NEWS & REPORT

ENEOS スーパー耐久シリーズ2024Empowered by BRIDGESTONE第1戦 SUGOスーパー耐久4時間レース

もっといいクルマづくりへの挑戦はさらなる高みを目指す

 2024年も、ROOKIE Racingの『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』への挑戦の季節がやってきた。シリーズ名称も『ENEOS スーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE』と改められた新シーズンのスーパー耐久へ向け、ORC ROOKIE Racingとして2台、中升ROOKIE Racingとして1台体制で臨む。
 昨年のもてぎ以来の登場となったORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは、市販車のモデルチェンジにともない新ボディを投入。DATも冷却性能向上や新開発のLSD、ドア等のカーボンパーツ投入が図られた。ドライバーラインアップは不変で、モリゾウ/佐々木雅弘/石浦宏明/小倉康宏という4人がドライブする。
 一方、豊田大輔と大嶋和也、佐々木栄輔に加え、新たに坪井翔をラインアップに迎えたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptも新ボディを投入。1.6リッターに排気量を拡大したほか、ミッションの改良、低重心化、前後重量配分の改善、ボディ剛性のアップなど、次期GR86を見据えさまざまな課題に取り組む。
 そして2023年に悲願のST-Xクラスチャンピオンを獲得した中升ROOKIE AMG GT3は、鵜飼龍太、蒲生尚弥、片岡龍也の3人は変わらないが、新たにジュリアーノ・アレジをドライバーに加え、栄光のカーナンバー1をつけて臨む。もちろん狙うは2年連続タイトルだ。
 今季も3台がそれぞれの目的をもって臨むROOKIE Racing。その走行は4月18日(木)の有料スポーツ走行から始まった。

有料スポーツ走行/STEL専有走行
4月18日(木)〜4月19日(金) 天候:晴れ 路面:ドライ

 レースウイークの初日となった4月18日(木)は晴天のもと春の陽気となったが、この日は各グループ25分の走行が3本行われ、ORC ROOKIE GR Yaris DAT concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの3台は週末に向けた走行を重ねていった。
 明けて4月19日(金)は、引き続き晴天ではあるものの朝から冷たい風が吹き荒れるコンディション。ROOKIE Racingの3台が出走するグループ1は、午前9時から走行がスタートした。ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは午前の1回目は佐々木雅弘からコースインし、モリゾウ、そして小倉康宏が14周を周回。午後1時30分からの2回目は佐々木、モリゾウ、小倉、モリゾウと交代しながら周回した。「新車になってからは今日初めて乗りましたが、ボタンの配置が変わっていたりして(笑)。その操作に慣れる必要がありましたが、良いクルマになっています」と小倉は笑顔をみせた。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは午前は坪井翔から大輔、佐々木栄輔と交代しながら周回。午後も坪井、佐々木、大輔と走行をこなした。SUPER GTでは二度のチャンピオンを獲得している坪井はひさびさのROOKIE Racingでの活動だが、「今まではとにかく速く走ることが仕事でしたが、今年は『もっといいクルマづくり』の活動なので、まだその点は試行錯誤しています。知識不足やコメントの仕方など勉強が必要ですし、スタッフの人数も多いので顔を覚える必要があります(笑)。でも、今までと違ったやり甲斐がありますね」と語る。
 ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptについて最も良く知る存在のひとりである大輔は、新車になったことについて「すでに自分が乗ったときはある程度良くなっていましたが、昨年いちばん良かったときと比べると改善の余地があります」という。しかし、ポテンシャルへの期待も感じているという。「まだ自分の身体の感覚的な重心と、クルマの重心がマッチしていないのと、クルマの姿勢のコントロールがいまひとつ分かりづらいですが、もう少し煮詰まってくると、楽しいクルマになるでしょうね」
 そして中升ROOKIE AMG GT3は、午前は蒲生からアレジ、鵜飼と交代。午後はアレジと鵜飼がふたりで走行。午前はトップタイム、午後は3番手につけた。「自分も2年目で、少しは余裕ができるかと思いましたが、ひさびさのSUGOはやはり難しいです(苦笑)」というのは鵜飼。「プロのすごさを感じますし、継続することで知識と経験がさらに深まると改めて感じました」と今季に向けて語った。3台がそれぞれの課題を感じての専有走行となった。

32号車 決勝 4月21日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

 予選終了からわずか3時間ほど。長丁場の4時間レースがやってきた。今回、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptはORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの背後、総合7番手からスタートを切った。ステアリングを握ったのは佐々木雅弘だ。
 スタート直後、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptをかわして#271 シビックを追っていくが、後方からはST-2クラスのトップである#225 GR YARISが近づいてくる。ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptはの目的は、DATを使ってもST-2クラス車両と互角に戦えるように仕上げていくことだが、やはりペースはMTで速さがある若手が乗る#225 GR YARISに分がある。10周目に先行を許してしまうと、他のST-2車両、ST-3車両にも少しずつかわされてしまった。
「目一杯でしたね。セットアップがうまくいっていないのと、いろいろなトライをしているなか新開発のLSDを使っていますが、乗りづらいときがタイムが出るんですよ」と佐々木は説明した。この新開発のLSDについては素材も新しいものだというが、「どう直せばニュルブルクリンクに持っていっても性能が劣化しないのかを今回やっているところです」という。
 このLSDの開発がうまくいき、DATのポテンシャルを一段上げることができれば、開始から1時間強を過ぎたタイミングで導入されたセーフティカーランのタイミングを使って佐々木から交代し、速いときで1分34秒台のラップを刻みながら自らのスティントをきっちりとこなしたモリゾウのタイムアップにも繋がるはずだと佐々木は言う。
「今回、僕たちにとっていちばん喜ばしいことだったのが、モリゾウさんのタイムですね。でも、そのタイムをさらに1秒上げることができれば、他のジェントルマンドライバーに対しても全然速いタイムになりますし、ST-2クラスに入ることができたときも、武器になるという話を石浦監督ともしたんです」と佐々木。
 着実にレースを走り切ったモリゾウは、76周を終えピットに戻り、小倉にORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptのステアリングを託した。狭いSUGOでフルコースイエローなども入るなか、小倉は1分35秒〜36秒の安定したラップを刻むと、40分ほどのスティントをこなした。
「LSDの効きにバラつきがありましたね。そのあたりを直していくともっと進化していくと思います」と小倉は佐々木同様の改善点を指摘した。ちなみに、モリゾウも小倉もずっとDレンジでの走行。「楽ではありますけど、気を抜いて走るとオーバースピードになったりしますからね。Dレンジでの走行は自分の思うどおりにいくこともありますが、しっかり減速されないときもあったりしますし、混戦のなかで慣れていないと難しいときもあります」と小倉。
「面白いですよ。クラッチ屋としてはどうしようかとも思いますが(笑)。でもDATが良くなることで、マニュアルの価値も上がると思うんです。お互い切磋琢磨しながらやっていくことが、自動車業界のレベルアップに繋がると思います」
 進化をみせるとともに、改善点も見つかっているORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptのアンカーを務めたのは石浦。予選しか走っていないが、とはいえそこは経験豊富なドライバー。チェッカーに向け快走を続けていた。しかし終盤、まさかのシーンに遭遇した。
 スポーツランドSUGOで最も高い位置にあるハイポイント〜レインボーコーナーを通過していた石浦の眼前に、小動物が飛び出してきたのだ。イエローフラッグでこれを察知していた石浦はしっかりと避けることができた。
 そんな終盤を走り切った石浦は、147周を走破しST-Qクラス最速でチェッカーを受けピットに戻ると、モリゾウがケーキを持って現れた。石浦は4月23日が誕生日。2日早いお祝いだ。
 ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptの初戦は、成果と課題を得つつ、和やかな雰囲気のなかで幕を閉じた。


28号車 決勝レース 4月21日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

 公式予選を終え、短いインターバルで迎えた決勝レース。今回ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはグループ1の5番手からスタートすることになった。前には最速のST-Xクラス、後方にはST-2車両が続く緊張感が高いグリッドだ。
 そんな決勝でスタートドライバーを務めたのは今季からフル参戦する佐々木栄輔。昨年もスーパー耐久でドライブした経験はあるが、スタートを担当するのは初めてだ。プロのレーシングドライバーではない佐々木にとって緊張の一瞬となった。しかしスタート直後、佐々木雅弘がドライブしていたORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptをはじめ、続々とオーバーテイクされ1周目は9番手。2周目には17番手までポジションを落としてしまった。
「今回、初の予選、初のスタートだったのですが、駆け引きをしながらクルマをどうコントロールするかという経験がなかったです。速いクルマは行ってしまうし、うしろからも来るしで、まわりばかり見ている状態になってしまいました」と佐々木。とはいえ、これも経験。レースが落ち着き始めてからは、自分のペースを取り戻し始めた。
「このクルマは2023年も乗らせてもらいましたが、これまで積み上げてきたものが2024年のこのクルマに活かされています。どちらかというと次の市販車を意識しているもので、号口で使えるパーツも多用して仕上げているので、狭間のところにいると思います。でも、これから改善をかけていったときに、自分も号口の開発をしているので、何を変えたらどうなるのかが分かるようになります。号口もレースもレベルアップできる開発ができるようになると思います」
 緊張を乗り越え、スタートの大役を果たし38周を終えピットインした佐々木からステアリングを受け継いだのは大輔。セーフティカーランを挟みながらラップを刻んでいくが、「ひさびさのSUGOでのレースでしたが、クルマがまだまだ難しかったですね」とスティントを振り返った。
「安心してブレーキを踏む、曲がるということが気持ち良く感覚どおりできているかというと、まだできていない。自分がクルマに合わせなければならない状態ですね。タイヤが良いときはカバーしてくれますが、タレてくるとクルマの悪いところが出てきてしまう。それとミッションが入りづらいんです。壊れないとは思いますが、壊れそうな感覚がある。そういったアップデートの方向性を見直した方が良いかもしれません」
 スタートからふたりが繋いできたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは大嶋、そして坪井と委ねられ終盤に向けて終盤に向けて周回を重ねていった。
 今季はライバルのBRZが参戦しておらず、順位を争うこともない。そのまま坪井が走り切ることも可能だったが、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはピットに向かい、ガレージに入れられた。
 周囲は「トラブルか……!?」とざわめいたが、実際はトラブルではなかった。ORC ROOKIE Racingは、アンカーを佐々木に託すべく、最後にセットアップの変更を可能な限りの時間で行うためにガレージに入れたのだった。
 ふたたびコースインしたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptを駆った佐々木は、28周を走りしっかりとチェッカーを受けた。スタートとチェッカーという大役をどちらも経験した佐々木がピットに戻ると、チーム全員から大きな拍手が贈られた。これもORC ROOKIE Racingのチームワークの表れだ。
 新たな気づき、そして課題が見えたORC ROOKIE GR86 CNF Concept。次戦の富士SUPER TEC 24時間レースではWRC世界ラリー選手権王者のカッレ・ロバンペッラをドライバーの一員に迎えることになる。
 次期GR86に向けて、『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』は新たなる次元に入ったことを印象づけた開幕戦となった。

1号車 決勝レース 4月12日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

 迎えた午後1時25分からの決勝レースで、中升ROOKIE AMG GT3のスタートドライバーを務めたのは、スーパー耐久で初めてのスタートとなったアレジ。とはいえ、これまで多くのレースでスタートは経験しており、問題なく1コーナーでトップを守る。ただ序盤、バックマーカーが出はじめると、速さをみせる#23 メルセデスが接近。アレジは何周にも度るバトルに巻き込まれていった。
 ただ、ラップダウンをうまく使いながらアレジはポジションを死守。すると、先に#23 メルセデスが先にピットに入っていき、これで展開は楽になるとともに、このタイミングが勝敗を分けた。
 アレジは着々とラップを進めていったが、そんななかスタートから1時間5分が過ぎたところで、ST-3クラス車両が4コーナーでクラッシュしてしまう。この処理のためにセーフティカーが導入されたが、この機を逃さずアレジはピットへ。中升ROOKIE AMG GT3はアレジから鵜飼に交代したが、このタイミング、そして鵜飼のスティントでセーフティカーランをこなしたことが勝利に繋がっていった。
「ペースも良かったし、うしろから近づいてこられたけれど、大きなリスクをとる必要もなかったので、集中したレースができました」とアレジは序盤の走りを振り返った。「片岡監督もそうだし、鵜飼さんも蒲生さんもうまく乗ってくれる。エンジニアも含めて、今日のチームは完璧だったと思う」
 ステアリングを受け継いだ鵜飼は着実にラップを重ねていくと、85周を終えてピットイン。このラップで1回ピットが多い#23 メルセデスに先行を許したものの、ここは戦略の違い。レース後半を蒲生に託すことになった。
 しっかりと自らの仕事をこなした鵜飼だが、反省することも多い様子。「自分としてはもう少し速く走れないといけないと思いました。レースになると他車の抜き方や、タイヤのピックアップの処理など、難しさがありました。気をつけて走っていましたが、走りが小さくなってしまった」と鵜飼。
「クルマの状態を把握しながら、何が起きてどう対応するかを大きくやらないと、他車と走るのに精一杯になってしまう。そういったマネージメントを次に向けて取り組んでいきたいですね」
 鵜飼からステアリングを受け継いだ蒲生がコースに復帰すると、その差は1分18秒ほど。1周以上の差があるが、#23 メルセデスは最後のスティントにAドライバーを残している。この差を蒲生がいかに削りとっていくかに注目が集まった。蒲生は89周目、90周目とファステストラップを更新しながらまずはラップ差を解消しにいく。
 #23メルセデスは119周を終えピットインしAドライバーに交代。逆に中升ROOKIE AMG GT3は、もう一度給油を行わなければ走りきれない。差は僅差になるかとも思われた。
 そんななか、蒲生は138周目にピットイン。給油のみを行いピットアウトする。#23 メルセデスはその間に先行したが、その差はわずか。すぐに蒲生はテールをとらえた。
 #23 メルセデスも素晴らしい走りで蒲生に対抗するが、プロとジェントルマンの差がやはりあり、143周目の2〜3コーナーの攻防で乱れた姿勢を逃さず、蒲生はトップに浮上。そのまま中升ROOKIE AMG GT3は大きなマージンを築き、今季開幕戦を制することになった。
「セーフティカーのタイミングがラッキーでしたが、アレジ選手が序盤をそつなくこなしてくれましたし、鵜飼選手のスティントでかなり流れを作ることができました。トラブルが心配でしたが、クルマもチームも2年目で、不安なく走ることができました。カーナンバー1をつけるチームの厚み、信頼性が上がっていることを感じましたね」と片岡監督も満足げな表情をみせた。
 中升ROOKIE AMG GT3の連覇への道は、完璧な開幕戦でスタートすることになった。