ST-Xは大逆転で2年連続王者獲得! ST-Qは課題と収穫の最終戦に
2024年のスーパー耐久シリーズは、いよいよシーズン最終戦を迎えた。舞台は第2戦と同じ富士スピードウェイ。ROOKIE Racingにとってはホームレースとなる一戦だ。
今回、ORC ROOKIE Racingはふたたび2台での参戦となった。モリゾウ/佐々木雅弘/小倉康宏/石浦宏明という4人で臨むORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、第2戦富士、第3戦オートポリスから大きな改良はないものの、今シーズンまだ一度も完走を果たしていないことから、事前にテストを行い万全な体制で乗り込んだ。また、走行中に発生するボイルオフガスの活用に向けた活動もスタート。新たな仲間づくりをはじめている。
そして今回、『ORC ROOKIE GR86 Future FR concept』と車名が改められた28号車は、近い将来の自動車に課せられる排気規制に対応しはじめることになった。これまでカーボンニュートラル燃料を使用してきたが、次期GR86に向けた開発は継続しつつも、今回からハイオク燃料を使用。排気規制に対応したエンジンで走行することになった。
一方、中升 ROOKIE Racingは正念場だ。今シーズンは2戦参戦していなかったが、まだシリーズランキングは3位で、チャンピオンは射程圏内。鵜飼龍太/蒲生尚弥/ジュリアーノ・アレジ/片岡龍也というお馴染みのラインアップで、地元での最終戦優勝、そして2年連続のチャンピオンを目指すべく臨んだ。週末の予選・決勝に向け11月14日(木)から行われたスポーツ走行枠で、3台は走行を開始した。
スポーツ走行/STEL専有走行
11月14日(木)〜11月15日(金) 天候:曇り/雨 路面:ドライ/ウエット
迎えた11月14日(木)は、2回のスポーツ走行が行われた。ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、ORC ROOKIE GR86 Future FR concept、そして中升ROOKIE AMG GT3ともに参加したが、今回は65台というエントリーを集めている状況に加え、ふだんのレースの特別スポーツ走行と異なり、併催のKYOJO CUPの車両なども走行するなど混雑が激しい状況。タイム計測が行われているものの、リザルトが出るわけでもなく、実際のタイムが分かりづらい状況だった。しかも、午前の1回目こそ曇り空のもと行われたが、2回目の走り出しからすぐに雨が降り出してしまった。結果的に、初日午後は半分ほどがウエットの走行になってしまった。
走行2日目となる11月15日(金)は、午前は荒天の予報で、午後はやや改善する方向。予選日、決勝日は天気予報ではドライだったことから、中升ROOKIE AMG GT3は、初日のセットアップの感触が良かったことも手伝い、15日は午後のみの走行に留めることを決断した。
ただ、明けた15日は朝から濃い霧が出ており、午前9時40分から行われた専有走行1回目こそなんとかウエットコンディションのもと行われたものの、午後1時20分からの専有走行2回目は濃霧のためキャンセルに。中升ROOKIE AMG GT3は2日目は1周もできなかったが、「自分たちの状態としては悪くないことが確認できていますし、問題ないと思います」と片岡龍也監督は語った。
一方ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは初日は佐々木雅弘とモリゾウ、小倉康宏が周回。15日は佐々木と小倉が走行した。
「特にトラブルはなく順調ですね。霧が濃かったのですが、ニュルブルクリンクでもこういう天候もあるので、モリゾウさんにも小倉さんにも走ってもらいました。練習としては良いタイミングだと思っていますし、スーパー耐久は速いクルマも遅いクルマもいるので、経験を積んでもらいました」と石浦宏明監督。
そして、ORC ROOKIE GR86 Future FR conceptも大きなトラブルはないが、排気規制に合わせたことで大きくパワーが下がっているのだという。タイムを見ても、これまではST-3車両を上回るものだったが、同じGR86が中心のST-4車両と同等、あるいはそれに及ばないタイムとなっていた。
「ST-4の争いを邪魔しないようにしないといけませんね」というのは坪井翔。
ただ、ポジティブな部分も。「今回ジオメトリなどをガラッと変えて乗りやすくなっていますし、GR86らしさが出ています」と開発の方向については好感触。他の3人も同様の感想を述べた。
公式予選
11月16日(土) 天候:曇り 路面:ドライ
霧に包まれた金曜から一夜明け、迎えた11月16日(土)は雲が厚く、午前はややコース上に水が残っていたものの、ウォームアップを経て午後1時20分からの公式予選はドライコンディションで迎えた。
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、まずはモリゾウがアタック。ST-5車両を上回る2分01秒577を記録。続くBドライバー予選では、小雨が舞いはじめるなか佐々木が1分59秒216を記録。合算タイムでST-5車両を上回る総合49番手につけてみせた。その後も小倉康宏、石浦宏明としっかりとアタックを決め、事前のテストからトラブルなく公式予選まで締めくくることになった。
ORC ROOKIE GR86 Future FR conceptは、まずは佐々木栄輔が1分58秒792を記録。続いて坪井が1分56秒372をマークし、合算ではST-4車両を1台上回る結果となった。その後も豊田大輔、大嶋和也ともしっかりとアタックを終えており、「速さがないのは仕方ないですが、かなり方向性が見えてきました」と大嶋監督はクルマの仕上がりに満足した表情を見せていた。
そして、中升ROOKIE AMG GT3は、Aドライバー予選で鵜飼龍太が1分40秒870という素晴らしいタイムを記録。ジュリアーノ・アレジが不安定な天候で1分39秒862を記録し、合算で3番手につけることになった。
「金曜は走れませんでしたが、木曜にやるべきことは済ませていますし、バランスも非常に良い状況です。自分のトライも土曜午前にしっかりと終えることができました」というのは鵜飼。
蒲生尚弥、片岡龍也もしっかりと予選を終えた中升ROOKIE AMG GT3は、決勝に向けしっかりと準備を終えることになった。
32 決勝レース
11月17日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ
迎えた11月17日(日)の決勝日、富士スピードウェイは朝から晴天に恵まれた。多くのファンが訪れるなか、モリゾウは午前に行われたデモランイベントで、ニュルブルクリンクに参戦するSUBARU WRX STIをドライブするなど、分刻みのスケジュールをこなしながらも、午後0時26分から始まった決勝レースでのスタートドライバーを務めた。
今回ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、4時間レースをしっかりと4人で繋ぎ、今季果たせていなかった完走を果たすこと、そして給水素時間が短くなったことを活かし、しっかりとST-5車両と“レースをする”ことを目標にしていた。モリゾウはその目標に向け、着実にレースを進めていったが、今回は65台と出走台数が多い。そんな混戦の影響か、スタートからわずか22分というところで、300RでST-3車両のアクシデントが発生。フルコースイエローからセーフティカーへと切り替えられ、さらにガードレール補修が必要となったことから、長い赤旗中断となってしまった。
モリゾウは1時間7分ほどの中断を経てふたたびORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのコクピットに戻った後、すぐに小倉に交代した。
ただ、モリゾウのスティント終盤、さらに小倉のスティントではエンジンからミスファイアの症状が気になり始めていた。通常のレーシングスピードで走っているときには問題がないが、アクシデントが起きた際のフルコースイエロー導入時など、速度が落ちたときにその症状が出る。もちろん事前にこの状況を想定したテストも行っているが、やはり集団で走ると何かが違っているようだった。
そんな状況ながら、小倉は着実に走行を進め、15周を走ってからピットイン。石浦宏明に交代した。ところが、直後に今度はST-Z車両がダンロップコーナー手前で激しくクラッシュ。またしてもガードレール補修の必要があるアクシデントで、ほどなく再度フルコースイエローからセーフティカーランに切り替えられた。
ステアリングを握った石浦は、チームとも協議し再開後にミスファイア対策としてプラグ交換を検討したが、54分の中断を経てのリスタート後に、症状が治まっていることを感じとった。今後原因は探らなければならないが、このまま給水素も行わないまま30分強のスティントを走れそうだ。
その後もST-4クラスの車両からタイヤが外れてしまうトラブルなどでフルコースイエローが導入されるなど、非常に荒れた展開となった最終戦だが、そんななか石浦は着実にフィニッシュまでORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを運び、総合53位でチェッカーを受けた。なお完走車両は59台だった。
今シーズンは大きな進歩を遂げながらも、水素に関わらない部分でのトラブルでなかなか完走することができなかったORC ROOKIE GR Corolla H2 concept。しかし今回は、水素エンジンで走りはじめてからついに、完走車両のなかでの最下位とはならなかった。
「歴史的な一日になったと思います。航続距離も伸びましたし、給水素時間も3分ほどになったので、ST-5車両の何台かよりも前でゴールすることができました」と石浦監督はレースを振り返った。
「何より、完走できたことが何よりいちばんでした」と今季はトラブルの対応に何度も苦い表情を浮かべていただけに、安堵の笑顔が浮かんでいた。
本来であれば、「4時間レースでしっかりと走り切って、3回の給水素をして、ST-5クラスの上の順位にいきたかったですけど」というのは今回レースではドライブしなかった佐々木。
2回の赤旗中断となったことで、実質2時間のレースとなってしまっていた。本来ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptが目指す“半分”の距離しかなかったが、それでもモータースポーツの現場が示すものは“結果”でしかない。その“結果”を残したという意味では、大きな一戦となった。
28 決勝レース
11月17日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ
車体の改良を行ったことで、ドライバーたちのフィーリングは大幅に改善することが確認できていた一方で、排気規制に対応したことで持ち前の車格を超えたスピードは鳴りを潜めてしまっていたORC ROOKIE GR86 Future FR concept。予選を終えた段階でも「レースでもいつも28号車は速いのに『なんで今回こんなに遅いんだ?』とまわりに思われそう(苦笑)」とドライバーたちが語っていたが、そのレース当日がやってきた。11月17日(日)は朝から晴天に恵まれ、午後0時26分から決勝レースの火ぶたが切って落とされた。
ORC ROOKIE GR86 Future FR conceptのスタートドライバーを務めたのは豊田大輔。序盤から、ST-4クラスの#18 GR86を追いながらレースを進め、しばらくするとST-4クラスのチャンピオンを争っていた#3 GR86が大輔の前に現れる。各クラスのランキング上位争いの邪魔はしてはいけない。
「バトルをしているようには見えたと思うのですが、実際はほど遠くて。ストレートの最高速は同じくらいでも、そこに至るまでのトルクが厳しかったです」と大輔は振り返った。
大輔はそんな状況のなか、後方から迫り来る車両をパスさせながらレースを進めていく。今回は65台もの車両が走っており、抜かさせる方も大変な状況だったが、そんな混戦が招いたか、大輔が11周目に入ろうかというタイミングで、ST-3クラス車両が300Rで激しくクラッシュ。フルコースイエローからセーフティカーへと切り替えられ、さらにガードレールの補修が必要となり、赤旗中断となってしまった。
ガードレールの補修には1時間7分を要し、ようやく午後2時20分にレースは再開された。大輔はふたたびコクピットに戻ると、 2分00秒335というベストタイムを記録した後、佐々木栄輔に交代した。
ただ佐々木に代わった後、ややエンジンに変調が出はじめていた。この日は11月下旬とは思えぬ暖かさで、その気温が影響したためなのか、はたまた別の原因なのかは調査が必要だが、油温、水温が上がり始めてしまった。
そんななかでも佐々木はドライブを続けていたものの、36周目に突如としてエンジンがふけなくなってしまった。タービン周辺のトラブルが後で確認されるのだが、レース中の突然のトラブルに佐々木は対処を迫られた。
ただ、佐々木は社員ドライバーとしてはプロであっても、レーシングドライバーとしてはプロではない。わずか数秒の間の対処でなんとかコースの端にクルマを寄せようとしたが、後方から迫ったST-Zクラスの#34 アウディが佐々木を避けきれず、姿勢を乱しガードレールに激しくヒットしてしまった。2台は接触したわけではなかったが、後方で大きなアクシデントが起きてしまった。
なんとかORC ROOKIE GR86 Future FR conceptを佐々木はストレートに戻したが、動揺が収まらない。他の3人のドライバー、モリゾウまでもが駆けつけ佐々木を慰めたが、佐々木にとってはある意味洗礼となった。
「ドライバーとして、もっとやれることはあったかもしれませんが、トラブルの瞬間にウインカーやハザードを出すことは難しいことですよ、と佐々木さんに伝えました」というのは坪井。
またチームのGMも兼ねる大輔は「クラッシュの起因となってしまったので、#34 アウディを走らせるTECHNO FIRSTさんには本当に申し訳ないことをしてしまいました」と語った。
「決してドライバーのせいではないですし、チームとして今後こういうことがないようにしなければいけません」
この後、レースはふたたび赤旗中断となったが、ORC ROOKIE GR86 Future FR conceptのトラブルは解消せず、ここでレースを終えることになってしまった。これまでの実績を引き継ぎつつ始まった新たな挑戦の緒戦は、ほろ苦い一戦ともなってしまった。
1 決勝レース
11月17日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ
今シーズンは2戦を休みながら、タイトル争いの権利を残してきた中升ROOKIE AMG GT3にとって、泣いても笑ってもシーズンラストとなる決勝レースがやってきた。獲得ポイントを考えても、条件はかなり苦しい。やるべきことは、まずは優勝を勝ち取ることしかない。
晴天に恵まれた決勝レースは、午後0時26分にスタートが切られた。中升ROOKIE AMG GT3のステアリングを握ったジュリアーノ・アレジは、序盤3番手につけるが、後方からはランキング首位の#23 メルセデスが接近。65台が走る大混戦のなかバトルを続けていったが、9周目には#23 メルセデスに先行を許し4番手へ。それでも決してペースは悪いものではなく、アレジはトップ3に食らいつきながら序盤戦を戦っていった。
そんななか、12周目にST-3車両が300Rで激しくクラッシュしたことから、レースはフルコースイエローが導入された。翌周にはセーフティカーに切り替えられピットインが可能になった。チームはアクシデントの大きさからセーフティカーが長引くと判断し、アレジを呼び戻すと鵜飼龍太に交代した。
ここでST-Xクラスには一度目の波乱が起きた。セーフティカーが先導する隊列がメインストレートを通過する際、ピットレーン出口は赤信号となる。鵜飼は前走車が停止したこともあり出口で信号をしっかりと守ったが、#23 メルセデスや、#81 GT-Rなどの車両が赤信号でのピットアウトを行ってしまい、これが後でペナルティに繋がることになった。
そしてレースは、ガードレール補修の必要があり1時間超の赤旗中断となった。長い赤旗中断となったことで、Aドライバーの規定乗車時間が変更され、43分を走れば良いことになった。そこで午後2時20分のレース再開後、セーフティカーランでの時間も含め、鵜飼は30分超のスティントとこなしていく。
「プロからも大きく離されるわけでもなくすごく良いスティントでした」と片岡龍也監督が褒めたように、鵜飼は3番手につけ中盤の大役をこなすと、36周を終え予定どおりピットインを行った。
この直後、ダンロップコーナー手前でST-X車両がクラッシュするアクシデントが起き、すぐさまフルコースイエローが入ったが、これが中升ROOKIE AMG GT3に大きく味方した。ピット作業の時間を稼ぎ出すことができ、レースを優位に運ぶきっかけとなったのだ。中升ROOKIE AMG GT3は片岡が乗り込んだが、直後にレースはふたたび赤旗となる。
この中断によって、交代回数の規定がなくなったことから、チームはそのまま片岡がドライブしフィニッシュまで走り切ることを決めた。上位争いを展開していた#31 RC Fや#23 メルセデスはAドライバーへの交代のピットインを残しており、展開は完全に中升ROOKIE AMG GT3に味方していた。
片岡は午後4時のリスタート後も着実なペースでトップを守っていく。一方、ランキング首位だった#23 メルセデスは途中のペナルティ、さらに最後のドライバー交代で順位を落とし5番手に。またランキング2位だった#33 メルセデスもペナルティで3番手に順位を落としていた。
そして夕闇があたりと包み始めるなか、片岡駆る中升ROOKIE AMG GT3は、荒れたレースを制し今季3勝目を飾ってみせるとともに、大逆転でのシリーズチャンピオンを獲得してみせた。
2戦を欠場しながらのチャンピオンに、もちろんチームは沸きに沸いた。
「すべての運が我々に向いてくれたようなレースでしたね」と片岡監督は振り返った。
4人のドライバーたちの力、そして苦しいときでも必ず表彰台を獲得してきたチームの総合力で掴んだ2年連続チャンピオンの座。ROOKIE Racingにとっても、チーム全体の成長を感じることができた忘れ得ぬシリーズ最終戦となった。