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ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE
第7戦 S耐ファイナル 富士4時間レース with フジニックフェス

一年間の努力が結実。ST-Xは目標の総合チャンピオンを獲得

3月に鈴鹿サーキットで開幕した2023年のスーパー耐久シリーズは、いよいよシーズン最終戦を迎えた。舞台は、第2戦富士SUPER TEC 24時間レース以来となる富士スピードウェイ。5月の開催時はROOKIE Racingにとって良き思い出を残すことができたチームの地元レースだ。
 そんな一戦に向け、ORC ROOKIE Racingは第6戦岡山は“お休み”だったが、2台が戻った。今季3回目の参戦となったORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、液体水素ポンプの昇圧性能と耐久性の向上でガソリンエンジン車なみ、さらに気体水素のとき同様の出力を実現。さらに車重もエンジニアたちがひとつひとつ努力を積み重ねた結果、第4戦オートポリスから50kg軽量化。1,860kgとなり、運動性能も向上した。そしてユニークなのが、カーボンニュートラルに向けた取り組みとして、内燃機関がもつ特性を使い、走りながらCO2を回収する機構がつけられた。
 そして、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptもリヤスタビライザーの安定化など、さまざまな改良を施され持ち込まれた。今回、ST-Qクラスのカーボンニュートラルフューエル(CNF)使用車は僅差のバトルが予想されたが、目標は#61 BRZに1周差をつけることだ。
 そしてなんといっても、2台とは異なる緊張感で臨んだのが中升ROOKIE Racing。昨年の最終戦で参戦表明を行ったとき、目標としていたST-X制覇による総合チャンピオン獲得まで、あとひと息というところまで迫って迎える最終戦となった。

スポーツ走行/STEL専有走行11月9日(木)〜10日(金) 天候:晴れ/曇り〜雨 路面:ドライ/ウエット

 このレースウイークは、晴天のもと11月9日(木)のスポーツ走行から始まった。30分ずつ5回の枠が設けられていたが、通常のスーパー耐久とは異なり、サーキットでよく開催されているスポーツ走行で、一般の参加車も走行が可能。特に中升ROOKIE AMG GT3とは速度差も大きく、ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptもともに慎重に、かつ週末に向けて貴重なデータを得るべく走行を重ねていった。
 明けて走行2日目となる11月10日(金)は2回のSTEL専有走行が行われたが、この日の富士スピードウェイは曇り空。午前9時の走行開始後すぐにポツポツと雨が降り出し、開始から20分が過ぎようかというタイミングで本降りとなってしまった。その後雨は終日降り続くことになり、富士スピードウェイはウエットコンディションの一日となった。
 この日、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはモリゾウからドライブを開始。降雨後にピットインを行い、小倉康宏がウエットコンディションのなか走行を行った。第4戦オートポリスに続き、ピットレーンでの給水素作業もすっかり板についてきた。ただ、午後については石浦宏明監督がモリゾウと小倉に確認し、ウエットでの走行は取り止め専有走行を締めくくることになった。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは山下健太から走行を開始。一度加藤恵三に代わった後、ふたたび山下へ。最後は豊田大輔がドライブした。午後は山下の5周だけで走行を終えている。
「『楽しいな』と感じられるクルマになってきました。フロントからターンインして、荷重をうしろに流していく動きがこれまでは難しかったのですが、それがどんどんやりやすくなっていて、気持ち良くリヤに流して走ることができています。GR86が求めたい走りを追求できるようになってきました。もちろん細かいところはまだありますが、このクルマが目指したい“味”がようやくできはじめたのでは」といつになく高評価を下したのは大輔だ。他のドライバーたちもORC ROOKIE GR86 CNF Conceptについては好感触を得ており、レースに向けて大いに期待が高まった。
 一方、中升ROOKIE AMG GT3は、午前は蒲生尚弥から走行を開始し、鵜飼龍太、平良響、そして片岡龍也と交代しながら周回。午後はウエットのなか、鵜飼が確認を行いセッションを終えた。午前は1分40秒800でトップタイムで終えた。ウエットの午後は3台しか走行していないが、1分54秒176というベストタイムで2日間の走行を締めくくっており、予選に向けて感触は上々だった。

公式予選11月11日(土) 天候:曇り/雨 路面:ウエット

 予選日となった11月11日(土)は当初曇りの天気予報が出ていたが、路面はスッキリと乾かず、午前のウォームアップはウエットコンディション。午後1時20分からの公式予選も、時折雨が降り出し路面を濡らす難しいコンディションのなかで行われた。
 ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、まずはAドライバー予選にモリゾウが出走。2分02秒031で、ST-4車両に続く位置につける。続くBドライバー予選では、雨脚が強くなるなか、佐々木が2分07秒015を記録。合算で総合44番手につけ、ST-5クラス車両を上回ってみせた。Cドライバー予選では石浦宏明がST-4車両に食い込む速さを披露。Dドライバー予選を小倉康宏が締めくくり予選日を終えた。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF ConceptはAドライバー予選で加藤恵三が出走。1分54秒625を記録し、他のCNF使用車両を1秒近くリードしてみせる。さらにBドライバー予選では山下健太が難しいコンディションながら1分56秒982を記録し、ST-Qクラスの最速をマークしてみせた。Cドライバー予選では大嶋和也が、Dドライバー予選では豊田大輔がこちらもきっちりと走行を終えている。
 そして中升ROOKIE AMG GT3は、Aドライバー予選に鵜飼が出走したタイミングで雨が降り出してしまう。他のチームは急遽ウエットタイヤに替えたところも多かったが、「濡れる前にアタックを行いました。怖かったですが……」と鵜飼が1分49秒563を記録し、ST-Xの2番手に。その頑張りをBドライバー予選で蒲生がつなげ、合算でポールポジションを獲得してみせ、Cドライバーの平良、Dドライバーの片岡も決勝へ準備を進めつつ、しっかりと予選を終えた。

#32 11月12日(日) 天候:曇り 路面:ドライ


1万6600人という観衆を集め迎えた11月12日(日)の決勝レース。前日までの雨は上がり、この日は曇り空のもとコースコンディションはやや湿った部分が残っていたものの、ドライコンディションで迎えた。ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのスタートドライバーを務めたのは佐々木だ。
 オープニングラップから佐々木はST-4クラスの#216 86や#86 GR86などを相手にバトルを展開していく。今回取り組んできた出力アップ、そして軽量化が功を奏し、ガソリンエンジン車とも互角の戦いを演じていくと、6周目には2分00秒261というタイムを記録し、ここから立て続けに2分00〜01秒のラップタイムを記録する。今回、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは佐々木と石浦のスティントではプッシュ、モリゾウと小倉のスティントでは燃費を伸ばしていくという課題をもって4時間の決勝に臨んでいた。
 佐々木はまず、序盤に導入されたフルコースイエローも無難にこなすと、スタートから12周を走り最初のピットインを行っていく。すると、今度はきっちりと19周を消化。ピットインし、小倉にステアリングを託した。「実は今回、石浦選手とふたりでテストを行っていたので、いろいろなものを変えてきて軽量化やパワーアップなどの努力をタイムというかたちで表現できたことが良かったです」と佐々木は自らのスティント後に笑顔をみせた。
「大きなトラブルもなかったですし、今回はCO2を回収しながらレースをしています。通常のエンジンのクルマでも使えるシステムなので、どんどん他のクルマにも普及してほしいです。このクルマは本当にすごい。面白いです」
 交代した小倉も順調にORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを走らせていたが、このレースで唯一とも言っていい危機があった。「バンプに乗ってしまって」と小倉はTGRコーナーでまさかのスピンを喫してしまった。幸い、どこにも接触することなく、車体も異常なし。一度ピットインした後、ふたたびコースに戻っていった。
「佐々木選手のスティントのときはパフォーマンスを優先していてましたが、僕たちのときには燃費面でどれくらいいけるかということを試していたので、そういったデータ取りの面では申し訳ないことをしてしまいました。クルマは快調でしたが」と小倉は珍しいスピンを悔しがった。
 自らのスティントを終えた小倉は、今度はモリゾウにステアリングを託す。レース後半、雲が厚くなり気温、路面温度も低下し、多くのドライバーたちがタイヤカス等で苦戦していくなかではあったが、モリゾウは2分06〜07秒のタイムをコンスタントに刻み、7周で一度給水素を実施。さらに13周を走ってピットインし、チェッカードライバーの大役を担った石浦にORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを委ねた。
 レース終盤、この時季らしくどんどん周囲が暗くなっていくなか、石浦はレース前に目標としていた「1回の給水素で20周」という目標をまずは達成するために、2分04〜06秒台のラップで周回を重ねていくと、90周目、ついにその時がやってきた。20周を走りピットインし、給水素を実施。ついにレース前に掲げていた目標をレースの舞台で実現してみせた。
 見事大役をこなした石浦は、最後は103周まで走りフィニッシュ。ST-5クラスの完走車の周回が109〜106周だったことを考えると、ついに通常燃料車が目に見えるところまできた。
「序盤は佐々木選手が順調に前をオーバーテイクしてくれ、さらに目標の20周を走り切れました。立てていた目標をクリアできたののは、短時間でクルマを作ってくれた皆さんのおかげです」と石浦は携わったすべての人に感謝を述べた。しかし、液体水素の挑戦はまだ初年度。ここから先に、まだカーボンニュートラルに向けた未来が待っている。

#28 11月12日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

 ここまでドライバー全員が好感触を得て走行を続けてきたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、この決勝レースではこれまで好勝負を演じてきた#61 BRZに対して1周差をつけてレースを終えるべく、11月12日(日)の決勝レースを迎えた。午後1時30分のスタートで、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのスタートドライバーを務めたのは豊田大輔だ。
 多くのファンが見守るなか、大輔にはスタートより前にまさかのハプニングが起きてしまう。ピットアウトし、グリッドにつけようとした大輔だったが、他チームではメカニックがグリッド位置で待ち受けてくれるものの、今回なぜかグリッドにROOKIE Racingのメカニックが誰もおらず、大輔は前方グリッドまで行きすぎてしまった。「ちょっと迷子になってしまいました。無事にスタートできたから良かったものの……。ひと悶着ありました(苦笑)」と大輔。
 そんな騒動にもめげず、序盤からST-3クラスの車両を上回るペースで決勝を戦いはじめた大輔は「燃料を積んだ状態でのバランスが少し良くなかったです」と振り返った。それというのも金曜までにドライでのロングランができていなかったからだが、「ここ数日の“楽しさ”はあまりなかったですが、きっちりとまとめることができました。何より、対61号車という意味では、ギャップを作ることができて良かったです」と手ごたえを得ていた。そんな大輔の後方からは、このところ急激に速さを増す#55 マツダ3が近づいていたが、これは条件も異なる。
 大輔はスタートから1時間近くのスティントをきっちりと走り切り、今度は加藤にステアリングを託した。コース上は非常に台数が多く混雑もひどいが、1分55〜57秒という好ペースでラップを重ねていった。
「順調にレースができました。今回はプロが乗れないタイミングがあったので、自分がセットアップを任せてもらうタイミングもあったのですが、僕たちが良いだろうと思っていたことが逆方向になったりして。かなり勉強させていただきました」とレースを振り返った。「夏場に心配だった出力の問題もなかったです。今シーズンは楽しかったですが、人為的なミスがないようプレッシャーもかかりました」と加藤。
 順調に走行を続けたORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、続いて大嶋に交代。あまりに順調なのか、大嶋のコメントは逆に少ない。「特になんてこともなく、バランスも悪くないです。クルマとしては改善したいところもないこともなかったですが、最後まで安定していて良かったです」と大嶋は走行後語った。
「トラブルらしいことも特になかったですしね」
 2022年のORC ROOKIE GR86 CNF Concept参戦開始後は、多くのドライバーたちからクルマに対しての改善点や不満が数多く聞かれていた。それが2023年はどんどんと減っていき、最終戦にしてほとんどコメントがなくなってきた。文句のつけようがない……というのはこれまでの改善が実ってきたということだろう。
 そんな順調なレースは最後に山下がドライブし、120周を走り切ってフィニッシュを迎えた。目標どおり、#61 BRZに対して2周差をつけてのゴールとなった。また、車格としてはかなり大きい#271 シビックに対しても同一周回だった。
「今日のレースはノーミスで、61号車に対しても2周差をつけることができました。ただ、まだまだ直したいところはたくさんあります。さらに高いレベルで戦えるように、頑張っていきましょう」と監督も兼務する大嶋は、努力を続けてきたスタッフたちを称賛しつつ、『もっといいクルマづくり』へ向けて、さらなる高い目標を目指そうと声をかけた。
 次期GR86に繋がる、そしてもっとワクワクするクルマを作るための活動に終わりはないが、今季の戦いはしっかりと成果を残し、幕を閉じることになった。

#14 11月12日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

 いよいよチャンピオンを賭けた決勝レースに臨んだ中升ROOKIE AMG GT3。スタンドを埋めた1万6600人の観衆が見守るなか、午後1時30分の決勝レースに向けて、スタートドライバーを務めた平良響は全車のポールポジションに中升ROOKIE AMG GT3をつけた。
 今回のST-Xクラスは、上位の全車がスタートにプロドライバーを起用しており、スタート直後、平良には#31 RC Fが襲いかかってくる。さらに#23 メルセデス、#1 GT-Rといった3台とともに、平良はオープニングラップからしばらく耐久レースとは思えないバトルに巻き込まれていくことになった。
 とはいえ、ここで熱くなってレースを失ってしまうようなことはない。まず平良は冷静に2番手につけていった。#31 RC Fは平良にとっても先輩である小高一斗選手が乗り込んでおり、「負けてしまい少し悔しいですが、お互いリスペクトしながらのバトルでした」と平良。
「相手の直線が速いので、周回遅れに引っかかった時のタイムロスがこちらが大きかったです」
 平良が言うとおり、今回#31 RC F、そして#1 GT-Rはメインストレートのスピードが別格に速い。平良、そして#23 メルセデスはペースの良さを活かして#31 RC Fを追いかける展開となっていった。
 平良はスタートから50分ほどとなる28周を終えるとピットに戻り、第2スティントを鵜飼龍太に任せた。今季の王道とも言えるパターンだ。この頃、中升ROOKIE AMG GT3の後方となる3番手につけていた#23 メルセデスはドライブスルーペナルティが課されており、3番手には#1 GT-Rが浮上していた。
「やる気満々で乗り込みました」という鵜飼は交代直後こそ1分45秒台の好タイムを記録しながら周回を開始するが、少しずつ気温、路面温度が下がってくるなか、SUPER GTでもしばしば聞かれるタイヤのピックアップという症状が出はじめてしまう。タイヤの表面にコース上のゴムのカスがくっついてしまう症状だが、プロでも苦労するものだ。
「ひどくカスがついてしまい、他車との接触や自分のミスでクラッシュしたりしないよう、自分の実力と状況を理解した走りはできたと思います」ときっちりと現在置かれている状況を把握し、走りを切り替えていった。鵜飼は今季少しずつ学んできたことをフルに活かしながら、62周まで走り切ると、蒲生尚弥に中升ROOKIE AMG GT3を託した。
 この頃には、順位はプロで繋いできた#1 GT-Rがリード。#31 RC Fが続き、中升ROOKIE AMG GT3の順位は3番手。一方、ポイントランキングで2位につけて最終戦に臨んでいた#23 メルセデスは序盤のペナルティが響き4番手。中升ROOKIE AMG GT3との差があり、このまま順位を守り切り完走できれば、チャンピオンを決めることができる。蒲生はプロらしく、自らに課せられたミッションを理解しつつ、安定した高いペースで周回。ちょうど100周まで走ると、チェッカードライバーを監督であり、チームを牽引してきた片岡龍也に託した。
 片岡は過去にスーパー耐久に参戦していたときもチャンピオンを獲得しており、このレースの戦い方を酸いも甘いも熟知している。当然、このスティントに求められることも。
 片岡は上位2台、そして4番手とのギャップをしっかりとコントロールしながら、陽が傾いて暗くなってきた富士スピードウェイで134周まで走り切り、3位でフィニッシュ。そしてポイントを138.00点まで伸ばし、文句なしのチャンピオンを獲得した。
 ROOKIE Racingにとって、初めてとなるスーパー耐久の頂点、ST-Xクラスのチャンピオン。チームは喜びに沸いた。
「今シーズン、クルマも初めて使うなかで、みんなで手探りで始まったシーズンでしたが、苦しいときもチーム一丸となって富士24時間を勝ち、3勝を飾ることができました。チームが成長した結果、最終戦をチャンピオンというかたちで締めくくることができました」と監督を兼務し重圧と戦ってきた片岡は、喜びをチーム全員と分かち合った。