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ENEOS スーパー耐久シリーズ2025Empowered by BRIDGESTONE  第3戦 FUJI24時間

モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり、人とクルマを鍛えることをテーマとしてスーパー耐久シリーズへの参戦を続けてきたROOKIE Racing。2025年はその活動をモリゾウを軸としてTOYOTA GAZOO Racingとともに行うべく、『TOYOTA GAZOO ROOKIE Racing』として、ニュルブルクリンクでの活動と並行してスーパー耐久シリーズに参戦することになった。
 そんな2025年のチームにとっての開幕は、第3戦富士24時間レース。数々の良い思い出も苦しい思い出も残る一戦だ。
 そんなレースに挑んだのは、TGRR GR Corolla H2 conceptとTGRR GR86 Future FR conceptという2台。まずTGRR GR Corolla H2 conceptは、高出力と燃費を両立させる水素エンジン燃焼切り替え技術への挑戦をスタートさせたほか、水素充填速度と安全性の向上、小型軽量化に寄与する新充填バルブの開発を行った。また、ワイヤーハーネスの一部アルミ電線化による車両軽量化にも取り組んでいる。
 一方TGRR GR86 Future FR conceptは、サスペンションメンバーの変更やリヤウイングの変更などを行ったほか、マルチパスウェイの考え方のもと、ENEOS株式会社と自動車メーカー4社が“共挑”し開発実証実験を進めることになり、ガソリンにバイオエタノールを約20%混合した低炭素ガソリン(E20)を使用して参戦することになった。新たな体制となったTOYOTA GAZOO ROOKIE Racingは、もっといいクルマづくりに向けた終わりなき戦いを富士スピードウェイからスタートさせた。

PRACTICE スポーツ走行/専有走行
5月28日(水)〜29日(木) 天候:曇り/路面:ドライ

 長丁場の第3戦は、今季レギュラーで参戦する4人ずつのドライバーに加え、豪華なゲストドライバーを迎えての参戦となった。TGRR GR Corolla H2 conceptは、KYOJO CUPでROOKIE Racingから参戦する平川真子、そしてTGR-E副会長である中嶋一貴が加入。またTGRR GR86 Future FR conceptにはSUPER GTでチームとともに戦う福住仁嶺、KYOJO CUPに参戦する斎藤愛未が加入。坪井翔との夫婦での参戦が実現した。
 曇り空のもと行われた5月28日(水)に行われたスポーツ走行、さらに5月29日(木)の3回の専有走行を使って、2台は週末に向けた走行を重ねた。  平川、斎藤のふたりは5月8日に行われた公式テストでもそれぞれステアリングを握っているものの、シフトノブの形状が斎藤の手には大きすぎることなど新たな気づきが。ただ「シフトが難しいですが、すごく懐が深いクルマだと思います」と斎藤。また平川も水素エンジンについて「言われないと水素だと分からないくらいパワフルですね」と笑顔をみせた。ただ、ふたりはふだんは混走がないレースで戦っており、60台が争うなかでの走り方が課題と言えた。
 そして、水素エンジン初搭乗となったのは一貴も同様。「気持ち良く回りますし、何も心配なく攻められます。重量もあり、四駆でもあるので、走らせ方は今まで僕が乗ったクルマとは違います。でもそれが楽しいです」と感想を語った。
 TGRR GR Corolla H2 conceptについては、木曜にダンパーの不調があったが、これは解決。「テストでも多くの距離を走っていますし、順調です」というのは石浦宏明監督。またTGRR GR86 Future FR conceptの大嶋和也監督も「サスペンションジオメトリの変更がすごく良い方向にいっていますね。燃料も今までと違いを感じないくらいです」と手ごたえを語った。

QUALIFY 公式予選
5月30日(金) 天候:曇り/路面:ドライ

 2日間の走行を終え、迎えた5月30日(金)は午後0時から公式予選がスタートした。事前の天気予報ではこの日が荒天だったものの、前日夜から降っていた雨は止み、公式予選はやや濡れた部分があったが、ほぼドライコンディションで迎えることになった。
 まずAドライバー予選にはTGRR GR Corolla H2 conceptはモリゾウ、TGRR GR86 Future FR conceptは佐々木栄輔が出走することになったが、TGRR GR Corolla H2 conceptにはまさかのトラブルが出てしまった。ターボのブーストが上がらず、モリゾウは一度ピットイン。トラブルの原因特定を行ったが回復せず、6分台というラップタイムになってしまった。
 幸いBドライバー予選の佐々木雅弘のドライブ時にはトラブルは解消したが、 「ブーストを制御しているものに不具合があったのですが、残念です。僕の時にならまだ良かったのですが」と佐々木雅弘は振り返った。
 ただ、その後はトラブルが出ることはなく、Cドライバー予選、Dドライバー予選、E/Fフリー走行と順調に消化。Eドライバー予選では平川が記録したタイムが、昨年モリゾウが記録したベストタイムと小倉康宏のベストタイムのちょうど間で、これまでモリゾウと小倉で争っていた“チーム内ベストタイム争い”が今年も勃発。チーム内を盛り上げることになった。
 そしてTGRR GR86 Future FR conceptは、佐々木栄輔のアタック時「コースに出すタイミングが良くなくて、クリアラップがとれずかわいそうでした(大嶋監督)」というものの、Bドライバーの坪井が圧巻のタイムを記録し、合算タイムで3分45秒418をマーク。ST-Qクラスでは2番手、ST-2クラスに割って入る位置につけた。
「GR86の実力以上のタイムが出たと思いますね。まだ少しウォームアップの悪さや安定感に欠けるところはありますが、昨年に比べると乗りこなしやすいクルマになっています」と大嶋監督も手ごたえを語った。
 Cドライバー予選、Dドライバー予選、E/Fフリー走行もTGRR GR86 Future FR conceptは順調そのもの。充実の予選日を過ごすことになった。


No.32 決勝レース
5月31日(土)〜6月1日(日) 天候:雨〜曇り〜晴れ/路面:ウエット〜ドライ

 いよいよ迎えた5月31日(土)の決勝日。ただ午前中から富士スピードウェイには雨が降り、午前9時50分からのウォームアップはウエットコンディション。その後ピットウォーク時には小康状態だったものの、午後1時30分からのスタート進行後、サーキット周辺には雷が鳴り、強い雨が降ってしまう。そのためスタートは1時間遅らされ、午後4時にセーフティカースタートが切られることになった。
 TGRR GR Corolla H2 conceptのスタートドライバーを務めることになったのは中嶋一貴。セーフティカースタートから15分ほどが経ちレースが始まったが、一貴はST-5F/ST-5Rクラスの車両をグングンと抜いていく。父の悟さんは現役時代“雨の中嶋”の異名をとった名ドライバーだが、一貴もウエット路面をものともせず、TGRR GR Corolla H2 conceptの速さをみせ、16周を終えST-5F/ST-5R車両をすべてオーバーテイク。路面が乾いてくるとともに小倉康宏に、さらにモリゾウへバトンを繋いでいった。 
 実は、コンディションが悪いことから当初石浦監督は、モリゾウに翌朝に明るくなってから乗ってもらおうと計画していた。しかし、急速に乾く路面状況、また多くのゲストがいるうちに自らの走りを見てもらおうという、モリゾウの半ば“志願”によって走行が実現した。石浦監督も「たくさんの皆さんの前で走ることができたので、良かったです」と安堵の表情をみせた。
 モリゾウのスティントまでは、1スティント20周ほどで走行していたTGRR GR Corolla H2 conceptだが、モリゾウから交代した佐々木雅弘の走行からは、燃費向上に向けたトライが始まった。ダブルスティントをこなしつつ、1スティント30周という航続距離にトライ。ドライへと転じ花火が上がるなか、佐々木は着々とミッションをこなしていった。
「一度プラグ交換をしましたが、その後は快調そのものです!」と佐々木。「ST-5クラスを上回る順位でゴールしたいですね」
 佐々木の走行中に周囲は暗くなり、盛大に上がった恒例の花火の煙で視界が悪くなり、フルコースイエローからセーフティカーランとなる珍事もあったが、その後も快調に周回を重ねた。
 夜になってからは、もともと「夜勤担当で呼ばれています(笑)」という一貴と石浦、佐々木が交代しながら繋いでいく戦略だ。ただ、夜半になり富士スピードウェイには霧が立ちこめてしまう。また、クラッシュ車両によるガードレール補修などもあり、レースはセーフティカーランと赤旗中断を繰り返すナイトセッションとなった。
「霧のなかを走っているのは辛かったですね(苦笑)」というのは石浦。レースは午前5時を前に、濃霧のため一時赤旗中断。午前7時30分にようやく再開されることになった。ただ、波乱のなかTGRR GR Corolla H2 conceptは二度プラグ交換を行うのみで、快調そのものだった。
 赤旗再開後は天候も好転。落下物や車両回収でのフルコースイエローが入ることはあるが、グリーンでのレースが続いた。午前8時20分からは平川真子もドライブ。小倉、そしてふたたびモリゾウ、一貴、そしてふたたび小倉と繋ぎ、さらに佐々木へ。短い睡眠をとった石浦は監督に徹し、ゴールのドライバーとして平川を指名した。
 午後3時、TGRR GR Corolla H2 conceptはその激闘を終え平川の手によりチェッカーを受けた。468周を走破し、大きなトラブルはなし。水素エンジンのGRカローラとしては2022年の478周に次ぐものとなったが、そもそも今年はスタートディレイにともなう23時間レースで、赤旗中断が3時間以上あった。連続周回数31周という結果を含め、過去最高のものだったのは間違いない。そして、総合順位は完走53台中41位。通常燃料のST-5F/Rクラス車両と戦える位置まできた。
 他車とレースを争える手ごたえ、ポンプ無交換での走破、そして大きなトラブルなく走り切ってみせた満足感と安堵感。『TGRR』としてともに戦ったTOYOTA GAZOO RacingとROOKIE Racingのメンバーたちは、「ドライビングが楽しかった」と口を揃えた6人のドライバーたちとともに、フィニッシュ後笑顔をみせた。
 カーボンニュートラル、水素社会の実現という大きな目標はまだまだ先。しかし、TGRR GR Corolla H2 conceptの挑戦は今回の成功で、ひとつの区切りを得た。

No.28 決勝レース
5月31日(土)〜6月1日(日) 天候:雨〜曇り〜晴れ/路面:ウエット〜ドライ

 迎えた決勝日、朝から富士スピードウェイは雨模様となった。午前9時50分から行われたウォームアップでも雨が降り続き、多くのファンが訪れたピットウォーク時にはほぼ雨は止んだものの、午後1時30分からのスタート進行開始直後から富士スピードウェイは雷雨となってしまった。そのため、レースのスタートは1時間遅れ、午後4時からセーフティカーランでスタートを切ることになった。
 TGRR GR86 Future FR conceptは豊田大輔がスタートドライバーを務めた。完全なウエットコンディションのもと、大輔は同じST-Qクラスの#61 SUBARU HPXを追いながらレースを進行。すぐに雨は止みはじめ、コースコンディションが少しずつ乾いていく展開となった。
 そんななか大輔は、ST-2クラスやST-Qクラスの#104 GR YARISなどと競り合いながらレースを進め、約1時間のファーストスティントを終え坪井翔に交代。この頃にはほぼ路面コンディションは回復し、坪井は好ペースでラップを重ねると69周でピットイン。妻の斎藤愛未にTGRR GR86 Future FR conceptを託した。
 初めてのスーパー耐久での決勝レース、かつ周囲が暗くなっていく難しい状況ながら、斎藤は安定したラップを重ねていき、109周で交代。今度は佐々木栄輔が乗り込んだ。ただ、この頃打ち上がった花火の後、富士スピードウェイは視界が悪くなってしまい、フルコースイエローからセーフティカーランに。コンディションが悪いなかではあるものの、佐々木はしっかりとダブルスティントをこなし、ふたたび坪井に交代したが、直後の午後9時42分には再度フルコースイエローからセーフティカーランへ。日中降っていた雨の影響か、富士スピードウェイには霧が出てしまい、視界不良となってしまった。
 ただ、TGRR GR86 Future FR conceptにはこのレースで唯一のペナルティが課されてしまう。セーフティカー退去時の手順違反で、60秒のストップ・アンド・ゴーペナルティとなってしまった。
 坪井はこれをセーフティカーラン中にこなし、午前0時過ぎまで走ると大嶋和也に交代する。この後、一時レースが再開されたものの、今度は午前1時過ぎにST-Z車両のアクシデントで赤旗中断。再開後も大嶋は午前3時15分までドライブした。
 大嶋に代わってTGRR GR86 Future FR conceptをドライブしたのは、SUPER GTのチームメイトである福住仁嶺だ。今回、所用により福住自身は決勝までドライブできていなかったが、夜間をしっかり繋ぐことに貢献した。
 ただ福住のドライブ中、ふたたび霧が濃くなってしまう。午前4時45分には二度目の赤旗中断に。なかなか霧は晴れることはなく、2時間45分間レースは再開されることはなかった。
 セーフティカー先導のもと、ふたたびレースが始まったのは午前7時30分。中断をはさみながらのダブルスティントを福住がしっかりとこなすと、すでに明るくなり、コンディションも好転したレース終盤を戦っていく。豊田大輔、佐々木栄輔とステアリングを繋ぎ、午前11時26分にはふたたび斎藤に。終盤には、斎藤から夫の坪井へのリレーが実現している。
 そしてフィニッシュドライバーを務めたのは福住。午後3時、TGRR GR Corolla H2 conceptとともにフィニッシュしたTGRR GR86 Future FR conceptは、チームメイトたちに迎えられ長いレースを終えた。
 今回のレースに向けた改良点であったサスペンションメンバーの変更とセットアップ変更は好フィーリングをもたらし、またガソリンにバイオエタノールを約20%混合した低炭素ガソリン(E20)を使用したエンジンも、大きなトラブルなくレースを走りきってみせた。
 そしてこの快走は、ST-Qクラスでも最多となる523周という周回数にも表れていた。ST-Qクラスに参加する仲間のライバルメーカーたちとは今シーズン速さが近づきつつあったが、この数字はチームとしての力の賜物でもあった。
 TGRR GR Corolla H2 conceptとともに、TGRRとしても多くの収穫を得た2025年の富士24時間レース。もちろん、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりに終わりはない。チームはふたたびニュルブルクリンクに臨んだ後、スーパー耐久での戦いを続けていく。