

モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり、人とクルマを鍛えることをテーマとしてスーパー耐久シリーズに挑戦しているTOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TGRR)。今シーズン、チームにとって目玉とも言える挑戦として1月の東京オートサロンで発表されたのが、ミッドシップレイアウトを採用したGR Yaris M Conceptだった。シーズンが始まってからもその開発はたゆまなく続けられてきたが、より良いクルマに仕上げるべく、当初デビュー予定だった第5戦オートポリスへの参戦は見送られていた。
シリーズは第5戦オートポリスから約3ヶ月のインターバルがあったが、その間も開発テストが進められ、10月25日(土)〜26日(日)に行われる第6戦岡山で、ついにデビューを果たすことになった。ドライバーとして名を連ねるのはモリゾウ/佐々木雅弘/小倉康宏/石浦宏明というお馴染みの4人だが、その4人ともが安定して走れるように仕上げられた。
一方、佐々木栄輔/坪井翔/大嶋和也/豊田大輔の4人が組むTGRR GR86 Future FR Conceptは、長期に渡り取り組みを続けているジオメトリの探求、前後制動力可変のモータースポーツでの戦闘力調査のためペダルボックスなどに改良を施してきた。
今回の第6戦の舞台である岡山国際サーキットはコース長が短いこともあり、2グループに分けられレースを戦うが、2台はグループ2から公式予選、決勝レースを戦うことに。3時間と比較的短いレースのなかで多くの知見を得るべく臨んだ。
PRACTICE 特別スポーツ走行/専有走行
10月23日(木)〜24日(金) 天候:晴れ/路面:ドライ
そんな第6戦は10月23日(木)午後0時からグループ2の走行がスタートした。この週末の岡山国際サーキットは朝晩こそ10月下旬らしい冷え込みになったものの、日中は晴天に恵まれ、晩夏の暑さとなった。
TGRR GR Yaris M Conceptは、佐々木雅弘からコースインするが、いきなり3周目に1分39秒427を記録。グループ2の最速タイムを記録する。その後も小倉、モリゾウと交代しながら周回を重ね、午後2時25分からのセッション2も順調に周回。ここで記録された1分39秒003が初日のグループ2の最速となった。
一方TGRR GR86 Future FR Conceptは、セッション2で電気系トラブルが起き、満足に周回をこなせない初日となってしまった。
明けた10月24日(金)も岡山国際サーキットは晴天に恵まれ、午前9時30分から専有走行1回目がスタートした。
この日もTGRR GR Yaris M Conceptは順調に走行を重ね、午後2時05分からの専有走行2回目も含め合計64周を周回。今回初めてドライブした小倉も「午前こそ少しトラブルもあったのですが、午後はタイムも出ましたし、まだまだ伸びると言われています。すごく滑らかです」と高評価だ。
ただ、開発に携わってきた佐々木雅弘は「まだはじめの一歩です。僕たちが目指すのはもっと先」と強調しつつも「いろんな意味で皆さんに観てもらいながら進化してもらうところを見てもらいたいです」とこの車両を“公開開発”したいと語った。
一方、TGRR GR86 Future FR Conceptは、開発を続けてきたジオメトリについてはドライバーたちはいずれも高い評価を下し、坪井翔も「らしくなってきました」と笑顔をみせた。ただ一方で、今回導入されたペダルボックスを含め、ブレーキについてはさまざまな問題もあり、その解決に向けて取り組んでいった。


QUALIFY 公式予選
10月25日(土) 天候:曇り/路面:ドライ
2日間の走行は晴天に恵まれていた岡山国際サーキットだが、迎えた10月25日(土)は朝から曇り空で、午前9時40分からのフリー走行はやや雨が舞うことに。その後のグループ1の走行では雨が本降りとなり路面はウエットに転じたが、その後雨は止み、午後1時40分からの公式予選は曇り、ドライコンディションで始まった。
TGRR GR Yaris M Conceptは、前日までパワーステアリングのアシストが足りなくなるようなトラブルがあったが、金曜に容量が大きなものがサーキットに届き、深夜までかかって交換作業が行われていた。
そんなスタッフの頑張りが、Aドライバー予選から発揮された。TGRR GR Yaris M Conceptはモリゾウがアタック。1分41秒401と、これまでのテストを含めてもベストとなるタイムを記録し、グループ2の12番手につけた。さらに、Bドライバー予選では佐々木雅弘がグイグイとタイムを縮め、1分37秒996を記録。ついに1分37秒台まで突入し、メカニックたちの努力に応えた。合算では総合4番手という好位置だ。
少しずつ雨が降り出すなか、Cドライバー予選では石浦がグループ2最速となる1分39秒214を、Dドライバー予選では雨が降りウエットに転じる中で小倉が1分50秒670を記録するなど、TGRR GR Yaris M Conceptは順調な予選日を終えた。
一方TGRR GR86 Future FR Conceptは、前日ドライバーたちから多くの意見が出ていたペダルボックスを元のものに戻すことを決断。その甲斐もあってか、大嶋監督いわく「順調な一日」になった。
Aドライバー予選では、佐々木栄輔が1分41秒849を記録。Bドライバー予選では坪井が1分40秒196を記録し、合算でグループ2の総合12番手につけた。
こちらも雨が降り出す不安定なコンディションのなか、Cドライバー予選では大嶋が1分41秒976を、フルウエットに転じたDドライバー予選では豊田大輔が1分54秒200を記録。「決勝に向けてもバランスは良いと思います」と大嶋が語るとおり、レースに向けて順調に公式予選を終えた。チーム全体としても、明るい雰囲気が漂う予選日となった。


RACE #32 決勝レース
10月26日(日) 天候:雨〜曇り/路面:ウエット
これまで試行錯誤を重ね、ようやくデビューへとこぎ着けたTGRR GR Yaris M Conceptにとって、初めて他車とともに競り合う決勝レースがいよいよ10月26日(日)にやってきた。始まったばかりの挑戦の“はじめの一歩”が記されるレースだ。
そんなレースだが、迎えた午前8時30分からのグループ2の決勝は前夜からの雨が残り、細かな雨が降り続けるコンディションとなっていた。路面はこの週末初めてとも言える本格的なウエット。ただTGR R GR Yaris M ConceptにとってはGR-FOURのポテンシャルを活かす絶好のチャンスとも言える。経験豊富な佐々木雅弘がスタートドライバーを務め、グループ2の4番手からセーフティカースタートの後、熱戦に臨んでいった。
レース序盤も雨は降ったり止んだり。コース上の水量が刻々と変化していくことになったが、3周目にレースが始まると、まず佐々木はいきなり1コーナーでST-2クラスの車両を1台オーバーテイク。さらに1台、また1台とオーバーテイクを決め、わずか4周目には総合トップに浮上。TGRR GR Yaris M Conceptのスピードをファンの眼前に見せつけることになった。
佐々木は他車よりも2秒ほど速い1分49秒台のラップタイムを記録し、9周目にはST-5クラス車両をラップダウンにしはじめ、10周が過ぎる頃には、総合2番手以下に12.470秒ものギャップを築く快走を続けていった。
「速さはあったかもしれませんが、僕たちのクルマは、タイヤが太いというメリットがありましたね。正直言うと、まだまだだと思っています」と佐々木。
「ただウエットコンディションは狙って走ることはできませんが、今回は良いウエットでの開発ができました。ミッドシップのターンインの良さやトラクションの良さもありました。ただ一方で、ダメなところもたくさんあり、無線で伝えていました」
佐々木が総合トップに立つころには雨脚が弱くなりはじめたが、その後もいまひとつスッキリしないコンディションが続き、31台が周回を重ねていてもなかなか路面が乾かないままレースが推移していく。ただ、そんなコンディション下でも佐々木は手綱をゆるめることなく、スタートから1時間が経過したタイミングで、2番手以下との差を1分まで広げてみせた。
佐々木はスタートから1時15分を走り、39周を完了したところでピットイン。まだわずかに路面が濡れている状況ではあったため、当初小倉に託す予定だった第2スティントのドライバーと作戦を変更。スリックタイヤを装着し、石浦宏明に交代して送り出した。
石浦のスティントの走り出しはスリックタイヤでは非常にスリッピーな状況だったが、そんな中でもさすがのテクニックをみせ、石浦はしっかりとTGRR GR Yaris M Conceptをコース内に留めていった。
「リスクをとらないような走りをしようと思っていましたが、四駆でまわりよりも早くタイヤがグリップしてくれたので、すごく良いペースで走ることができました。こういうコンディションは得意かもしれません」と石浦は振り返った。
石浦はその後も少しずつコンディションが回復していくなか、1分42秒321までベストタイムを更新していき、ジェントルマンドライバーでも安心して走ることができる状況を確認すると、スタートから2時間18分が経過したところでピットイン。しっかりと熱が入ったスリックタイヤを交換せず、小倉康宏に交代。残り40分ほどのスティントを託していった。
「石浦君がしっかり熱を入れてくれたタイヤでしたし、きちんと走ることができました。もうすでに良いクルマだとも思いましたが、もっと良くなるというので、今後楽しみですね」と小倉。
この頃にはしっかりとレコードライン上が乾き、小倉は石浦のラップにも迫ろうかという好ペースで走ると、86周を終えピットイン。残り14分というタイミングでモリゾウにチェッカードライバーを委ねた。
この時点で、総合2番手でST-2クラス首位で、若手TGR-DCドライバーが乗る#225 GR Yarisとは1分以上の差があり、モリゾウは首位のままコースに復帰したが、1回ピットが多い分、すぐにST-2クラスの首位争いを展開する#225 GR Yaris、2番手の#95 CIVIC TYPE-Rがテールに迫った。モリゾウは一時は速さを活かし、2台を抑える走りをみせたが、ピットから冷静に指示を送り、モリゾウは順位争いの邪魔をしないよう最終周直前に2台を先行させ、グループ2の3位でフィニッシュした。
グループ2総合優勝こそならなかったが、TGRR GR Yaris M Conceptは初戦にしてその速さと未来をみせることになった。

RACE #28 決勝レース
10月26日(日) 天候:雨〜曇り/路面:ウエット
さまざまなトライを続けながら迎えた10月26日(日)の決勝日。岡山国際サーキットは前夜から降ったり止んだりの雨が残り、細かな雨が降り続く天候となった。路面はフルウエットだ。
TGRR GR86 Future FR Conceptのスタートドライバーを務めたのはプロドライバーである坪井翔。グリッドでは一時雨が止んでいたものの、スタート直前にふたたび雨が降り出すなどコンディションは不安定で、セーフティカースタートとなったが、序盤坪井はその経験を活かし総合12番手からST-2クラス、ST-3クラスの上位が争う集団の背後につけて戦っていった。視界が悪いコンディションのなかでなかなか坪井をもってしても総合順位は上がらなかったが、これには理由があった。
「序盤はST-2クラス、ST-3クラスがかなり混戦で、この中に割って入るのはさすがに悪いな、と思いながら走っていました」と坪井。ST-Qクラスは賞典外であり、ポジションを争っている車両に対して坪井ならではの配慮をみせたかたちだ。
少しずつその争いも間隔が離れはじめ、坪井はスパートをかけようとしたが、そんなタイミングの開始26分というところで、坪井はピットレーンにTGRR GR86 Future FR Conceptを向けてしまった。急にパワーが上がらなくなってしまったのだ。ウエットコンディションで水を吸ってしまったのか、メカニックたちはエアクリーナーやフィルターを確認していった。
幸い修復作業は27分ほどで終わり、エアクリーナーや電気系パーツを交換し坪井がステアリングを握ったままコースに復帰していった。パワーを取り戻したことを確認した坪井は、その本来のパフォーマンスを発揮し、ST-2クラスの車両を次々とオーバーテイク。その悔しさをしっかりと払拭する走りをみせていった。
坪井はスタートから1時間20分をドライブし、本調子を取り戻した状態でピットインすると、26周を終えピットイン。豊田大輔に交代した。少しずつ路面は乾いてきているもののまだ完全にドライではなく、僚友のTGRR GR Yaris M Conceptがスリックを履いたのに対し、安全を重視しウエットタイヤを装着し大輔を送り出した。
この頃には雨が止み、上空には晴れ間が見えはじめ路面コンディションも回復していくことになったが、そんな状況下でレインタイヤはやや厳しい状態だったものの、大輔は着実にレースを進めていくことに。開始から1時間54分が経過し、43周を消化したところで大輔はピットイン。スリックタイヤに換装し、佐々木栄輔にステアリングを託した。
「ウエットタイヤを履いたのは監督の判断です。ピットアウトしてからすぐはウエットの方が速かったですが、ある程度経つともうドライアップしたので、そこからは栄輔さんに繋ぐために攻め過ぎず、絶妙なところを狙う良い練習になりました」と大輔は語った。
「こういうコンディションのもとでもある程度のペースで走ることができましたが、今回は限界領域は使わなかったので、その点については次回以降の課題ですね」と大輔は自らのスティントを振り返った。
交代した佐々木も、スリックタイヤを履いているもののまだまだ濡れている状況なのは変わりはない。佐々木にとってはあまり経験がない状況だったが、プロ、チームのアドバイスもあり「慎重に行きながらも、しっかりタイヤに熱を入れるという基本に忠実に走っていきました。恐る恐るですがアクセルを少しずつ踏んでいったら熱が入ってタイヤもしっかりグリップしてくれたので、また新しい気づきを得ることができました」と佐々木は着実な走りをみせた。
長いようで短い3時間レースだが、TGR R GR86 Future FR Conceptは佐々木のドライブで最後まで快調なペースを保ったまま走りきることができた。序盤のストップもあり周回は80周に留まったが、それでもしっかりと完走を果たすことができた。
レース序盤に坪井を襲ったパワーダウンについては、最終戦までの原因特定が必要だ。今後もウエットレースは必ずあり得る。また今回投入しながらドライバーから良い評価が得られなかったペダルボックスなど、課題はまだまだある。
2025年のスーパー耐久シリーズも、残すは11月15〜16日の富士スピードウェイでのレースのみ。TGRR GR86 Future FR Conceptはシーズンの集大成に臨む。


#32監督コメント
Hiroaki ISHIURA 石浦 宏明
「今回の決勝レースは不安定なコンディションとなりましたが、なかなか路面も乾かなかったので作戦を変更して臨みました。僕のスティントでもクルマが良く、ああいうコンディションは得意なんだろうな、と感じました。その後は小倉選手とモリゾウ選手に任せ、面白いレースになるかと思ったのですが、そのとおりになったと思います。モリゾウ選手も『楽しかった』と言って下さいましたし、18歳のTGR-DCドライバーのバトルも良かったのではないでしょうか。まだ開発途中で生まれたばかりですし、乗っている側からはまだまだとも感じるのですが、まわりから速いという声もかけてもらい、ノートラブルで走れたことは開発を頑張って下さった皆さんにとっても良かったのではないでしょうか」

#28監督コメント
Kazuya OSHIMA 大嶋 和也
「決勝レースでのトラブルはまだ原因が特定できていませんが、少し残念でしたね。クルマとしてはこの岡山国際サーキットでのレースに向けて進化はしてきたものの、新しいトライだったペダルボックスの件も含め、もう少しクルマへの理解が進んでいればトラブルもなかったと思います。決勝レースで起きたトラブルについても、起きた後の対応というか、トラブルシュートへの対応なども、もう少しピットから早く出せたのではないかという気もしています。そういった点も含め、チーム全体がいろいろな経験を得ることができたと思いますし、みんながまた成長して次に進むことができればと思っています。次戦の富士は今シーズン最終戦ですし、集大成にしたいですね」
