目標には届かず。見果てぬ“ゴール”への挑戦はまだ続く
ROOKIE Racingにとって、悔しさも喜びも感じる週末となった第2戦富士SUPER TEC 24時間レースから約2ヶ月。2024年のスーパー耐久シリーズは第3戦を迎えた。舞台となるのは、大分県日田市のオートポリス。日本のコースでも屈指のアップダウンをもつサーキットで、タイヤに非常に厳しいコースだ。
そんな一戦に向け、ROOKIE Racingは開幕2戦とは異なる陣容で臨むことになった。開幕からST-Xクラスで連勝を飾っている中升ROOKIE AMG GT3は、今回は“お休み”。ORC ROOKIE Racingとして、2022年までと同様ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの2台体制で臨んだ。
第2戦富士では、ブレーキのトラブルで多くの時間をピットで過ごし、悔しい思いを味わったORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptだが、この第3戦を前にオートポリスでORC ROOKIE GR86 CNF Conceptとともに開発テストを実施。原因となっていたABSの対策をしっかりと施し、第2戦では確認しきれなかった液体水素ポンプの耐久性もテストを通じて確認することができ、技術陣を大いに安堵させることになった。また、今回は液体水素タンクから出るボイルオフガスを回収し、ピット周辺の発電に使用するなど新たな試みも行われた。
ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは大きな改良を受けているわけではないが、設計の狙いとドライバーの評価の詰めを愚直に繰り返していくべく、レースウイークに臨んだ。
スポーツ走行/STMO専有走行
7月25日(木)〜7月26日(金) 天候:晴れ・曇り 路面:ドライ・ウエット
迎えた第3戦オートポリスのレースウイークは、7月25日(木)の特別スポーツ走行からスタートした。オートポリスは標高が高いことから、熊本市内などに比べると気温もいくぶん低いが、それでも忙しなく動き回るスタッフたちにとっては過酷な暑さのなかでのレースウイークの幕開けとなった。
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、事前のテストで非常に多くの時間をドライブしていた石浦宏明は特別スポーツ走行と専有走行ではドライブせず、佐々木雅弘が確認とセットアップを行った後は、ほとんどの時間をモリゾウと小倉康宏がドライブした。
「初日に長時間ドライブしましたが、フィーリングの違いを修正したほかはすごく順調です」と小倉。
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは第2戦でストップ時間が多かったこと、また昨年もオートポリスではリタイアを喫していたことから、今回は完走が目標の第一に据えられていた。また給水素回数が昨年までの6回から4回に減っていたことから、ひとりあたりのドライブ時間が多くなることも予想された。この専有走行を走ってみて、ドライバーのクーリング対策なども必要なことが確認されるなど新たな気づきもあった。また、金曜午後の専有走行2回目では、念のためギヤボックスのケーシングを交換するため、走行せずに専有走行を終えている。
一方のORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、走り出しで大嶋和也がわずかにドライブしたが、その後は坪井翔、そして佐々木栄輔と豊田大輔がメインとなってラップを重ねていった。
「前週もオートポリスを走っていたので、できることは限られていましたが、今回は短期的にできることを2日間取り組んでいます。今回、傾向としてリヤが動いてくれず、タイヤのポテンシャルを活かし切れていない状況があると思います」というのは大輔。
「今回はターンインからミドルで、GR86らしい軽快さを感じられるようなクルマづくりに取り組んでいます」
また、多くのラップをこなしてきた坪井は「いろいろな細かい問題点を解消しようと取り組んでいます。ただそこに難しいところがあるんですけどね」と語った。特にオートポリスはタイヤに厳しいところもあり、そのあたりも課題だという。
ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptについては、大輔の言葉にもあるが4人のドライバーが異口同音に「乗りづらい」コメントを残していた。
これまで、愚直に設計の評価を繰り返している車両だが、チームは翌日の予選に向け、セットアップで乗りづらさの解消を狙うべく作業を進めていった。
公式予選
7月27日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ
明けて7月27日(土)は、午前9時45分からフリー走行が行われ、これに続き午後1時15分から公式予選が行われた。今回はORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptともにグループ2での予選だ。
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、まずAドライバー予選にモリゾウが出走。3周目に2分13秒020というタイムを記録する。続くBドライバー予選では、佐々木雅弘がモリゾウからのフィードバックをもとにセットアップと走り方を変え臨んだが、2分09秒033というベストタイムとなった。「去年からタイムは大きく伸びているわけではありませんが、今は航続距離を求めていますからね。その点では順調です」というのは佐々木。
総合で最後尾タイムなのは、今回ST-5クラスが参戦していないから仕方がない。目標に向け、Cドライバー予選では石浦宏明が、Dドライバー予選では小倉康宏がドライブし、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはまずはきっちり予選日を終えた。
一方のORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、セットアップでの乗りやすさ向上に向けて取り組んでいたが、Aドライバー予選で佐々木栄輔が2分05秒848、Bドライバー予選で坪井が2分02秒152を記録するが、表情は明るくない。「タイヤが摩耗してとんでもない状況になっています。決勝レースに向けてなんとかしないといけない」と大嶋は厳しい状況を語った。
Cドライバー予選では大嶋が2分03秒597、Dドライバーでは大輔が2分05秒807と、ユーズドタイヤを履いているとは言えセットアップを修正し続けても遅くなる状況に、対策が急務となっていった。
32 号車 公式予選
7月27日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ
迎えた7月28日(日)の決勝日。前夜には雷雨が降ったオートポリスだが、この日は朝から晴天に恵まれ、気温もグングンと上昇していった。午前11時からの決勝レースに向けて、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのスタートドライバーを務めたのは佐々木雅弘。オートポリスはコース長が長いこともあり、富士のように1スティント30周というわけにはいかないが、まずは1スティント28周程度をターゲットに、第2戦で果たせなかった目標に向けスタートを切った。
佐々木は序盤から2分14〜15秒程度のラップで走行を重ねていく。今週は一度エンジンを下ろしたほかは大きなトラブルもなく、まずはスタートから1時間近く、23周を走行すると、一度目の給水素を行う。ピットアウト時、佐々木の目前でST-Zの上位争いがクラッシュしヒヤリとするシーンはあったものの、その後も2スティント目に入っていった。
しかし、その2スティント目が終わろうかというタイミングで、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptに変調が。ピットでクルマの状況を監視していたチームは、水素ポンプの電源関係に異常を感じ取る。開始から1時間47分というタイミングでピットインし、トラブルシュートに当たった。
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptに搭載される液体水素ポンプには、ふだんトヨタ車では使用されていない48Vの電源が、通常の車両用とは別系統で使用されている。その48V電源のオルタネーターに異常が発見されたのだ。暑さのなか、チームは一度熱の問題を疑い、冷却した後に一度ピットアウトしたが、症状は改善していかなかった。
再度ピットインに戻ったORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、1時間18分にも渡るメカニックたちの懸命な作業を経て、オルタネーター等の関連する機器の交換を終えた。
今回はあくまで完走を目指し、液体水素の航続距離を証明することが最大の目的だった。しかし、事前のテストではまったく出ていなかったトラブルが襲うことになってしまった。
「前回の課題はうまく克服してこられたと思いますが、今まで想定していなかったことがたくさん起こり始めています。原因はこれから解析しますが、水素ポンプの耐久性が上がったりと、完成に近づいていけばいくほど、他のところが厳しくなるようなことが今後も起こってくるだろうと思っています」とGRカンパニーの高橋智也プレジデントは、詰めかけたメディアに説明した。
レースはすでに後半。修復を確認するため石浦が乗り込むが、今度はオルタネーター本体ではなく、異常が考えられるハーネス/バッテリーまわりの部品を交換し、小倉が乗り込みコース復帰。10周を走り順調に走行できることを確認すると、最後はモリゾウがドライブしてチェッカーを受ける計画に変更した。
ただ、モリゾウはたった2周でピットに戻ってきてしまった。今度はまた別のエンジン周辺のトラブルだ。残り時間も少なく、修復してもコース上にストップする可能性があった。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはそのままピットでレースを終えることになってしまった。
「こんなはずではなかったんですが……」と監督を兼任する石浦は悔しい表情を浮かべた。
目標の完走はできなかった。ただ、高橋プレジデントは『そこがゴールではない』という。
「将来、ここでやっていることを“ちゃんとお客さまにお届けする”ということをゴールと捉えると、一戦一戦、いろいろあるけれど、そこで一喜一憂するのではなく、しっかりと地に足をつけて、“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”をやっていくことが大事だと思っています」
誰も挑戦していない液体水素へのトライ。打ち破るべき壁はまだまだ多いことを思い知らされた。終わらない挑戦は、まだこれからも見果てぬゴールまで続いていく。
決勝レース
7月28日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ
レースウイークに入ってから、ずっとドライバー4人から「乗りづらい」というフィードバックが繰り返されてきたORC ROOKIE GR86 CNF Concept。なんとか次なるステップに繋げるべく、7月28日(日)の決勝日に臨んだ。午前11時からのレースで、スタートドライバーを務めたのは坪井だ。
オートポリスは、国内では最もタイヤへの負担が厳しいコース。この週末の乗りづらい状況では、プロではないドライバーのスティントが長くなると負担が大きくなってしまう。そこで、チームは今回の作戦をなるべくプロが長くなるものとした。大嶋監督は、スタードライバーの坪井に「なるべくいけるだけいって欲しい」と伝えた。
坪井はそのリクエストに応え、序盤から2分06秒台〜08秒台のラップタイムで着実にレースを進めていった。ST-Zクラス車両のクラッシュによるセーフティカーランを経て、スタートから1時間18分を経過しようやく一度ピットに戻ってくるが、給油などの作業を済ませ、坪井はそのままピットアウトしていった。
坪井は続くスティントでも長い時間を走り、佐々木栄輔にふたたび交代したのはなんとスタートから2時間43分を経過してから。ひとりで酷暑のなか72周を走り切ってみせた。まさにトッププロの底なしの実力を感じさせた。
「疲れました(笑)」という坪井だが、「セットアップで誤魔化しながら走ってきて、解決はしていないのですが、燃料を積むとその嫌なところが減っていて、決勝では比較的乗りやすかったです」と新たな気づきがあった様子。
「ST-2クラスの車両との戦いにもなって、その点ではすごく楽しいレースでしたね」
交代した佐々木栄輔は、時折大きくラップタイムを落としてしまうこともあったが、速いときには2分09秒のラップを記録。36周をこなしてピットインした。
「開発に結びつける意味合いがあるレースでしたが、いろいろな改善に向けた蓄積ができたと思います。これをどう結びつけるかが課題ですが、引き出しが増えたと思っています」と佐々木栄輔。
「課題はたくさん出ましたが、今回やったことを結びつけたいですし、自分もS耐に出ている車両と同じ足回りの一般検討車を持っているので、自分の手でも試してみようと思っています」
坪井と佐々木栄輔の頑張りによって走り続けてきたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptだが、レースは残り1時間ほど。代わってステアリングを握った大輔は、速いラップでは2分07秒台を記録するも、その後は2分09秒台で周回をこなしていく。
ただ、クルマを下りてからの大輔の表情は明るいものではなかった。「非常に乗りづらい」とポツリ。また大輔のスティントでは、ST-X車両からラフなオーバーテイクを仕掛けられることも。
レースも残りわずかというところで、最後に大嶋が自らドライブしてチェッカーを受けるべく、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはふたたびピットに入ったが、交代後思わぬトラブルが発生してしまった。
エンジンはかかってはいるのだが、思うように加速しない。大嶋はピットへと戻り、最後はそのままORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptとともにガレージでレースを終えることになってしまった。
「まだ原因が分かっていません。コンピューターなのか、センサーなのかは分かりませんが……」と大嶋。この週末は苦いレースウイークとなってしまった。
「いろいろな課題が見えてきましたし、それぞれの部門のメンバーが共通の問題意識を持てたことが収穫ではないかと思います」
昨年の好感触から、さらなるステップアップに臨み新たな課題への取り組みを続けているORC ROOKIE GR86 CNF Concept。次戦もてぎはスキップすることから間があくことになるが、もっといいクルマづくりに向け、歩みを止めることはない。