、木曜から走って充実した4日間だったと思います」
第3戦富士24時間では、トラブルもほとんど起きずチームメンバーは充実した表情を浮かべていたが、今回のトラブルに立ち向かう姿勢こそTGRRのあるべき姿でもある。トラブルは残念なものではあるが、大嶋和也監督は、これまでも抱いていたミッションへの問題点も口にするなど、新たな気づきの契機となった。
低炭素ガソリン(E20)燃料の使用も問題がなかったことは今回の大きな収穫のひとつでもある。TGRR GR86 Future FR conceptは3ヶ月後の第6戦岡山で、ふたたびもっといいクルマづくりへの挑戦を続けていく。

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#32監督コメント
Hiroaki ISHIURA 石浦 宏明
「今回、ニュルブルクリンクの活動のなかで鍛えたものが、32号車だけでなく104号車にも入っていて、ニュルベース、国内ベースでいろいろな比較をしながら戦うことができました。エンジニアの皆さんもたくさんデータが取れたようで、今後に向けて役立つことをたくさん得られたと思います。現在開発中のGRヤリス Mコンセプトに活かせるものもあったと思いますし、TGRRとして次戦岡山で良い走りができるように活かしたいと思います。また、次にニュルブルクリンクに出場するときもデータが活きると思いますね。今回の参戦は急遽でしたが、すごく意義があるレースになったと思います。次戦の岡山は3ヶ月後ですが、ぜひGRヤリス M コンセプトのデビューを楽しみにしていただければと思います」

#28監督コメント
Kazuya OSHIMA 大嶋 和也
「昨年、28号車はオートポリスでかなりバランスが悪く、ドライバーは全員苦労していたのですが、かなり改善されたと思います。ただ、足回りのセットアップなど課題はまだまだあると思っていますし、タイヤがタレてきたときにはやはり厳しくなってしまいます。また決勝レースではミッションにトラブルが起きてしまいました。今回のトラブルとは直接関係はありませんが、これまでもミッションの扱いにくさはドライバーはずっと訴えてきたので、みんなでしっかり考え直す良いきっかけになるかな、と思います。いろいろと足回りやジオメトリなど、やりたいことは今回のレースで見えてきました。結果は悔しいものでしたが、次に向けては前進することができたのかな、と思っています」
