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ENEOS スーパー耐久シリーズ2025Empowered by BRIDGESTONE 第7戦富士

 モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり、人とクルマを鍛えることをテーマとしてスーパー耐久シリーズに挑戦しているTOYOTA GAZOO ROOKIE Racing(TGRR)。10月25日(土)〜16日(日)に岡山国際サーキットで行われた第6戦では、TGRR GR Yaris M Conceptを投入し大きなインパクトをもたらしたが、そんな興奮も醒めやらぬ第6戦から3週間のインターバルで、シリーズは今季最終戦を迎えた。舞台はチームの地元である富士スピードウェイだ。
 そんな一戦に向け、モリゾウ/佐々木雅弘/小倉康宏/石浦宏明という4人がドライブするのは、第3戦富士24時間以来の登場となるTGRR GR Corolla H2 concept。液体水素エンジンGRカローラのさらなる進化に向け、超電導技術を使ったモーターも走行可能なレベルには到達したが、今回は参加を見送り、第3戦と同じ車両での参戦となったものの、今回は最大出力での連続走行に挑戦していく。
 一方、佐々木栄輔/坪井翔/大嶋和也/豊田大輔の4人が組むTGRR GR86 Future FR Conceptは、第6戦岡山では決勝レース序盤に突然エンジンがパワーを失う症状に見舞われたが、この対策を施してきたほか、ワンメイクタイヤサプライヤーであるブリヂストンの新たな基盤技術である『Enliten』ブランドのサステナブルタイヤが装着されることになった。
 イベントも多いこの週末、TOYOTA GAZOO ROOKIE Racingは11月14日(金)から走行をスタートさせた。


PRACTICE 専有走行
11月14日(金) 天候:晴れ/路面:ドライ
 
 通常、スーパー耐久は木曜に特別スポーツ走行枠が設けられることが多いが、この第7戦は11月13日(木)は通常のスポーツ走行、そして今回日米の自動車文化交流を目指したNASCARの走行が行われ、ここに登場したモリゾウがパワフルなNASCARをドライブ。レースウイークに先立ち日米交流を楽しんだ。
 一方チームはその間に準備を整え、晴天に恵まれた11月14日(金)の専有走行から週末に向けた準備を始めた。
 TGRR GR Corolla H2 conceptは、午前9時35分から始まった専有走行1回目は佐々木雅弘からコースイン。モリゾウ、小倉康宏と交代し、佐々木が記録した2分02秒058がベストタイムに。午後1時25分からの専有走行2回目からは、ついに出力を最大に。ただまったくトラブルは出ず、同様に佐々木、モリゾウ、小倉と周回。出力の恩恵もあり、2分00秒750までタイムを伸ばし専有走行を締めくくった。
 一方、TGRR GR86 Future FR conceptは専有走行1回目は佐々木栄輔と豊田大輔、2回目は大嶋和也から坪井翔、佐々木、大輔と交代しながらラップを重ねていった。1回目は佐々木の1分55秒192がベストタイム、2回目は大嶋の1分53秒919がベストとなった。
 今回新たに装着しているサステナブルタイヤは、これまでと同じメーカー、同じサイズのもので、既存タイヤと同じパフォーマンスを再生素材で狙ったものだが、大嶋、坪井とも違いを指摘した。
「今までとは若干違うバランスになりますね。セットアップも少し変える必要があるかもしれません」と坪井は振り返った。
 今回TGRR GR86 Future FR conceptはセンサーを増やしているが、数値やドライバーのフィードバックから、タイヤについても新たな知見を得ていくことになった。

QUALIFY 公式予選
11月15日(土) 天候:曇り/路面:ドライ
 
 TGRR GR Corolla H2 concept、TGRR GR86 Future FR conceptとも11月13日(金)の2回の専有走行をノートラブルで終え、迎えた11月14日(土)は、午後1時から晴天のもと公式予選が行われた。
 TGRR GR Corolla H2 conceptは、まずはAドライバー予選にモリゾウが出走した。木曜にNASCARを走らせるなど、他ドライバーよりも多く走っているモリゾウだが、そんな疲れも感じさせず積極的にアタックを行っていくと、5周目に2分03秒076というタイムを記録した。
 続くBドライバー予選では佐々木雅弘が6周目に1分59秒973をマーク。第3戦富士の予選タイムには届かなかったが、それでもST-4クラスの車両を1台上回るスピードをみせた。合算タイムでは、総合56番手と最後尾となったが、それでもST-4車両とはわずかな差となった。
 続くCドライバー予選ではレースウイークで初めてドライブした石浦宏明がトラフィックに悩まされながらも2分02秒013をマーク。Dドライバー予選では小倉が2分02秒258を記録し、それぞれST-4クラスのなかに食い込むタイムを残し公式予選を締めくくることになった。
 一方、TGRR GR86 Future FR conceptはまずはAドライバー予選で佐々木栄輔が1分53秒885をマークすると、Bドライバー予選では坪井が1分52秒213を記録する。合算タイムでは総合45番手からスタートすることになった。
 続くCドライバー予選では、大嶋がトラフィックのなかきっちりと1分53秒444を記録すると、Dドライバー予選では大輔が1分53秒441をマークし公式予選を締めくくった。ちなみに大輔がアタックしたDドライバー予選の方がトラフィックがあったが、佐々木栄輔は大輔のタイムに上回られ苦笑い。チーム内の和気あいあいとした“バトル”が展開されていた。
「特にトラブルもないですし、順調にデータを採ることができています」と大嶋監督。またTGRR GR Corolla H2 conceptの石浦監督も「まったくトラブルもありませんでしたね」と笑顔。TGRRは順調に公式予選を終えることになった。


32 決勝RACE
11月16日(日) 天候:晴れ/路面:ドライ
 
 2日間のスケジュールを経て、いよいよ迎えた今シーズン最終戦の決勝レース。TGRR GR Corolla H2 conceptは、午前からNASCARのデモランなど多忙なスケジュールをこなしてきたモリゾウが務めた。
 これには理由があり、今回の4時間レースのレース終盤は季節柄かなり暗くなるという情報が入っていたためだ。スタートをモリゾウ、次に小倉、そして佐々木雅弘と石浦で繋ぎゴールするという作戦だ。
 2万6100人という多くの観客が見守るなか、モリゾウは集団最後列の59番手からスタートを切った。車両がGR YARISであれば集団の中央付近に巻き込まれてしまうが、今回は熟成成ったTGRR GR Corolla H2 conceptで前を追うだけ。モリゾウは安定したペースで周回を重ね、15周を終えるとピットイン。給水素を手早く行い、小倉にスイッチ。ピットアウトしていった。
 昨年のこのレースは二度の赤旗中断が起きるなど荒れたレースとなったが、今季はクラスを絞ったこともあり、ストップ車両が出るもののフルコースイエローはほとんど出ない状況が続いた。
 そんなレース展開のなか、小倉は2分03〜05秒のラップタイムで着実にレースを進めていった。
「ストレートでもしっかり6速まで入りますし、速かったですよ。気持ち良くドライブすることができました。上のクラスのクルマに抜かれるとき以外には、気分良く走ることができました」と小倉。
「毎回乗せていただくたびに思うのですが、僕が乗っても分かるくらいブラッシュアップされていますし、素晴らしかったですよ」
 安定した走りを続け、42周目に小倉はピットインし佐々木に交代。直後にフルコースイエローが入ったが、これまで磨き抜いてきたフルコースイエロー時の制御等もしっかりと機能し、その後もTGRR GR Corolla H2 conceptはノートラブルでレース後半戦に向かっていった。佐々木のラップタイムも2分00〜03秒台と好調で、今回フルパワーでのレースを戦い、69周まで走り切った佐々木も自らのスティント後、笑顔をみせていた。
「今までは予選だけでパワーを出していましたが、パワーがあるということは運転していても喜びに変わると思うんです。決勝ではそのテストをしっかりすることができました」と佐々木。
「エンジンを担当する方、システムを担当された方はすごく大変なチャレンジだったと思うんです。実際、乗っている側からするとそこまで凄まじいパワーが出ているというわけではないのですが、ラップタイムで1秒以上違いますから大きいです」
 そして、これまでも水素エンジンGRカローラの開発を担ってきた佐々木は、次に控える超電導モーターに期待をかけた。
「タンク容量も増えますし、重心も下げることができます。次の水素エンジンGRカローラはすごく乗りやすくなると思いますよ!」
 佐々木からステアリングを受け継いだ石浦のスティントは、予想どおり少しずつ周囲が暗くなるコンディション。そんななか、石浦は交代後すぐに2分00秒433というベストタイムを記録すると、92周で一度ピットに戻り給水素を行った後、ダブルスティントを敢行。最後は109周を走破し、現在のスペックのTGRR GR Corolla H2 conceptの最後のレースを締めくくることになった。
 目標としていたST-4クラスの下位とは5周ほどの差がついていたが、通常燃料のクルマが「見える」ところまでは来た。
「はじめはパドックで給水素をして、10周しか走れなかった水素カローラが、いまや30周走れるようになりましたからね」と石浦は語った。はじめは気体の水素を使い長いピットストップを行い、液体水素投入後もポンプ交換を行うなど、レースを戦うには至っていなかったが、ついにその先が見えるところまで進化をみせた。
「超電導モーターは走ることができるところまでは来ていますし、航続距離はさらに伸びるので、他のライバルとスティントは同じくらいになるのではないでしょうか。重心も下がりますしね」と石浦。
 水素社会の実現に向け、まだまだ道は長い。しかしたゆまぬ進歩により、少なくともサーキットではライバルたちが見えるところまで来た。ノートラブルで走破したTGRR GR Corolla H2 conceptの挑戦は、2026年にさらなるステップを踏んでいく。

28決勝RACE
11月16日(日) 天候:晴れ/路面:ドライ 

これまで専有走行から公式予選まで、新しく装着したサステナブルタイヤとのマッチング、評価を続けてきたTGRR GR86 Future FR concept。迎えた11月16日(日)の決勝日も富士スピードウェイは晴天に恵まれ、タイヤの評価にはこれ以上ないコンディションとなった。
 48番グリッドからスタートを切ることになったTGRR GR86 Future FR conceptのスタートドライバーは豊田大輔だ。
「昨年からトラブルも多かったので、ノートラブルで戦おうとチームで話していました」という大輔は序盤、同じST-Qクラスの#55 マツダ、#12 マツダとともに周回を重ねていった。1分54秒〜56秒ほどのラップタイムで、ペースは安定していたが、やはり新しいタイヤについては多くの改善点が見出せた様子だった。
「今回はブリヂストンさんからご指名いただき、開発を試したいということだったのですが、正直に言えばあまりマッチングしていません。タイヤのサイドウォールが少し弱く、コーナリングを楽しめるような、気持ち良く旋回することが現状はできていませんでした」と大輔は言う。
 ただ、この2日間走ってきたなかで「気を遣いながら、ていねいに手前から走るようにしていけば、タイヤは保つことが分かりました」とポジティブな要素も分かった。しかし、目指すのはサステナブルな性能とドライビングの楽しみの両立だ。大輔ならではの観点で「持続可能な取り組みは本当に素晴らしいことです。ただその取り組みと、本来モータースポーツがもっている楽しさや運転の楽しさは背反すべきではないと思っています」と目指すターゲットを説明した。もちろん、その思いはブリヂストンも同じ。開発の新たな一歩となった。
 第2スティントを担当することになったのは、大輔と同じくプロドライバーではない佐々木栄輔。フルコースイエローも挟みながら周回を重ねていったが、タイヤの影響は佐々木の方が大きい様子だった。
「タイヤの温まりの早さの違い、グリップの低さ、荷重をかけたときにサイドが倒れてしまう要素がありました。レースという状況になると、この現象が個人的にはすごく不安でした」と佐々木。
「プロの皆さんからアドバイスももらったのですが、やってはみるものの、なかなかうまくはいかなかったですね」
 ただ、そんな難しいドライビングながら佐々木は36周と4人のなかで最も長いスティントを終えるとピットイン。第3スティントは坪井に託した。ここまでTGRR GR86 Future FR conceptはトラブルもなく、タイヤをのぞけば快調そのもの。
「トラブルも何もなく走れたのは第3戦富士24時間以来だったので、気持ち良かったですね」と坪井は自身のスティントを振り返った。
 この第7戦のレース後半は夕刻のレースだったこともあり、坪井のスティントでは少しずつ気温も下がっていたことから、「このタイヤでロングスティントは初めてでしたが、タイヤについては落ち幅が少ないように感じました。最後の方までほぼベストタイムで走ることができました」と1分53〜54秒のタイムを並べていく。実際に、坪井がこのレースでのベストタイムを記録したのは交代してから18周を過ぎたタイミングだった。この点も新たな気づきだったと言えるだろう。
 このレースは終盤にはナイトセッションのように暗くなったが、大きなアクシデントもなく進んでいき、坪井は93周まで走ると大嶋に交代。今季何度も悩ませてきたトラブルも出ることなく、大嶋は27周の自身のスティントを走り切りチェッカーを受けることになった。
「トラブルなく完走することができて良かった」というのはドライバー4人全員に共通した感想にもなった。
 TGRR GR86 Future FR conceptの今季最終戦は、120周を走り総合36位でのフィニッシュとなった。もっといいクルマづくりへの挑戦は終わることはないが、第6戦岡山ではジオメトリなど高評価を得て、さらに第7戦富士ではトラブルなく走り切ったことで一定の成果を得たと言える。また一方で、最終戦からスタートしたサステナブルタイヤのトライは、まだまだ課題が多いことも感じさせた。
 今シーズンのスーパー耐久シリーズへの挑戦は幕を閉じることになったが、その挑戦はまだまだ続いていく。


#32監督コメント
Hiroaki ISHIURA  石浦 宏明


「今回、フルパワーでレースの最後まで走り切ることを目標にしていましたが、きっちりそれを達成することができましたし、特にトラブルらしいトラブルもなく走り切ることができました。もちろん、水素カローラなので裏側ではたくさんのエンジニアがバックアップしてくれて、データを見ながら取り組んでくれていたのですが、トラブルなく走り切ることは本当に技術的に難しいことです。しかしレース途中のフルコースイエローの制御などもしっかりできていましたし、熟成されていることを感じました。1スティントの長さを含めて、普通のレースをしている感覚でいられるので、ここ数年の進化を進化を改めて実感する良いレースになりました。次の超電導技術に繋がるレースになったと思います」


#28監督コメント
Kazuya OSHIMA  大嶋 和也

「今回はクルマとしては新しいトライがあったのではなかったのですが、新しいサステナブルタイヤに対したセットアップをトライしたこと、とにかくもっと細かくデータを採っていこうというトライを行っていきました。レース途中、他のドライバーからは少しジャダーがあるような声もあったのですが、僕のスティントではそれもなくなっていましたね。データについては、狙いどおりたくさんのものを得ることができたので、今後それをいかにして活用していくかが大切になりますね。今週は大きなインプルーブがあったわけではないのですが、しっかりと完走することができましたし、今シーズンの最終戦としてはとても良いレースになったのではないでしょうか」