GR YARISの進化が速さに結実。ST-Xは2位で終える


2024年のスーパー耐久シリーズは、鈴鹿サーキットで行われた第5戦から約1ヶ月のインターバルを経て、岡山県の岡山国際サーキットで第6戦を迎えた。今回はコース長からふたつにグループを分けた3時間レースで争われる。
そんな一戦だが、ROOKIE RacingはORC ROOKIE GR86 CNF conceptが“お休み”となり、2台体制で臨むことになった。ランキング首位奪還へ向け重要なラウンドとなる中升ROOKIE AMG GT3とともに、ST-Qクラスには第5戦鈴鹿に続いてORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptがエントリーすることになった。
ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptにとっては連戦ではあるが、もちろんただ単に同じ車両のまま臨むわけではない。鈴鹿では、SFA工法を採用したロールケージで大幅に車両剛性はアップしたが、第6戦岡山ではセットアップのアジャストを行い、乗りやすさを向上させた。
また、モリゾウの想いに共感した生産技術が盛り込まれ、超開繊
CFRPを使ったリヤウイングを採用。150gの軽量化を果たした。またサイドミラー周辺の空力効率アップを目指し、インクリメント工法で作り出したサメ肌をミラーに貼り付け、Cd 値を低減、最高速度を1km/h アップさせた。
また今回はドライバーも変更。ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptには豊田大輔が加わり、石浦宏明は監督に専念。また中升ROOKIE AMG GT3も片岡龍也が監督に専念することになり、鵜飼龍太/ジュリアーノ・アレジ/蒲生尚弥の3人で臨んだ


特別スポーツ走行/STMO専有走行
10月24日(木)〜10月25日(金) 天候:曇り/晴れ 路面:ドライ
迎えた第6戦岡山のレースウイークは、曇り空のもと10月24日(木)午後1時10分から行われた特別スポーツ走行1回目からスタートした。前戦鈴鹿では多くのトラブルに悩まされたORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは、佐々木雅弘から走行をスタートさせ、セットアップを確認。すぐにモリゾウに交代し、さらに今回がORC ROOKIE GR Yaris DAT concept初ドライブとなった豊田大輔に交代した。
「GR86とはかなりテイストが違いますが、これはこれで楽しいですね。もう少し習熟しなければいけませんが、新しい印象を受けています」と大輔は笑顔をみせた。
午後3時35分からの走行2回目も佐々木、モリゾウ、大輔、小倉康宏と交代しながら周回。前戦のトラブルが嘘のように好調なまま周回を重ねた。さらに、モリゾウのラップタイムが速い。
「佐々木選手を除いたらモリゾウ選手がいちばん速いんです」とその走りを見守っていた石浦監督も驚きの表情を浮かべていた。
ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptの好調は翌日も続いた。佐々木の走行時間は確認程度でかなり少なく、残りの時間を3人のドライバーでまわし、順調に2回の専有走行を終えた。
「かなりドライブは慣れましたが、一方で欲も出てきましたね」という大輔も、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptへの習熟を重ねることができた。
「DATもすごく楽ですね。操作が少ないほどプロとの差も少なくなりますから。GR YARISだけでなく、他のクルマにも広まって欲しいと思いますが、MTよりも速くなるよう開発が進めばと思います」と大輔はDATについても語った。
一方中升ROOKIE AMG GT3は、スケジュール上初日は蒲生と片岡監督が不在で、鵜飼とアレジでドライブすることになった。
今回はウエイトハンデも厳しい状況ではあったが、木曜からセットアップを続け、金曜に蒲生と片岡監督が合流してから、セットアップを加速させることができた。
「ふたりで初日から修正しながら臨んでいましたが、最終的に蒲生選手に確認してもらい、土曜日に向けて間に合わせることができました」というのは鵜飼。
また片岡監督は「順調に進めることができていますし、走り出しからバランスも良いです。今回ウエイトを55kgも積んでいて、他車は少ない状況なので不利ではありますが、ペースも良い状況で試すことができました」と語った。
ウエイトを考えると厳しい状況ではあるが、それでもタイムは全体的に悪いものではない。手ごたえを得て中升ROOKIE AMG GT3は専有走行を終え、2台がともに充実した1日半を終えた。

公式予選
10月26日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ
特別スポーツ走行、専有走行を終え、迎えた10月26日(土)の予選日は、午前10時20分から行われた30分間のフリー走行を経て、午後1時40分から公式予選が行われた。
ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは、まずはAドライバー予選にモリゾウが出走。1分42秒265を記録し、ST-2車両に迫るタイムを記録する。続くBドライバー予選では大輔がアタック。「少し失敗してしまいました」というものの、1分41秒840でこちらはST-2車両を1台上回り、合算タイムではグループ1の総合31番手につけてみせた。
続くCドライバー予選では、佐々木がST-2車両を大きく上回る1分40秒098を記録。最後のDドライバー予選では小倉康宏が赤旗中断があるなか、きっちりと1分42秒606を記録し予選を締めくくった。
そんな予選の最中、モリゾウがイベント参加のため韓国に旅立たつことになり、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは決勝を3人で戦うことになった。
一方、中升ROOKIE AMG GT3は、Aドライバー予選で鵜飼が1分31秒667を記録。「ウエイトを考えると悪くないアタックができたと思います」と2番手につける。続くBドライバー予選では僅差のなか、アレジが1分30秒448を記録し、合算でフロントロウの2番手を獲得した。
「ポールのクルマはこれまでCドライバーだった選手がAドライバーとしてアタックしている状況ですし、ウエイトを考えれば順調な順位だと思います」と片岡監督は語った。
最後はCドライバー予選で蒲生が1分32秒452を記録。2番手につけ、しっかりと公式予選を締めくくった。


#32決勝レース
10月27日(日) 天候:曇り/雨 路面:ドライ〜ウエット
走行初日から順調そのもので、4人のドライバーたちが周回を伸ばしてきたORC ROOKIE GR Yaris DAT concept。迎えた10月27日(日)の決勝日は、曇り空のもと午後1時40分から3時間の決勝レースを迎えた。
順調ではあるとは言え、ただ単に3時間を走りきるだけがORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptの目的ではない。
「ST-2クラスのGR YARISと戦うつもりですし、ドライバー交代の練習もしっかりと取り組んできました。作戦も考え、最大の周回数で走り切るよう準備をしています」と石浦監督は今回のレースの狙いを語った。
そんなレースのスタートドライバーを務めたのは大輔。序盤からST-2クラスの#7 ランサーを追いつつ、後方からAドライバーハンディキャップを消化し近づいてきた#225 GR YARISを近づけない走りを展開していった。
ストレートスピードの面ではST-2のライバルたちが速く、なかなか抜くまでには至らない。とはいえ、そんななかでも大輔は35周を走りピットイン。ここで小倉にステアリングを託した。
「楽しく走ることができました。四駆の特性で曲がりにくいところがあり、タイヤが良いときは速く走ることができても、消耗してくると曲がりにくくなってくるので、そのなかでうまくコントロールすることを意識していました」と大輔は振り返った。
「ただDATはシフト操作がないので、長く走れば走るほど負担が少なく感じましたね。そういう新たなレースの楽しみ方を感じたと思います」
小倉に交代し、快調なエキゾーストノートを残しORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptはレース中盤に向けて走行を開始していくが、その直後、思わぬトラブルが襲いかかった。なんと、シートベルトの左肩のハーネスがしっかりとはまっていなかったのだ。当然安全に関わるものでもあるが、ペナルティの対象にもなる。しっかりと付け直す必要があったのだ。
修復には通常のピット作業ほどの時間を要してしまったが、その後小倉はふたたびコースに戻る。ただ今度は、コース上に少しずつ雨が降りはじめてしまった。ジェントルマンドライバーである小倉にとっては少し厳しい状況だ。
「あまり雨が降る状況ではテストしていませんでしたが、DATとの相性でどうブレーキを踏んだら良いかなどは少し苦戦しましたね。自分の思いどおりになるか、ロスなく走るのにはどうすれば良いかが難しかったです」と小倉。
「でもやっぱりDATは良いですよ。もちろんMTの良さはありますが、年配になられてからレースをやりたい方には、とても良いと思っています」
小倉は20周の自らのスティントを終えて再度ピットに戻ると、佐々木に交代する。ここからは長丁場で、緊急ピットインを行った分ST-2クラス車両とは1周近い差がついてしまったが、佐々木はこれを上回るペースをみせた。
「クルマは進化していますし、予選でもMTのGR YARISに勝つことができました。また決勝ペースでも勝つことができました。四駆、DATの精度、ボディの良さを高い次元でマッチングさせることができたと思います」と佐々木は快調なペースでラップダウンを解消せんばかりの速さをみせると、最後は100周に到達。ST-2とは1周差ついたが、十分に速さをみせてチェッカーを受けた。
「1回分ピットが多くなってしまいましたが、それがなければST-2と戦えていたと思います。ただ、もしST-2クラスと戦うとなれば、今回のことはミスでもあるのでレーシングチームとしてこういったところは改善が必要だと感じました」と石浦監督は振り返った。
「佐々木選手のペースも速かったですし、DATのメリットはみせられたのではないでしょうか」
速さはみせた。しかし佐々木も石浦監督も新たな気づきも得たという。新たな次元に到達したORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは、さらなる改善に向け、ふたたびレースを戦う日を待つ。

#1 決勝レース
10月27日(日) 天候:曇り/雨 路面:ドライ〜ウエット
フロントロウを獲得し、決勝に向け好位置につけることになった中升ROOKIE AMG GT3。ただ迎えた10月27日(日)の決勝日、岡山国際サーキットは曇り空だったものの、夕方には雨の天気予報も出ていた。そんな決勝レースに向け、チームは戦略を熟慮。まだ路面が乾いているスタートのドライバーに鵜飼を据え午後1時30分からのレースに臨んだ。
今回6台が参戦していたST-Xクラスは、6台中3台がAドライバーをスタートに据えていたが、鵜飼はそんななか序盤から3番手をキープ。プロが乗る#31 RC F、#81 GT-Rを追った。
7周目に入る頃にはラップダウンも出はじめたが、そんななか後方からは1周目にAドライバーハンディキャップのドライブスルーを消化した#33 メルセデスが急接近。鵜飼も抵抗したが先行を許してしまう。前日、片岡監督は#33 メルセデスのハンディは「少なすぎるのではないか」と危機感を抱いていたが、そんな心配が的中してしまった。
ただ、その後鵜飼は大きくラップタイムを落とすことなく、規定の1時間のスティントをこなすと、37周を走りピットイン。ジュリアーノ・アレジに交代する。
「僕としては慎重に走りプロに繋げなければということを考えていましたが、タイヤを温めきれず、難しさを感じました。またウエイトの重さがあり、ラップダウンをかわす際のロスが大きかったですね。とはいえ、それなりのペースでプロに渡すことができて良かったです」と鵜飼はスティントを振り返った。
アレジに交代した後のレース中盤、サーキットには雨が降り出し、コースはスリッピーな状況となってしまう。ただそんななか、アレジは滑りやすい路面でしっかりとコントロール。38周を走り、最終スティントを蒲生に託した。
「長いレースだし、あまりリスクをとるべきじゃないと思って、トリッキーなコンディションのなかではそこまで無理をする必要はないと思っていたんだ」とアレジは語った。
「でも、最後までプッシュはしたし、前とのギャップを縮めることができたので、ウエイトハンデを考えると悪くないスティントだったんじゃないかな」
蒲生のスティントでは少しずつ雨も止みはじめ、コンディションはふたたびドライに。蒲生は、前を走っていた#33 メルセデスを追った。
ただ、序盤コース上で遭遇した鵜飼が「いくらプロが乗っていたとしてもストレートが速すぎましたよ」と驚いたように、この週末の#33 メルセデスの速さは図抜けたものだった。
「レースを通じて#33 メルセデスは速かったです。路面温度が下がっているなかだったので走りやすさはありましたが、#33 メルセデスに負けないように最終戦はもっとペースを上げたいです」と蒲生はスティントを振り返った。
レース終盤にはダブルヘアピンでアクシデントも発生したが、これはセーフティカーランとはならず、フルコースイエローのまま処理されることに。蒲生をもってしても最後までその差を縮めきるチャンスは訪れず、中升ROOKIE AMG GT3は2位で第6戦岡山のチェッカーを受けることになった。
この結果、#33 メルセデスが中升ROOKIE AMG GT3をランキングで逆転することになった。ただ、その差は僅差だ。
「今回のレースは、各車の実力どおりのレースになりましたね。#33 メルセデスの速さはドライバーハンディキャップだけでは足りないと思いましたが、そのとおりになってしまいました(苦笑)。ただやれることはやった結果なので。最終戦のタイトル争いは混沌としてしますが、なんとか勝って決めたいです」と片岡監督はレースを振り返った。
泣いても笑ってもあと1レース。次回は片岡監督もドライバーとして復帰する。中升ROOKIE AMG GT3は2年連続チャンピオンを目指し、ホームコースの富士で全力を尽くしていく。


