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ENEOS スーパー耐久シリーズ2024Empowered by BRIDGESTONE第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース

総合連覇達成も、液体水素2年目の挑戦は困難との闘いに

2024年のスーパー耐久シリーズは、4月の第1戦SUGOを終え、いよいよシリーズ最長のレースである第2戦NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースを迎えた。ROOKIE Racingにとっては、地元での一戦であることはもちろん、『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』の原点とも言えるレースであり、良い思い出も悔しい思い出もたくさん詰まったレースだ。
 そんな大切なレースに向け、ORC ROOKIE Racingの32号車は、“水素カローラ”ことORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを今季初登場させた。液体水素での挑戦2年目となるが、オフの間にポンプを改善。昨年は二度のポンプ交換があったが、今季はついにポンプ交換なしで24時間走破を予定した。また、異形の燃料タンクを投入し、これにともない航続距離も増加。また走りながらCO2を回収する装置も改善するなど、多くの進化とともにレースに臨んだ。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは第1戦SUGOから大きな改良は加えられているわけではないが、ドライバーの思いどおりに動くクルマづくりを進めていった。そして中升ROOKIE Racingは、昨年はこの富士を制し、チャンピオンへの流れを作った。もちろん狙うは連覇だ。
 そんな一戦に向け、頼もしい味方たちも加わった。32号車には昨年に続きヤリ-マティ・ラトバラ、そしてモリゾウの誘いで近藤真彦も加入した。また28号車には大政和彦、そしてSUPER GTでROOKIE Racingとともに戦う福住仁嶺が加わった。目的をもって臨むROOKIE Racing。その走行は4月18日(木)の有料スポーツ走行から始まった。

スポーツ走行/STEL専有走行
5月22日(水)〜5月23日(木) 天候:曇り 路面:ドライ

 長い富士SUPER TEC 24時間のレースウイークは、5月22日(水)のスポーツ走行から始まった。晴天のもと中升ROOKIE AMG GT3、ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptともに週末に向け準備をスタートさせた。これまで2日間4回もの開発テストを重ね、熟成に熟成を重ねてきたORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptも、まずは順調にラップを刻んでいった。
 走行2日目となった5月23日(木)は曇天のもと午前9時50分から専有走行1回目が、午後2時50分から専有走行2回目が行われた。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは午前はモリゾウ、この日から合流した近藤とラトバラが交代しながら走り、午後は佐々木雅弘がチェックした後、近藤、ラトバラ、小倉康宏と交代。車両は大きなトラブルはなかったが、ラトバラのドライブ中にABSのトラブルがあったのが気になるところ。ただ初日からモリゾウ、近藤、ラトバラ、小倉の“チーム内ベストタイム争い”は盛り上がりをみせ、走行後もドライバー全員で談笑しながら車載映像を長く見つめているシーンが見られた。
 ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、坪井翔から福住仁嶺、佐々木栄輔、大政和彦と交代。午後も同様に交代しながらラップを重ねた。「僕は水曜しか走りませんでしたが、事前のテストで多かった課題に対していろいろと取り組み、走り出しのバランスは良くなかったものの、かなり走れるようになってきました」と語ったのは大嶋和也監督。
 一方、浮かない表情だったのは中升ROOKIE AMG GT3の片岡龍也監督だ。午前は蒲生尚弥、ジュリアーノ・アレジ、鵜飼龍太と交代しながら走り、午後は片岡もステアリングを握ったが、「悪くはないのですが、いまひとつ良くもありません。トラクションはあるけど曲がりづらく、曲がりやすくすると、今度はトラクションがなくなるんです。このままでもいけるけど、できればもっと気持ち良く走りたいです」とセットアップに悩んでいると明かした。今季は総合優勝争いも熾烈な戦いが予想されており、やはりスピードは欲しいところだった。
 今回は24時間レースということもあり、陽が落ちた午後7時からは夜間練習走行が1時間行われた。中升ROOKIE AMG GT3はセットアップを進めるべく、鵜飼をのぞく3人が周回。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはレースでの夜間走行を担当する予定の佐々木とラトバラがドライブした。一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはこの夜間走行は走らず、翌日の予選日に備えていった。

公式予選
5月24日(金) 天候:晴れ 路面:ドライ

 5月24日(金)は、午前はコース上での全車撮影が行われ、走行は午後0時から公式予選のみが行われるスケジュール。ROOKIE Racingは2グループの予選にORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptとORC ROOKIE GR86 CNF Conceptが出走。そして中升ROOKIE AMG GT3はXグループの予選に臨んだ。
 多くのメディアの注目を集めているORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、この予選で白熱のチーム内タイムアタック合戦が行われた。モリゾウのタイムを上回らんとする近藤、ラトバラだったが、まずはAドライバー予選でモリゾウが2分01秒401というタイムを記録。思わず近藤も「本当に速い」と舌を巻いた。ラトバラ、近藤が2分02秒919、ラトバラが2分01秒080と、そのタイムが記録されるたびにピットは大きな盛り上がりに包まれることになった。液体水素という大きな挑戦をともなった参戦ではあるが、これこそ“プロフェッショナルながらアットホーム”というROOKIE Racingの雰囲気そのものの予選となった。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF ConceptはAドライバー予選で佐々木栄輔が1分54秒663を記録。さらにBドライバー予選では坪井が1分53秒196を記録。合算で総合31番手につけてみせた。
 そして、中升ROOKIE AMG GT3は、Aドライバー予選で鵜飼が1分42秒444、Bドライバー予選でアレジが1分40秒804を記録したが、今回香港からスポット参戦している#33 メルセデスのふたりのドライバーが速さをみせポールポジションを獲得したことから、中升ROOKIE AMG GT3は2番手からスタートを切ることになった。

32 決勝レース
5月25日(土)〜26日(日) 天候:曇り〜雨〜曇り 路面:ドライ/ウエット/ドライ

 いよいよ迎えた5月25日(土)の決勝レース。午前9時20分から行われたウォームアップを経て、いよいよ午後4時、多くの注目を集めるなか決勝レースの火ぶたが切って落とされた。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのスタートドライバーを務めたのはモリゾウだ。
 序盤、すぐに後方から速いグループ1の車両が迫り、コース各所でトラブルなども多く発生するなか、モリゾウは安定したペースでレースを進めていく。今回、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは夜間に30周の航続距離を実現することを目指しているが、まずは一度目のピットインは18周目。モリゾウは早めにピットにORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを向け、一度目の給水素を実施。多くのファンが心待ちにした近藤に交代した。
 ただ、近藤に変わって16周が過ぎようかというタイミングで、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはパナソニックコーナーでスローダウン。コーナーイン側に突如停止してしまった。
 実はこのトラブルは、これまで開発テストを行ってきた時点でも発生していた、水素を送るためのポンプの“空打ち”と呼ばれる症状で、特定の状況になるとセクター3で発生していたものだったが、何重にも渡る対策を行っていたことから、今回その心配はないと思われていたものだ。
 ピットで状況を見守っていた石浦監督は、テスト時にまったく同じ状況を体験していただけに、すぐに無線で近藤に指示を送る。イグニッションのオン/オフを行うと症状が回復することから、コクピットの近藤は再起動を実施。なんとかピットに戻ることができた。
 とはいえ、停止していた場所はコーナリングポイントで、やや危険な状況でもあった。石浦は「事前にちゃんとお伝えしておくべきでした。申し訳ないことをしてしまいました」と悔しがった。
 ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは一度ピットで確認を行い、ヤリ-マティ・ラトバラに交代しふたたびピットアウトしていく。ただ、今度は78周をこなした段階で、ラトバラはABSの不調を訴えてふたたびピットに戻ってきてしまった。
 車重など、特殊なレーシングカーであるORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはABSも専用のものが使われているが、ハードではなく、ソフトに関連するトラブルだった。専有走行で一度症状が出ていたもので、対策も行ってはいたが、再度トラブルが発生してしまったのだ。
 ABSは安全にも関わるもので、チームは抜本的な対策をサーキットでスタートさせた。同時に、水素ポンプに関わるトラブルの解消にも動いた。走れないことは残念だが、エンジニアたちを成長させる良い機会でもある。一度スポンサーとサーキットを離れていたモリゾウは、ピットに戻り報告を受けると、改善を期待し一度サーキットを後にした。
 エンジニアたちは、急遽現場でABSの新たなプログラムを作り上げ、ハード面でも対策を施していった。富士スピードウェイには花火が上がった後、雨が降り出したが、路面を濡らしきった午前0時過ぎ、テントでレーシングスーツ姿のまま待ち続けた佐々木に改善点が説明され、午前0時14分、ふたたびORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは佐々木のドライブでコースに戻っていった。
 雨の夜のなか、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、佐々木、石浦のドライブで繋ぎ、深夜3〜4時には石浦のドライブ中に目標の1スティント30周を、さらに続くスティントでは31周を達成。再度ラトバラに交代する。
 ただ午前7時37分、ふたたびABSに不調を抱え再ピットイン。その後も佐々木、小倉と交代したが、1時間を超える作業が二度。最後は佐々木がドライブし、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは332周でチェッカーを受けた。
 液体水素での2年目の挑戦は、事前のテストでは出なかった多くのトラブルに悩まされた。しかし、同時に多くの教訓と経験を得た。メンバーたちからは、困難に直面した喜びすら感じられた。
 まだチャレンジは2年目。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの挑戦は、まだまだ未来へ向けて続いていく。

28 決勝レース 5月25日(土)〜26日(日) 天候:曇り〜雨〜曇り 路面:ドライ/ウエット/ドライ

 多くのファンを集め、曇天のもと迎えた5月25日(土)午後3時からの決勝レース。これまで順調にレースウイークを進めているORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのスタートドライバーを務めたのは豊田大輔だ。序盤から速さが異なる各クラスの車両たちが入り乱れるなか、順調に序盤のレースを進めていくと、開始から1時間19分をきっちりとドライブ。続いてピットで待ち構えていたのは佐々木栄輔だ。
 第1戦でもしっかりとレースを戦い経験を積んでいた佐々木だったが、スティント序盤こそ順調に走行を進めていたものの、交代から1時間前後というタイミングで思わぬトラブルに見舞われてしまった。まず佐々木は、コース上の危険を知らせる黄旗区間での追い越しによりドライブスルーペナルティが課されてしまう。さらにそのペナルティを消化しようとしたタイミングで、今度は焦りが出たためかピットレーンのホワイトラインカットをしてしまった。こちらもドライブスルーペナルティ。立て続けに二度の違反を犯してしまった。
 開発ドライバーが本業である佐々木にとってはこれもまた糧となるもの。僅差の争いがあるわけではないST-Qクラスだからこそドライバーも成長していくのかもしれない。ピットに戻った佐々木は恐縮しきりだったが、大嶋和也監督は笑顔でペナルティを諫めつつ、佐々木を元気づけた。
 佐々木から交代したのは、大政和彦。この第2戦富士SUPER TEC 24時間レースが初めてのORC ROOKIE GR86 CNF Conceptでのレースとなったが、安定したペースでラップを重ねていった。この頃には、サーキットは陽が落ち暗くなっていく。ここからはナイトセッションだ。
 監督も兼務する大嶋だが、夜間走行をものともせず、安定したペースで夜のダブルスティントをしっかりとこなしていくと、2時間40分以上の長いドライブを経てORC ROOKIE GR86 CNF Conceptをピットに戻した。時刻は午後11時が近づいていたが、ここで大嶋から交代したのは坪井だ。
 ただこの頃から、富士スピードウェイには雨が降り出した。次第に路面が濡れていくことになるが、坪井はそんな状況下でもさすがの走りでラップを続けた。
 しかし、そんな坪井の頑張りに対し思わぬトラブルが襲いかかった。突如パワーを失い、時速10km/hほど程度しか出なくなってしまったのだ。坪井は安全に配慮しながら、なんとかORC ROOKIE GR86 CNF Conceptをピットに戻したが、原因は燃料センサーのトラブル。原因究明と作業には1時間13分ほどを要してしまった。
 この頃にはすっかりコースはウエットとなっていたが、坪井から交代した福住は、順調にダブルスティントを消化。早朝まできっちりと繋げ、明るくなってから二度目のスティント担当となった大輔に。ここからは大輔がダブル、大政と交代。佐々木もダブルスティントをこなし、序盤のミスを取り返す走りをみせた。
 午前11時過ぎからは、ふたたび坪井がORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのコクピットに乗り込むと、537周目には1分54秒276というこのレースでの最速タイムを記録する。
 その後はチェッカーまで快調な走りをみせたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、福住、そしてフィニッシュドライバーを大輔が務め、終盤接触によるスピンがあったものの、最終的に640周を走破し 24時間レースを締めくくることになった。
 佐々木のペナルティはまだしも、そして深夜の燃料系トラブルが大きなロスとなってしまったが、これもまた『もっといいクルマづくり』への大きな経験でもある。昨年は大きな手ごたえを得ていた開発の道だが、まだまだ終わりはないということだ。
 今シーズンは2戦を終え、手ごたえと課題を得続けているORC ROOKIE GR86 CNF Concept。まだその挑戦は続く。

1 決勝レース5月25日(土)〜26日(日) 天候:曇り〜雨〜曇り 路面:ドライ/ウエット/ドライ

 迎えた5月25日(土)午後3時からの決勝レース。今回、中升ROOKIE AMG GT3は通常のレースと同様4人のドライバーラインアップで臨んでいるが、24時間の長丁場。鵜飼龍太を明るい時間帯に走らせたい一方で、監督も兼務する片岡龍也がいつドライブするか考えなければならない。昨年と同様、片岡はなるべくレース序盤に自らの担当スティントを済ませ、レース後半は監督に専念していく作戦を採った。
 予選2番手からスタートした中升ROOKIE AMG GT3は、その片岡がスタートドライバーを担当。序盤ジェントルマンドライバーがスタートを担当した#33 メルセデスをオーバーテイクしたものの、毎戦激しい戦いを展開している最大のライバルである#23 メルセデス、そしてプロがドライブするときに速さを発揮する#81 GT-Rと三つ巴のトップ争いを展開していった。
 レースは序盤から他クラスでトラブルやアクシデントが相次ぐものの、フルコースイエロー(FCY)導入で処理されることが多く、戦略に差を生むセーフティカーが入ることなくレースが続いていく。中升ROOKIE AMG GT3は片岡から鵜飼に交代、さらにジュリアーノ・アレジ、蒲生尚弥と交代しながらレースを進めていくが、#23 メルセデス、さらにコンスタントな走りを続ける#31 RC F GT3とはまったく差がついていかない。ピットインのたびに3台は順位を入れ替えていく展開となり、そのバトルは陽が落ち、花火が上がり、午後11時30分ごろに雨が降り出してからも延々と続いていった。レースはしばしばFCYが入るものの、3台は2周前後しかギャップがつくことがなく、緊張したレースを延々と続けていくことになった。
 夜間走行を片岡、アレジ、蒲生の3人で乗り切った中升ROOKIE AMG GT3は、午前6時にメンテナンスタイムと呼ばれるレース中に一度はこなさなければならないガレージ内での作業を実施。さらに午前7時40分には鵜飼がふたたびコクピットに戻り、定められたドライブ時間を減らしていった。
 朝の段階で、メンテナンスタイムを先に消化したことで#23 メルセデスとのは3周ほどのギャップがついていたが、午前10時、FCYのタイミングで#23 メルセデスがメンテナンスタイムを実施。ここでアレジがドライブしていた中升ROOKIE AMG GT3は、夜間に二度のペナルティがあった#23 メルセデスをついに逆転し、ふたたびトップに返り咲くこととなった。
 中升ROOKIE AMG GT3は、まだ鵜飼のドライブ時間を残している状況で、2台のギャップは1周ほど。さらに、#31 RC F GT3も2周ほどのギャップで続いていた。コース上での目に見えるバトルはないが、レースは4時間を切った最終盤に向け、緊迫の度合いを増していった。
 午前7時40分、レースが残り3時間を切ったタイミングで中升ROOKIE AMG GT3はピットに戻り、アレジから鵜飼に交代。その間に、先にピットインしていた#23 メルセデスが同一周回に戻し、さらにギャップをグングンと削りとってきた。鵜飼も粘りの走りをみせると、ちょうど700周で蒲生にスイッチした。
 一方、#23 メルセデスは736周でピットインすると、Aドライバーにスイッチ。ここで蒲生から交代したアレジはラストスパートを決め、最後は1周差をつけフィニッシュ。中升ROOKIE AMG GT3は富士SUPER TEC 24時間レース連覇を果たした。
「昨年は勝ちましたが、スピンとペナルティがありました。今年はとにかくアクシデント、ペナルティなし、確実性を大事にしていましたが、それを24時間やり切れたことは本当に大きいし、だからこそ勝つことができました」と24時間を戦い切った片岡監督は振り返った。
 この勝利によって、中升ROOKIE AMG GT3はランキングでも大きなリードを保つことに成功した。