手ごたえは得つつもポイントを獲得できず、悔しい一年に終わった2022年。ROOKIE Racing は2023 年も、NTT Communications のブランド『docomo buisiness』をタイトルスポンサーに迎え、『docomo business ROOKIE』として全日本スーパーフォーミュラ選手権に挑戦する。今季も大嶋和也をドライバーに据える1台体制だが、新たに大嶋のことも、ROOKIE Racing のことも熟知する石浦宏明を監督に招聘。石浦が開発ドライバーを務め、オーバーテイクのしやすさや環境に配慮した素材などを使った新シャシー、SF23 を使った新たなシーズンの開幕戦に臨んだ。このオフシーズンは3月6〜7日に三重県の鈴鹿サーキットで一度合同テストが行われたが、ここで大嶋は2日目午前にトップタイムをマークするなど、2022 年までの苦境からは脱している感触があった。今季は新シャシー導入初年度ということもあり、全チームの戦力図がある程度リセットされる。チームも体制を強化し、昨年果たせなかったポイント獲得、そして何より、大嶋に気持ち良くレースを戦ってもらうべく、開幕戦となるチームの地元の富士でのレースに臨んだ。
迎えた開幕ラウンドの第1戦/第2戦は、4月7日(金)午後1時40 分から1時間30 分の専有走行が予定されていた。例年開幕前に富士で行われていた合同テストが今季はなかったことから、この1時間30 分の走行が4月8日(土)の第1戦の予選/決勝レースを前にした貴重な走行の機会。ここでセットアップを煮詰めるべく、チームは慌ただしい春のスケジュールのなか準備を整えていた。
しかし、迎えた7日の富士スピードウェイは雨模様。特に午後は降水量が強まる予報が出ていた。そのため、貴重な専有走行は直前になって中止が決定してしまった。
全ドライバーにとって同じ条件だが、貴重な走行機会がなくなってしまったことで、第1戦の予選が初めての富士でのSF23 の走行という、今までにないシチュエーションとなった。
〈第1戦 公式予選 〉まさにぶっつけ本番となった4月8日(土)の公式予選。通常はノックアウト形式で行われるが、今回は専有走行が中止となったことから、予選は45 分間の計時予選に改められた。 大嶋はコースオープン直後からピットアウト〜インを繰り返しながらセットアップの確認とニュータイヤを履いてのアタックを続けていくことになるが、ピットでは思わぬトラブルが起きていた。無線が通じず、大嶋との意思疎通がとれないのだ。ピットに戻るたびにエンジニアや石浦監督がコクピットの大嶋に顔を近づけながら変更箇所などを打ち合わせていく。
終盤、12 周目に大嶋は1分22 秒964 というタイムを記録し、最終的に15 番手という位置につけた。ただ、これは大嶋 が望んだセットアップの状態ではなかった。やはり無線が通じていないことで、大嶋とピットの認識と一致していなかったのだ。とはいえ、クルマとしては悪い状態ではない。「昨年はセットが決まっていてもタイムが出なかった。でも今年は違います」と大嶋は語った。ただ無線がない状態でもコミュニケーションをとれるようにしなければならない。中団グリッドが得られたとは言え、チームには新たな課題も突きつけられた予選となった。
〈第1戦 決勝レース〉
予選から4時間ほどというインターバルで迎えた午後2時15 分からの第1戦の決勝レース。テストも鈴鹿での2日間のみ、週末の専有走行がない状況で迎える新シャシーでの開幕戦は、何が起きるか見えない状況で迎えた。気温18℃/路面温度29℃というコンディションのなかで迎えた決勝レース。15 番手からポイント圏内を目指すべく、集中して臨んだスタートだったが、「フィーリングがなかなか掴めませんでした」と大嶋の発進はあまり良いものではなかった。とはいえ、周囲では4台がエンジンストールに見舞われるなど、レースは序盤から荒れた展開となった。
大嶋は混戦のなか12 番手でオープニングラップを終えたが、今度は2周目のTGR コーナーで上位グループの争いのなかクラッシュが発生。レースはいきなりセーフティカーランとなる。この時点で大嶋は10 番手へ。ポイント圏内に食い込んできた。8周目にレースがリスタートを迎えると、大嶋はややポジションを落としてしまうが、フィーリングは良く、上位進出が可能な手ごたえがあった。10 周目にピットウインドウがオープンすると、アンダーカットを狙ってピットインを行っていく。チームはさらなる上位進出を目指し、迅速な作業を行っていくが、ここで右フロントタイヤの交換に思わぬ時間を要してしまった。「一瞬気持ちが折れかけました(苦笑)」という大嶋は遅れてしまったものの、この日は豊田章男オーナーもピットで見守っている。大嶋は気持ちを奮い立たせ、ふたたび入賞圏内に近づいていった。ライバルたちのほとんどがピット作業を終わらせると、大嶋の順位は11番手。ただレースはどんどんと終盤戦に入っていく。そんななか、36周目のTGR コーナーでアクシデントが起きた。9番手を争っていた#36 ジュリアーノ・アレジと#12 福住仁嶺がクラッシュし、TGR コーナーにパーツが飛散。レースは2回目のセーフティカーランとなった。このセーフティカーランの間に、まだピット作業を行っていなかった#19関口雄飛がピットインすると、大嶋は9番手に浮上した。ついに待望のポイント圏内だ。TGR コーナーには土砂なども出ていたことから、なかなかコースはクリアにならず、レースはそのままチェッカーフラッグを迎えることになった。大嶋の結果は9位。今季開幕戦にして、2021 年第3戦以来のポイント獲得を果たした。とはいえ、喜んでばかりもいられない。豊田章男オーナーからはチームをねぎらいつつも「すべて石浦が悪い(笑)!」という声がレース後冗談めかして出た。「ミスも自分の声のかけ方次第で変わるかもしれませんから。自分たちの要因で順位を下げることがないようにしたいですね」と石浦監督はさらなる上位進出へ向け、ポイント獲得を喜びながらも、気を引き締めた。
〈第2戦 公式予選〉
熱戦となった第1戦から一夜明け、迎えた4月9日(日)の富士スピードウェイは、朝から快晴に恵まれ、多くのファンが詰めかけるなか、午前9時から公式予選が行われた。この日は前日の計時予選とは異なり、通常どおりのノックアウト形式に変更され、大嶋はQ1 のA組から走行に臨んだ。
前日の勢いそのままに、大嶋が目指すのは昨年なかなか実現できなかったQ1 の突破。
開始とともに隊列の最後尾からコースインした大嶋は、気温10℃/路面温度20℃というコンディションのもと、まずは1周アウトラップをこなすとそのままピットイン。ニュータイヤに履き替え、比較的タイミングとしては早めとなる、残り6分で再コースイン。1分31 秒310、さらにチェッカーに向けて一気にアタックラップに突入。ここで1分23秒958 までタイムを縮めた。ただ、僅差のなかで終わってみれば大嶋の順位はA組の9番手。今季初のQ2 進出は果たせなかった。「昨日とのコンディションの違いなのか、なかなかタイヤが温まらなくて。とはいえ3周しかできないので、きちんとしたアタックができませんでした」と大嶋。とはいえクルマの状態は悪いわけではなさそうだった。
〈第2戦 決勝レース〉
迎えた第2戦の決勝レースは、午後2時30 分にフォーメーションラップのスタートが切られた。気温13℃、路面温度32℃というコンディションで、午前に続き風が冷たいなかでのレースとなった。
17 番手グリッドからスタートした大嶋は、1周目にストールした車両が出るなか、スタートを決め14 番手にポジションアップ。#50 松下信治を追っていく展開となる。予選後、大きくセットアップを変更し、富士に合ったものに変えたが、これが功を奏し、大嶋のフィーリングは非常に良好。戦える手ごたえを得て序盤戦を集団のなかで戦った。
そんななか8周目、後方グループで戦っていた#36 ジュリアーノ・アレジが、TGR コーナーで#6 太田格之進と接触しスピン。エンジン再始動ができず、イン側にストップしてしまう。この車両回収のため、レースはセーフティカーランとなった。このセーフティカーは9周目、そして10 周目と続いていく。ピットインウインドウがオープンするタイミングまでやってきた。すると、直前にペナルティを受けていた#20 平川亮をのぞく全車がタイヤ交換義務をこなすべく、ピットロードに車両を向けた。
docomo business ROOKIE にとって、これは大きなチャンスと言えた。なぜなら、2台体制のチームは1台ずつ作業を行わなければならないからだ。そのロスタイムをとってでも、その方が速い。しかしdocomo business ROOKIE は1台体制。ロスタイムは一切ない。うまく作業をこなせば大きな順位アップもあり得た。
前日にはピット作業でタイムを失っしまったこともあり、チームは一丸となって作業を終える。しかし直後、電動のジャッキが下がらなくなるまさかの事態が起きた。これで2秒ほどを失い、さらに後方からピットインする車両を待つ間にさらにタイムロス。コースに戻ると、大嶋の順位はコースに戻ると、大嶋の順位は14 番手とピットイン前とほぼ変わらず。ここでしっかり作業をこなせていたら、7〜8番手にジャンプアップする可能性があっただけに、痛いミスとなった。
とはいえ、レースはまだまだ長い。大嶋は好フィーリングとともに、#50松下や#65 佐藤蓮とバトルを展開していく。28 周目から32 周目には三つ巴のバトルでサーキットを沸かせた。「上位争いではないので、そこまで楽しいものではなかったですが」という大嶋だったが、間違いなく上位をうかがえるポテンシャルをみせ、チームを勇気づけた。36 周目にはついに#50 松下をかわす走りをみせ、12 番手に。ファイナルラップには最後までピットインを遅らせた#20 平川がピットインし、大嶋は11 位でフィニッシュすることになった。
惜しくも2戦連続のポイントには届かなかったが、間違いなくポイント圏内を争うポテンシャルはみせつけた。ただ逆に言えば、それだけにピットでのミスが惜しかった。
レース後、石浦監督は「このチームは、表彰台争いまでいけるポテンシャルがあると思っています」とチームをさらに鼓舞した。次戦は2週間後にすぐやってくる。docomo business ROOKIE は、さらなる上位進出に向け気合を入れ直し、地元での開幕ラウンドを締めくくった。
DRIVER 大嶋 和也 Kazuya OSHIMA
「今回は初日から無線のトラブルもあり、第1戦は右フロント、第2戦はジャッキとピットでタイムロスをしてしまいました。第1戦は昨年に続きフロントがない感触があったものの、第2戦に向けて大きくセットを変更したところクルマのフィーリングがかなり良く、上位のタイムで走ることができていました。結果的には、最低限第1戦でひさびさにポイントを獲得できたので、応援してくださる皆さんにもチームにとっても明るい要素だったと思います。第2戦のセットも今後役に立つと思っていますし、今シーズンかなり前向きに臨めると感じた週末でしたね。第1戦、第2戦とも上位にいけるチャンスを逃してしまったところは改善していかなければいけないので、チームと一緒に僕も頑張っていきたいと思います」
DIRECTOR 石浦 宏明 Hiroaki ISHIURA
「第1戦は大嶋選手が展開をうまく抜けて入賞を果たしてくれました。トップ10 を争える実力があるのを感じられましたし、今回ポイントを獲るという目標のひとつを達成できたので、さらに上の目標を目指していきたいです。第2戦についてはピットでのロスが悔やまれるところでした。そこまでは予定していたものをしっかり出せていましたので本当に反省点です。とはいえ、その後も自力でオーバーテイクできる力をみせてくれたことは非常にポジティブで、第1戦から第2戦へ変更したエンジニアのトライもしっかり反映できていました。オフから好調と言われていたことが、チームとしても戦える実感になったと思います。今後さらにパフォーマンスを上げていけば、表彰台争いはできると確信しています。次戦鈴鹿以降もしっかり対応していきたいですね」