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ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE 第3戦 SUGO 3時間レース

3台がそれぞれ得た収穫と課題。今後に活きる一戦に

世界初と言える液体水素での24時間レース完走、ST-Xクラスでの初めての総合優勝、スピードと強さをみせつけたGR86と、ROOKIE Racingにとってさまざまな栄光を獲得した第2戦富士SUPER TEC 24時間レースから1ヶ月強。スーパー耐久シリーズは第3戦を宮城県のスポーツランドSUGOで迎えた。コンパクトなコースであり、今回はORC ROOKIE GR86 CNF Conceptがグループ2、中升ROOKIE AMG GT3がグループ1に出走する。そしてORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、第4戦に向けたさらなる進化のために今回の第3戦には参戦せず、第1戦以来の登場となるORC ROOKIE GR Yarisが参戦、グループ1のレースに出走することになった。
 もちろん今回も『もっといいクルマづくり』のための歩みは止めていない。ORC ROOKIE GR Yarisは、車体自体の走行距離が多かったことからリフレッシュを実施したほか、市販車にも落とし込むためのABSの制御などさまざまなものをトライ。さらにORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptで使用しているのと同じタイヤサイズに変更した。
 また、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは使用するカーボンニュートラル燃料を新たな成分のものに変更されたほか、足回りの改良、さらに今後の開発に向けた材料として、これまでのものとは大きく異なる形状のリヤウイングをトライした。ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは2022年は参戦をスキップしたラウンドであり、スポーツランドSUGOには今季が初見参となった。

スポーツ走行/STEL専有走行 7月6日(木)〜7日(金) 天候:晴れ 路面:ドライ

迎えた第3戦のレースウイークは、7月6日(木)の午後0時からの特別スポーツ走行から始まった。この日のスポーツランドSUGOは7月初旬ながら、気温35度に近づこうかという酷暑で、全員が滝のような汗をかきながら、グループ2、1とも25分ずつ3回の走行を進めていった。
 ORC ROOKIE GR Yarisは、まずは佐々木雅弘からドライブ。タイヤサイズが変更されたことによるセットアップの確認を行い、2本目途中まで走行。モリゾウ、小倉康宏と交代するが、モリゾウのタイムがのっけから速い。データロガーを見比べても、レインボーコーナーなど難しいコーナーで佐々木のデータと重なっており、好調のなか初日を終える。
 同様に暑さのなかで迎えた7月7日(金)は、午前、午後とも75分ずつの専有走行が行われたが、フロントのバネレートをブリヂストンタイヤに合わせ変更。前日までわずかにあったアンダーステアも解消し、「すごく順調」な2日間を終えることになった。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、初日の特別スポーツ走行を使い、今回ドライバーとしてエントリーしていない大嶋和也がドライブし、新たなリヤウイングなどを確認。「すごく効いていると思います」と好感触を得て佐々木栄輔に交代する。
 7月7日(金)には、午前は山下健太から走行を開始すると、加藤恵三、豊田大輔に交代。午後は大輔、加藤と交代しながらラップを重ねた。加藤、佐々木ともチームでSUGOを走るのは初めてで、大輔にとっても2年ぶり。「まずは自分が正しい一貫性をもって評価できるように課題をもって取り組みました。初日に大嶋選手と佐々木選手でセットアップをしたことで、かなり幅が広い、安定感があるクルマになってきたと思います」と大輔。「ウイングが大きくなったことで少しアンダーステアが出やすくはなりましたが、下りコーナーでは安定感があります。タイヤの特性と合わせてうまくマッチできたと思います」
 一方で、ライバルの#61 BRZはこの日午前にクラッシュに見舞われた。終日修復を目指したが、途中モリゾウが気を遣う場面も。
 そして中升ROOKIE AMG GT3は、初日Aドライバーである鵜飼龍太の習熟をメインに走行。鵜飼は「たくさん走らせていただいています。蒲生尚弥選手や片岡龍也選手のコーチングがすごく的確です」と手ごたえを感じていた。
 2日目も蒲生、平良響と鵜飼が交代しながらラップ。午前は1分22秒365でトップタイム、午後は1分23秒669で2番手につけ、中升ROOKIE AMG GT3は予選上位を狙える手ごたえを得て2日間に渡る走行を終えた。

公式予選 7月8日(土) 天候:曇り 路面:ドライ

うだるような暑さのなかで行われた2日間の専有走行を経て、迎えた7月8日(土)の予選日は、午前は強めの雨が降り、フリー走行はウエットコンディションのなかで行われた。ただその後は雨は止み、午後1時45分から行われた公式予選はドライコンディションとなった。しかし時折雨が舞い、スリッピーな状況は変わらない。アタックタイミングが難しいなかでの予選となった。
 まずグループ2の予選に臨んだのは、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept。今回Aドライバーを務めた加藤恵三は、1分33秒990という好タイムを記録。この勢いをBドライバー予選に臨んだ山下健太がしっかりと繋ぎ、1分32秒477というタイムをマーク。合算でグループ2総合ポールポジションを獲得することに成功した。2022年は車両の見直しのために参加すらできなかったSUGOで、1年間の進化を証明した。
 一方、グループ1の予選に臨んだのは中升ROOKIE AMG GT3、そしてORC ROOKIE GR Yaris。中升ROOKIE AMG GT3は、Aドライバー予選で鵜飼龍太がわずかにコースアウトも喫したものの、1分23秒047を記録し2番手に。続くBドライバー予選では蒲生尚弥が1分21秒340を記録しトップにつけたが、Aドライバー予選で素晴らしいタイムを記録していた#31 RC Fにポールポジションを奪われてしまった。ただそれでも中升ROOKIE AMG GT3は2番手を獲得。フロントロウにつけた。ORC ROOKIE GR YarisもAドライバー予選でモリゾウが1分33秒640を記録、Bドライバー予選で佐々木雅弘が1分31秒129を記録し、ST-2クラスに混ざる総合19番手からレースを戦うことになった。

32 決勝レース7月9日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

7月9日(日)の午前中に行われたグループ2の決勝レースを見届けた後、ORC ROOKIE GR Yarisも昼のインターバルをはさみ午後1時55分からの決勝レースを迎えた。昼ごろは強い日射しが差し、気温はグングンと上昇。30度を超える夏日となった。
 その気温上昇を鑑み、ウォームアップ走行を前にORC ROOKIE GR Yarisにはオイルクーラーを増設し熱対策を行うことになった。この確認は問題がなかったものの、ミッションオイル漏れの兆候があり、グリッドでもさまざまなチェックを行った。
 今回は3時間レースということもあり、ドライバー交代の戦略をどう組むかは悩ましいところではあったが、石浦宏明は監督に専念し、佐々木雅弘、小倉康宏、そしてモリゾウの3人でレースを繋ぐことになった。ただ、スタート直前に小雨が舞いはじめたことから、スリックタイヤでの不安定な状況でジェントルマンドライバーを走らせるわけにはいかないと、まずはスタートドライバーの佐々木が引っ張ることになった。
 1周目から佐々木はST-2クラスの車両をリードし、上位車両であるST-Zクラスの集団を追いながらレースを続けていく。この週末はORC ROOKIE GR Yarisにとっては初めてのブリヂストンタイヤ装着で、佐々木はレースを戦いながらこのタイヤの使い方を探りながら戦っていった。細かい雨が降ったり止んだりするなど不安定な状況が続くなか、38周目に一度ピットイン。この際に一度タイヤ交換を行う考えもあったが、佐々木は「もう少し試してみたい」とタイヤは交換せず。ST-2クラスで使用されているGRヤリスでは二輪交換はよくあるパターンだが、無交換はケースとしては少ない。佐々木はレース中盤まで同じタイヤで試行錯誤を続け、なんと68周目までひとりで走行。セーフティカーランのタイミングでピットインし、モリゾウにステアリングを託した。
 ただ、ここでチームにはわずかなミスが生まれてしまった。「今回、給油スピードを早くしたくて、先に給油を終わらせてからタイヤ交換を行うはずだったのですが、少し手違いがあり、給油中にジャッキを上げるミスがあり、それに反応してタイヤ交換を始めてしまう二重のミスがありました(石浦監督)」と作業違反のペナルティをとられてしまう。「監督としてもチームとしても申し訳ない」と石浦監督以下、チームスタッフはモリゾウのドライブスルーペナルティ消化時、頭を下げた。
 しかし、ミスをしっかりと反省し次戦に活かすべく話し合いを続けたチームスタッフの思いを汲むかのように、モリゾウはコース上で快走をみせた。ちょうどコースの空いているところを走行できたこともあり、1分35秒と佐々木よりもわずかに遅い程度のタイムで周回を重ねる。同じST-Qクラスの#271 CIVICはこの時GT500ドライバーが乗っていたが、これに近づくほどだった。
 モリゾウは22周を走り、きっちりと自らのスティントをこなすと、アンカーを小倉康宏に委ねた。この頃にはコンディションも向上していたが、1分34秒台の好ラップを重ねると、ORC ROOKIE GR Yarisは108周を走り切りしっかりとチェッカーを受けることになった。
 総合では16位と、ST-2クラスのトップ2に続くポジションでフィニッシュすることになったが、「ペナルティがなければ、ST-2クラスのトップよりも前の位置でゴールできる可能性があったんです。ふたりのジェントルマンドライバーが乗っているなかで、ST-2クラスの車両より前にゴールできたならば、それはかなり良いペースで走れていたということだと思います」と石浦監督。
 気体水素で戦っていたときにはなかなか味わえなかった、レースの順位を争うという経験を今回はしっかりと体感し、チームとしても得たもの、反省すべきところと収穫を得ることができた。
 次戦オートポリスには、ふたたび液体水素を使うORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptが登場する。
 アジャイルな開発を経て進化を遂げているはずで、今回得たレースを戦う経験が、きっと次戦オートポリスでの32号車のクルーたちの戦いぶりに活かされていくはずだ。

28 決勝レース7月9日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

 迎えた7月9日(日)の決勝日、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは午前8時40分に迎えたグループ2の決勝レースに臨んだ。前日降っていた雨は夜のうちに止み、ややコース上に濡れた部分はあったものの、早朝から青空が広がったこともあり、路面はドライコンディションに。スタートドライバーを務めたのは加藤恵三で、グループ2全車の最前列からのスタートという大役を務めることになった。
「もちろん初めてのスタートでしたが、経験がある皆さんに『自分のタイミングでスタートすればいいからむしろ楽だよ』とアドバイスをもらいました」という加藤はきっちりとトップで1コーナーに入っていくと、後方のST-4クラスの集団との戦いを後目に少しずつ差を広げていった。ただ、その集団をかき分けるように加藤の背後に近づいてきたのは、プロドライバーである井口卓人選手が乗る#61 BRZ。ROOKIE Racingの仲間であるが、最大のライバルでもある。6周目、プロの実力をみせ手を振りながら加藤をオーバーテイクしていき、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはグループ2の総合2番手でレースを進めることになった。
「さすがにプロのプレッシャーだったので仕方なかったですが、もう少し“会話”したかったです」と加藤は振り返ったが、その後スタートから20分も経つと、加藤の前方にはST-5クラスの車両がラップダウンとして出現し、これをかわしながらのレースとなった。この処理に一日の長をもつプロがドライブするST-4車両が後方から接近すると。加藤は周回遅れをかわしつつ、後方から来るST-4、さらに時折舞った雨と、さまざまな条件のなかでの戦いを強いられた。
 そんな展開をしっかりと走り抜いた加藤は、38周を終えピットインし、豊田大輔にステアリングを託す。先行してピットインしていた#61 BRZはこのスティントは社員ドライバーが乗車している。大輔は少しずつギャップを縮めていくと、50周目にはその差は10秒強に。さらに雨が舞っていくなか、55周目にはついにその差を4秒以内に。専有走行から感じさせていたフィーリングの良さを武器に、どんどんとそのギャップを縮めていった。
 しかし、コースサイドの見た目のスピードに反し、ステアリングを握っていた大輔はトラブルに苦闘していた。
「エンジンの調子が悪くてターボが効かず、コーナーで追いついてもストレートで離される展開になってしまいました」と大輔は語った。
 59周目、ついに大輔は#61 BRZのテールにつける。慎重に周回遅れをかわしつつ、コーナリングスピードを活かし相手に追いつくも、やはりオーバーテイクは困難な状況となってしまった。
 大輔も69周を終えピットインし、最後のスティントを山下健太に託した。ここで、チームはエンジンのコンピュータを一度リセットする決断を下した。
 データのリセットはUSBメモリの差し替えが必要だったが、ここで「ぜんぜん予想よりも時間がかかってしまいました(大嶋和也監督)」と大きなタイムロスを喫してしまった。コース上に戻ると、総合でもST-4クラス車両に先行される状況となってしまった。
 リセットをかけたものの、コクピット内の山下はやはりまだエンジンの不調を感じていた。走行を続けながらさまざまなエンジンモードの変更を試みると、少しずつ状況が改善していく。
 山下は81周目、ST-4クラスの#3 GR86をかわし総合3番手に浮上することになったが、この時点では#61 BRZに対しては56秒もの大きなギャップが築かれていた。
 101周目、山下はST-4クラスのトップを走っていた#86 GR86をかわし総合2番手まで返り咲いたが、その頃には#61 BRZは1分以上ものギャップを築いていた。「負けは負けです」と大嶋監督は悔しがったが、グループ2総合優勝というチャンスは、次なる機会に持ち越しとなってしまった。
 しかし、これも『もっといいクルマづくり』の過程のひとつ。今回の負けが、次なる勝利と次期GR86に繋がっていくのは間違いない。

14 決勝レース7月9日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptが戦ったグループ2の決勝レースの後、昼のインターバルをはさみ午後1時55分から迎えたグループ1の決勝レース。昼には強い日が差し酷暑となったスポーツランドSUGOだったが、グループ1の決勝直前から雲が厚くなりはじめた。
 ST-Xクラスの予選2番手、フロントロウからスタートを切った中升 ROOKIE AMG GT3は、平良響をスタートドライバーに据えて決勝レースに臨んだが、スタート直後、アグレッシブな走りをみせる#23 AMG GT3に先行を許す。しかし逆に平良は、ポールポジションスタートの#31 RC Fに襲いかかっていく。
 ただ2周目の1コーナーで平良は#31 RC Fにオーバーテイクを仕掛けるも、逆に後方からインを突いてきた#1 GT-Rに先行を許してしまい、3番手は変わらず。その直後からSUGOには雨が舞いはじめることになったが、平良はそんななかでしっかりとコース上に車両を留めながら、3番手をキープして序盤のレースを戦っていった。ただ「なぜかいまひとつペースが上がりませんでした(東條力エンジニア)とトップとは少しずつギャップが開いていってしまった。
 その後、フルコースイエローが出る可能性が高まったタイミングを見計らい、平良はスタートから27周をこなしピットインすると、鵜飼龍太にステアリングを託す。鵜飼にとっては天候も分かりづらいなか、着実にスティントをこなすことが重要となった。
 ただ、「バタバタしてピットインしたこともあり、無線が聞こえない状況になってしまいました」という鵜飼は、チームとコミュニケーションが取りづらい状況となり、「少しパニックになってしまいました」と思うようにペースを上げることができなかった。
 さらに鵜飼のスティント途中には、ふたたび雨が舞いはじめるなど、このグループ1のレースは非常に難しいコンディションでレースが進んでいく。そんななか鵜飼は慎重にラップダウンを処理していき、4番手に順位を落としたものの、69周までを走りピットイン。最終スティントを蒲生尚弥に託した。今回のレースでは全体的に中升ROOKIE AMG GT3はペースが上がらないレースだったが、鵜飼は「自分の弱点が見えたレースでした」と振り返った。
 交代した蒲生だったが、すぐに馬の背コーナーでST-Zクラスの#885 GR Supraがストップしたことから、レースはセーフティカーランとなった。この時点で、中升ROOKIE AMG GT3のポジションは5番手。表彰台圏内に上がるためには、ふたつポジションアップが必要となった。
 蒲生は燃料満載の状態からのスティントながら、チームの期待に応え、88周目には#202 NSX GT3をかわし4番手に浮上する。さらに、終盤熾烈さを増していた2番手争いのなかで、#31 RC F GT3がトラブルにより後退したことから、3番手に浮上した。
 ただ、この時点でトップ2とは大きなギャップが開いており、蒲生はチェッカーまでプッシュを続けたものの、追い上げはそこまで。中升ROOKIE AMG GT3は3位でチェッカーを受けた。
「今日はレースペースが良くなかったですね」というのは、今回監督に徹することになった片岡龍也。また東條エンジニアも「最終的に表彰台に入るまでにリカバリーはできましたが、少しモヤモヤしたレースになってしまいました。チームとしてリカバリーできたのは良いですが、何もないのがいちばんですから」と振り返った。
 今回は3位で終えることになったとはいえ、しっかりと表彰台の一角を獲得することができた。今季狙うのはチャンピオンであり、苦しいときに結果を拾うことができるのはチーム力の証明でもある。
 まだまだ中升ROOKIE AMG GT3がチャンピオンを争う存在なのは変わらない。あまり間をあけずに迎えるオートポリスでの第4戦で、ふたたびチームは一丸となって優勝を目指す。