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全日本スーパーフォーミュラ選手権2023 第5戦

〈フリー走行 6月17日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ〉

2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権は、早くもシリーズ後半戦を迎えた。舞台となるのは、宮城県のスポーツランドSUGO。スーパーフォーミュラの場合予選ならば1周はわずか1分05〜06秒ほどで回ってくるタイトなコースで、オーバーテイクポイントも少ない。予選順位が非常に重要となるコースで、もし展開が荒れたとしても、下位グリッドからは戦略も広げられない難しいコースだ。
 docomo business ROOKIEと大嶋和也はそんな一戦に向け、今季少しずつポテンシャルを上げてきていたが、このSUGOは2022年、苦しいレースとなり、ふだん悔しさをあまり表に出さない大嶋和也が、思いを爆発させたコースでもある。そんな思いを払拭するべく、雨模様となった6月16日(金)の搬入日を経て、チームは6月17日(土)の予選日に臨んだ。
 雨上がりとなったこの日は朝から初夏の陽気に恵まれ、午前9時10分からのフリー走行は気温25度/路面温度40度というコンディションのもとスタートした。1周が短いことからトラフィックも多く発生することもあり、大嶋はややタイミングをずらしてコースイン。2〜4周ほどのショートランを繰り返していくが、走るたびにタイムが上がっていった。
 大嶋はセッション終了間際の33周目に1分06秒660までタイムを縮めることになるが、このフリー走行では常に上位に食い込むことに。大嶋の感触はオーバーステア気味で決してしっくりくるものではないのだが、グリップ感がありタイムが出ている。
「まだトップには届きませんが、今回変えてきたクルマのフィーリングがセッション中もどんどん良くなっていきました。予選でもこのパフォーマンスが出れば、良いところにいけるはずだと思います」と大嶋の表情も比較的明るい。
 チームは大嶋の好感触に手ごたえを得つつ、念入りに午後の予選に向けたシミュレーションを行い、今季の大きな目標である予選Q1突破へ向け、さらなる調整を進めた。

〈第5戦 公式予選 6月17日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ〉

気温29度/路面温度43度という暑さのなか迎えた午後2時からの予選。大嶋はQ1をB組から出走することになったが、A組で起きたクラッシュの影響でB組は20分遅れで始まった。大嶋はタイミングを遅らせてコースインすると、3周を走り1分06秒778を記録。一度ピットに戻った後に再コースインすると、ここで1分06秒223までタイムを縮めた。
 いつもであれば、この後は大嶋の順位は下がっていくことが多かったが、今回は違う。大嶋の名はしっかりと4番手に留まった。これまでチームが喉から手が出るほど欲しかったQ2進出への切符を、いよいよ勝ち取ったのだ。
 チームは喜びもつかの間、午後2時55分からスタートするQ2へ準備を整えた。大嶋は開始直後ピットでステイした後、Q2を楽しむかのようにアタックを敢行。きっちりと1分05秒960までタイムを縮め、見事8番手グリッドを得た。
「クルマは乗りやすいわけではないのですが、グリップが出ています。せっかくこの位置を獲ることができたので、決勝は上位にいきたいですね」と大嶋。この日SUGOを訪れた豊田章男オーナーも感動を覚える、チームの士気を大いに高める予選となった。

〈第5戦 決勝レース 6月18日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ〉

 予選8番手という好位置につけ、喜びに沸いた公式予選から一夜明けた決勝日。6月18日(日)午後2時30分にスタートを迎えた決勝レースは、予選の喜びを結果に繋げる大事なレースとなった。予選上位につけたことで戦略の幅が大きく広がり、石浦宏明監督は前夜から悩みに悩むことになったが、豊田章男オーナーから「選択肢があるのは分かったから、どれでいくのか決めなさい」という言葉をもらい、大嶋とともに決断を下した。
 スタートではややポジションを下げかけた大嶋だったが、8番手をキープ。序盤から僅差のなかで、大嶋は戦える手ごたえを得ると、石浦監督と決めたとおり10周を終えピットインを行った。コース長が短いSUGOでは、10周目にピットインするとラップダウンにされてしまう恐れがあったが、スタート位置が前だからこそできる戦略だった。そんな作戦を完璧に遂行するべく、チームもパーフェクトな作業を行い、同時にピットインしたライバルたちを先行。早めに作業を行ったグループの3番手につけた。
 この作戦は早めの作業でラップタイムを稼ぎ、後からピットインするグループを先行できる作戦だが、これまでチームはこの作戦で何度もポジションを上げていた。ただ、上位陣は終盤までピットを引っ張り、終盤フレッシュなタイヤで追い上げてくる恐れもある。それをさせないためには、やはりレース中の好ペースが必要だったが、今日の大嶋も高いグリップ力を感じ、好ペースでレース終盤まで走ることができていた。逆に前を走る#5 牧野任祐にペースを乱されるほど。ライバルたちがピットインするに従い、大嶋の順位は少しずつ上がっていく。41周を終え全車が作業を終えると、大嶋は4番手を走ることになった。
 あとひとつ順位を上げれば、表彰台。#5 牧野のペースはそこまで良いものではなく、終盤少しずつ大嶋の視野に入ってきた。しかし一方で、今度は大嶋の後にピットインしたグループが近づいてくることになった。大嶋の背後には#7 小林可夢偉が続いてきた。
 大嶋は30周以上を走ったタイヤながら、#7 小林の追撃をなんとか退けるが、今度は41周にピット作業を行い、フレッシュなタイヤを履く#15 リアム・ローソンが急接近。#7 小林をかわし、ファイナルラップに大嶋の背後までやってきた。
 相手は今季2勝を飾っている大物ルーキー。しかもタイヤのグリップはまだ高い。大嶋はハイポイントコーナーで後方を見る間にわずかにコースオフを喫したが、それでも#15 ローソンにつけいる隙を与えない。これまで辛いときも支えてくれたチーム、そして信じてくれたオーナーのためにも、順位を譲るわけにはいかなかった。
 大嶋は51周を戦い抜き、#15 ローソンを従えSUGOの急勾配を駆け上がった。惜しくも表彰台には届かなかったが、長い苦しみをくぐり抜けた先に訪れた、優勝に等しい4位だ。
 サインガードでは、チームの喜びの輪ができあがった。豊田章男オーナーやエンジニアも感動を隠せない、喜びに沸き立つSUGOの夏の夕暮れとなった。
 docomo business ROOKIEと大嶋の 逆襲の夏は、いま始まった。

DRIVER  大嶋 和也 Kazuya OSHIMA
「フリー走行から調子は良かったですし、すごくグリップ感がありました。予選で8番手につけるましたが、あまり失敗を恐れずやろうと決勝レースに臨み、もともと決めていた10周でピットインする作戦もうまくいきました。ピットも頑張ってくれましたしね。レース中もここ数年でいちばんくらいグリップが高くて。なんとか最後は4位を守れて良かったです。チームもみんなが頑張ってくれて、結果に繋がらず悔しい思いをしてきましたが、努力が結果に繋がってきました。今日はこの結果で満足ですが、次にまた4位を獲ったときに『悔しい』と言えるようにしたいです。オーナーも本当に喜んでくれたので良かったです。今回はバランスが良かったわけではなかったので、もっと自信をもてるクルマを作れれば、優勝争いにも絡めると思っています」

DIRECTOR 石浦 宏明 Hiroaki ISHIURA
「チームとして今季予選Q1突破とポイント獲得を目標にしていましたが、今回Q1突破を果たすことができました。セットアップをガラッと変えてきましたが、走り出しから調子が良かったですね。エンジニアとドライバーのコミュニケーションもスムーズで、今週は全体的に流れがずっと良い方向にいっていたと思います。前戦から予選で前につけられれば、上位を狙えると思っていたので、そのとおりになりました。1台体制のチームで4位で終われるのは、かなりハードルが高いことだったと思います。自分たちにとっては優勝に値するような結果ですし、これまでチームが苦しんできたことを知っていたので、思いがあふれましたね。この結果を残せたのが嬉しいですが、今後これが当たり前にできるようにするのが自分の仕事だと思っています」