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ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第1戦 SUZUKA 5時間耐久レース

『意志ある情熱と行動』は仲間たちを加え新たなシーズンへ

『もっといいクルマづくり』、そして2021 年第3戦富士SUPER TEC 24 時間レースからスタートした、カーボンニュートラル社会実現に向けた『意志ある情熱と行動』。変わらぬコンセプトとともに、ORC ROOKIE Racing の挑戦は2022 年シーズンを迎えた。今シーズン、ORC ROOKIERacing は『STO が認めた開発車両』として参加が認められるST-Q クラスに2台をエントリーさせた。32 号車は、水素エンジンを搭載するORC ROOKIECorolla H2 concept。2021 年の富士では約5分かかっていた水素充填時間は2021 年最終戦では2分弱、そして今回は将来の水素利用拡大を見据えた『大流量充填』に挑戦。1分半まで短縮された。さらに燃料噴射を緻密にコントロールすることで異常燃焼を制御し、1回の充填で走行できる時間は20%向上している。ドライバーはこの車両の開発を当初から担っていた佐々木雅弘をAドライバーに据え、モリゾウ、さらに昨年28 号車をドライブしていた小倉康宏、そして初挑戦時にも乗り込んだ石浦宏明が起用された。

一方、28 号車は新たにGR86にスイッチ。内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる挑戦としてカーボンニュートラル燃料を使用し、兄弟車であるスバルBRZ と争う。ただBRZ と中身は同じではなく、1.4 リッターターボエンジンを搭載。BRZ と競い合いながらモータースポーツの現場で鍛えることで課題を発見、改善し、将来的な実用化の可能性を探る。

ドライバーは蒲生尚弥、豊田大輔は継続、新たに大嶋和也と社員ドライバーの鵜飼龍太が加わった。


特別スポーツ走行(木) 〜専有走行(金)

:3月17 日(木) 天候:曇り/晴れ 路面:ドライ 3月18 日(金) 天候:雨  路面:ウエット

 迎えた開幕戦の舞台は、三重県の鈴鹿サーキット。2021 年は第5戦として開催されたコースで、開幕としては2019 年以来となる。ORC ROOKIE Corolla H2 Concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept ともに開発テストを繰り返し、2月に行われた公式テストで走行し確認を行ってから第1戦へと乗り込んだ。

 走行初日は3月17 日(木)の特別スポーツ走行。その週に続いていた小春日和のなか、この日は

午後0時15 分から1時間、午後2時45 分から1時間と、合計2回の走行が行われ、ORC ROOKIE Corolla H2 Concept は佐々木、2回目の走行では小倉、モリゾウがドライブ。小倉は「GR ヤリスとの比較になりますが、このクルマは弱アンダーですごく乗りやすいですね。オーバーステアだとジェントルマンドライバーには怖いですが、カローラは乗りやすいクルマです」とここまでのドライブで好感触を得ている様子だった。

一方で、ORC ROOKIE GR86CNF Concept は1回目は蒲生からコースイン。2回目は豊田大輔も乗り込み、周回を重ねていった。公式テストでもドライブしているとはいえ、大輔にとっては2019年にドライブして以来のマニュアルミッション車。「通常のミッションとも少し違う特殊なものなので、それにも慣れなければいけません。クルマの味つけはまではまだまだ」とドライビングの慣れを進めながらも、開発を進めなければならないため、やるべきことは多い。

 走行時間は多ければ多いほどいいが、明けて3月18 日(金)は午前8時15 分から45 分間の特別スポーツ走行、さらに午前10時30 分からの専有走行、午後2時からの混走の専有走行と用意されていたが、朝から鈴鹿は曇り空。朝の特別スポーツ走行がスタートする直前から、ポツポツと雨が降りはじめてしまった。

 3月19 日(土)の予選日以降、鈴鹿は晴れる予報が出ていたことから、ORC ROOKIE Corolla H2Concept はウエットコンディションでの走行を見合わせることになった。そのため、石浦宏明は2日間で1周もしないまま予選を迎えることになったが、石浦ほどのドライバーならば問題はないだろうという判断だ。

 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept は今後もあるであろうウエット路面での習熟のため、2回の走行ともに蒲生から大輔、鵜飼へと交代しながら周回し、予選までの2日間を終えた。


公式予選:3月19 日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ

前日は雨だった鈴鹿サーキットだが、明けた3月19 日(土)は雲はあるものの、晴天に恵まれた。午前10 時40 分からのフリー走行はORC ROOKIE Corolla H2 concept はモリゾウ、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは蒲生と大輔が走り、午後2時からの予選に備えた。

ORC ROOKIE Corolla H2 concept はまずAドライバー予選で2 分26 秒012 をマーク。さらにBドライバー予選では、モリゾウが魅せた。2 分30 秒826という自己ベストをマークし、しっかりと予選を通過。合算で総合34 番手につけた。Cドライバー予選では、石浦がロングランも兼ね8周を周回。週末初ドライブながらきっちり仕事をこなし、Dドライバーの小倉も2 分30 秒261 という好タイムを記録した。一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept はまず蒲生が2分19 秒620 とST-2 クラスを上回る速さをみせるが、Bドライバー予選では大輔がコースインするも、インジェクターにトラブルが。なんとか2 分31 秒843 をマークし予選通過は果たしたのは不幸中の幸いだった。

 チームは早急にトラブルを解決し。Cドライバーの大嶋、Dドライバーの鵜飼ともにタイムを記録することができ、チームはホッと胸をなで下ろした。

 ちなみに予選後、今季から参戦を開始したST-3 クラスの25号車に携わる日産自動車大学校の生徒たちが、ORC ROOKIERacing のピットに車両見学に訪れた。チームは快く見学に応じ、その様子を見ていたモリゾウも、日本の移動を支える550 万人になるべく、日々学ぶ若者たちに明るく声をかけ、大きな笑顔が生まれた。

 スーパー耐久らしい、実に微笑ましいシーンとなった。


32号車決勝レース 3月20 日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

3月19 日(土)は記者会見も行われ、今季も水素エンジンへの高い関心がうかがわれたが、迎えた3月20 日(日)の決勝日は晴天に恵まれ、この日の鈴鹿にも多くのメディア、ファンが訪れた。午前11 時40 分からのスタートで、ORC ROOKIE Corolla H2 concept のステアリングを握ったのは石浦宏明だ。

序盤、日立Astemo シケインでST-5 クラスのクラッシュが起きたり、デグナーカーブでストップ車両が出たりとアクシデントも多発するが、まったくノーミスで淡々と周回を重ねる。スタート直後こそORC ROOKIE GR86 CNF Concept、Team SDA Engineering BRZ CNF Concept というST-Q クラスの2台が前にいたが、少しずつギャップは開いていった。

「2021 年の富士以来のレースでしたが、パワーの感覚もぜんぜん違いました。すごい進化を感じました」という石浦は、給水素をこなしながらカメラにも愛想を振りまく余裕をみせたが、「えっ!? もう終わり!? と驚きました(笑)。昨年からの進化を感じました」と給水素時間の短さに驚きながらも18 周をこなす。スピードについては、次戦以降ST-4 クラスが参加した時に「争えるようにしたい」と石浦は語った。

 代わってチームメンバーとグータッチをかわし、コクピットに乗り込んだのはモリゾウ。コース各所で接触などのアクシデントが起きるなど、タイトなコースレイアウトの鈴鹿で、車速が異なる車両たちが競い合うレースでは、プロドライバーたちも「怖い」というほどだったが、モリゾウは淡々と、かつハイペースでラップを重ねていく。給水素をこなしながらきっちり21 周を走ると、ふたたびピットへ。第2スティントの大役をしっかりこなしてみせた。

 続いてドライブしたのは佐々木。「昨年から継続して良いところはしっかり伸ばし、パワーも出ていましたし、昨年から1秒半アップしたことをしっかりと実感しました。また燃費が上がり、プラス2周走れるようになったことは本当に大きなことです。ドライバーからすれば、2割燃費を伸ばすことはとんでもないことです。目立たないことですが、大きな進歩を感じることができました」とORC ROOKIE Corolla H2concept の改善を実感しながら周回を重ねた。

 ここまで、ORC ROOKIE Corolla H2 concept は3 人のドライバーがノーミスで周回を重ねていった。佐々木も20 周を走り、きっちりとその役目を果たすとピットへ。このクルマで初めてレースを戦う小倉にステアリングを託す。

「給水素は行くと人がたくさんいて、ちょっと恥ずかしいんですけどね(笑)」と小倉は笑うが、ドライブ自体はスムーズそのもの。2021 年はより速いGR スープラでのレースを戦っていただけに、速度域もまったく問題はなかった。きっちりと20 周をこなすとピットイン。待ち受けていたのは、今回もアンカーを務めたモリゾウだ。

 レース終盤に至っても接触などが多く、総合トップ争いも接触がドラマを呼んだ。そんななか、モリゾウは太陽が西に傾くなか、第2スティントを含め合計39 周をこなし、ORC ROOKIE Corolla H2 concept をチェッカーへと導いた。鈴鹿は体力の負担も大きいが、今回も4人のうち最多のラップをこなしてみせた。

「モリゾウさんは初めての頃に比べても、トレーニングをしてクルマに負けないくらい進歩していて、体力も大きく向上していますし、モリゾウさんも小倉さんも自ら乗って判断して、次の世の中、市販車に繋げていく。すごいプロジェクトだと思います」と佐々木はモリゾウの開幕戦を評し、そして改めてORC ROOKIE Corolla H2 concept のプロジェクトの意義を振り返った。

 次戦はやや間隔があくが、ORC ROOKIE Corolla H2 concept がデビューした富士24 時間。1年間の進歩を見せつける、格好の舞台だ。


28号車決勝レース 3月20 日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

迎えた3月20 日(日)、いよいよORC ROOKIE GR86 CNF Concept にとって、初めての決勝レースがやってきた。総合グリッドは34 番手。隣の33 番手グリッドからは、同じカーボンニュートラル燃料を使うTeam SDA Engineering BRZ CNF Concept がスタートを切る。もともとがお互いに切磋琢磨しながら戦っていくプランだったが、さっそく両車の対決がやってきた。前日の予選では、Team SDA Engineering BRZ CNF Concept はGT300 チャンピオンのふたりがアタックを担当。ORC ROOKIE GR86 CNFConcept にトラブルがなくとも、速さでは叶わなかった可能性が高いが、決勝は別だ。
 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept のスタートは蒲生尚弥が務めた。スタート直後、しばらくはBRZ が先行し、蒲生がピタ
リと追う展開。さっそく直接対決のシーンがやってきた。蒲生は「同条件で走ったことがなかったので、しばらくは相手がどんな速さなのかを見ていました」と序盤を戦っていく。しかし、BRZ のスピードを見切った蒲生はこれをオーバーテイク。先行を果たした。


 前日にもトラブルがあり、大嶋和也も「時間も足りていないけれど、セッションを追うごとにトライしていければ。レースをやりながら強くしていきたい」と語っていたORC ROOKIE GR86 CNF Concept だが、この日は序盤から快調。蒲生は33 周を走りピットインすると、大輔に交代する。
 

予選ではトラブルもあり、「走りきれるでしょうか」と不安もあった大輔だが、「メカニックの皆さん、エンジニアの皆さんが夜遅くまで作業をしてくれていたので感謝しています」と快調にラップを重ねていく。ところが、後方からはプロの山内英輝選手が駆るBRZ が急激なペースで接近。大輔も抵抗するが、やはりプロのスピードには敵わず、オーバーテイクを許してしまった。ただ大輔は、このシチュエーションも楽しんでいたよう。「これぞモータースポーツですね。ST-Q ではしばらく自分たちとの戦いだったので、ライバルとのポジション争いは懐かしく感じました。正直楽しかったです」と大輔
は振り返った。先行を許した大輔だが、しばらくは山内選手の背後につけ「こうやって走るのか」と勉強をしながら走行。驚くことにタイムも上がったという。
 
大きな収穫を得たスティントを終え、大輔は25 周をこなしピットイン。鵜飼に交代する。これまで社員ドライバーながら、別車種でスーパー耐久にも参戦していた鵜飼だったが、「これまでたくさんトラブルもあったなかで、自分は社員ドライバーとして参戦し『モータースポーツを通じたもっといいクルマづくり』に携わり、すごいプロドライバーの皆さん、大輔さんと一緒に走り、レースウイークを通じて性能を共有できたことがいい経験になりました」と充実のレースを戦っていった。
「しっかり走りきり、エンジニアも含めいま持っているクルマのポテンシャルを共有でき良かったです。BRZ とのバトルも通じ、今シーズンはレースを楽しみながら開発ができると思います」と語った。
大役を務めた鵜飼からステアリングを託された大嶋は、説明不要のハイペースで最後までORC ROOKIE GR86 CNF Conceptを導き、115 周のチェッカーを受けた。BRZ も同じく115 周。

今回はこちらが“勝ち”を収めたが、やはり僅差の勝負となった。
「今回、初めて5時間を走りきりましたが、まだまだ信頼性で言うと足りないところもあります。おそらく24 時間レースをこのまま戦えるかというと、できないと思っています。まだ時間があるとは言え、いろいろなアップデートをチーム全体で取り組んでいく必要があると思っています」と大輔は振り返る。
 
このカーボンニュートラル燃料を使った『もっといいクルマづくり』への挑戦はまだ始まったばかり。
目先の勝利よりも、チーム全員がこの先を見据えているのが印象的だった。


MORIZO’s Voice


こうして鈴鹿サーキットで、ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook の開幕を迎えることができました。
鈴鹿サーキットやスーパー耐久機構の皆さんに、感謝申し上げます。
昨年、富士SUPER TEC 24 時間レースで、水素エンジンでの挑戦を始めたとき、我々の仲間たちは8社でしたが、今回、22 社にまで
増えました。
『意志ある情熱と行動』──。この想いに共感いただいた仲間の皆さまに、心から感謝申し上げます。
スーパー耐久シリーズは、プロ、ジェントルマンドライバー、メカニック、エンジニアが一体となって戦う耐久レースです。市販車に
近い状態で、クルマと運転技能を高め合っています。
2021 年、水素エンジンカローラとGR スープラがST-Q クラスで開発を進められ、スーパー耐久が注目され、日本のモータースポーツ
文化の裾野がもっと広がっていくことを期待しています。
プロドライバーがさまざまなクラスで活躍することもスーパー耐久の魅力ですし、プロ、ジェントルマンドライバーに関わらず、全員
が運転大好き、クルマ大好きのメンバーです。
今年もスーパー耐久らしく、乗る人も作る人も、観る人も楽しめるレースにしていきたいと思っています。
そんな2022 年の開幕戦で、2台が完走することができました。皆さまのおかげです。しかしこの戦いは、まだ始まったばかりです。
1年間、みんなが笑顔で健康で、そして“ワンチーム”で戦っていきたいと思います。
今シーズンもご声援、よろしくお願い申し上げます。

ROOKIE Racing オーナー  豊田 章男

2022 年第1戦鈴鹿 リザルト


2022 年第1戦鈴鹿 データ


ROOKIE Racing の活動は、多くの皆さまのご協力によって支えられています