GR86 が戦線復帰。終わらぬもっといいクルマづくりへの挑戦続く
『もっといいクルマづくり』、『カーボンニュートラルに選択肢を』─ ORC ROOKIE Raing の挑戦が、今年も九州に上陸した。今季第4戦となる『スーパー耐久レース in オートポリス』の舞台であるオートポリスはアップダウンが激しいテクニカルなレイアウトで、どちらかといえばシャシーを含めた基本性能の高さがラップタイムに表れやすいコースだ。
ORC ROOKIE Corolla H2 concept は昨年に続く2回目の挑戦。マシンは細部を中心にアップデートを実施。具体的には水素エンジンのさらなる進化を遂げた。第3戦SUGO で出力向上にともなう新たな異常燃焼に対する課題をクリアしたため、今回は航続距離向上のための適合を実施。加えて水素タンク内の残圧コントロールを行うことで、圧力が下がった時でもエンジンに安定した水素供給を可能に。これらの改善により、1タンクでの航続距離向上を果たしている。また、燃料となる水は、九州のさまざまな地域で様々な方法で生成されたグリーン水素を使用。これは水素社会の実現のための重要な要素のひとつ「水素の地産地消」でもある。
一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept は九州初上陸だ。第1〜2戦でさまざまな課題が起きたことから、『クルマの根本を見直す必要がある』と車両のアップデートを実施。見た目の変更点はクーリングのためにダクト付ボンネットの装着程度だが、車両全体に大きく手が入っている。具体的にはエンジンは出力向上(+7kW)、シャシーは解析を元に適材適所に補強がプラスされるなど、これまでの課題を克服した。
専有走行:7月28 日(木)〜29 日(金) 天候:晴れ 路面:ドライ
オートポリスの走行は、晴天に恵まれた7月28 日(木)からスタートした。ORC ROOKIE Racing のピットは昨年と逆の1コーナーに近い45 / 46 番を使用。その隣にはいまやS耐の特徴のひとつになりつつある移動式水素ステーションが設置されているが、昨年よりもコンパクトにまとめられた印象。オートポリスへの水素ステーション設置は2回目ということもあり、改善も進められている。
オーナーであるモリゾウが言うところの「ROOKIE Racing はレーシングチームだけど、家族のような存在」はいつもと変わらないものの、今回イレギュラーな出来事がチームを襲った。それは、個性派ぞろいのチームメンバーをいつも取りまとめている片岡龍也監督が体調不良で欠席となってしまったのだ。
そのためORC ROOKIE CorollaH2concept は石浦宏明、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは大嶋和也がそれぞれ監督代行兼ドライバーとして陣頭指揮を執ることになった。
7月29 日(金)もオートポリスは晴天。午前8時15 分からスタートした専有走行では、ORC ROOKIE Corolla H2concept はモリゾウからコースイン、小倉康宏に交代し周回を重ねていく。一方ORC ROOKIE GR86 CNF Concept は蒲生尚弥からコースインすると、豊田大輔、鵜飼龍太と交代していった。
午後0時15 分からの専有走行2 回目では、ORC ROOKIE Corolla H2concept は佐々木雅弘とモリゾウが走行。モリゾウの走行時にターボパイピングが外れピットイン……というトラブルもあったが、午前にモリゾウが記録した2分09 秒467 と、午後の佐々木の2分09 秒829 というタイム差に、佐々木は焦りの表情。さらに石浦監督代行は「モリゾウ選手のデータロガーを読み込んで勉強します」とも。走行後のモリゾウは満面の笑みで「気持ちよく走ることができた。明日は天気次第だね」と語った。
一方ORC ROOKIE GR86CNF Concept は蒲生尚弥と鵜飼龍太が走行。途中クールスーツ用の水漏れというトラブルはあったが、蒲生は「非常に乗りやすくなりました。ただ、まだまだ課題はあるので、そのあたりをチームと話したいと思います」と走行終了後にドライバー/エンジニア揃っての熱いディスカッションが長い時間にわたって続けられていた。
公式予選:7月30 日(土) 天候:雨 路面:ウエット
土曜は朝から雨が降ったかと思うと突然青空が顔を出すなど、オートポリスならではの不安定な天候。午後1時45 分から行われた予選は雨は止んだものの路面は完全なウエットで行われた。ORC ROOKIE Corolla H2 concept はまずAドライバーの佐々木がアタック。序盤で2分11 秒312 を記録したが、アタック中に縁石を乗り超えた時にマシンに異変を感じてピットイン。確認を行うと、右フロントのショックアブソーバーのアッパーサポート部のロッドが破損していた。しかしすぐに修復を終え、Bドライバーのモリゾウがアタックを開始。「雨、降らないでね」の祈りは残念ながら届かなかったが、雨の中でのアタックで安定した走りで2分18 秒738 を記録。その後、Cドライバーの石浦は2分14 秒320、D ドライバーの小倉康宏は2分18 秒276 を記録、規定タイムをクリアした。
一方、ORC ROOKIE GR86CNF Concept はAドライバーの蒲生がアタックを行い、2分06 秒182 を記録。クルマが暴れる感じはなく仕上がりも良さそうだ。続くBドライバーの豊田大輔は走行前「雨はタイムが出るか心配」と口にしていたものの、いざアタックに入ると2分13 秒206 を記録。走行後に大輔は「従来はカミソリの上を走るようなラインで走らないとタイムが出ないようなクルマでしたが、今回はその幅が広がった印象で、乗りやすいクルマになっていました」という。開発責任者の藤原裕也は「エンジニアリングとドライバーのフィーリングがやっと噛み合ってきた感じです。上出来の予選」とホッとした様子だった。
その後、C ドライバーの大嶋は2分28 秒301、D ドライバーの鵜飼は2分15 秒937 を記録し、規定タイムをクリアした。
32号車決勝レース 7月31 日(日) 天候:曇り/雨 路面:ドライ/ウエット
決勝日となる7月31 日(日)、不安定な天候は変わらないが、台風の接近は避けられ雨は止み路面はドライに。チームは決勝前のウォームアップ走行をスキップしたが、これは「マシンの仕上がりは良好」という証だ。午前8時45 分から行われたピットウォークには多くのモータースポーツファンが集まり、感染対策のためドライバーとの距離は若干離れてはいたが、リアルにファンとの交流を楽しんだ。第4戦はピットウォークに参加できなかったモリゾウも参加したが、注目の高さは言うまでもなく、3人のドライバーたちに加え、モリゾウ自身もどことなく嬉しそうだった。
午前11 時からの決勝レースで、ORC ROOKIE Corolla H2 concept のスタートドライバーを務めたのは佐々木。小雨がぱらつくコンディションで、他チームはスタート進行ギリギリまでタイヤセレクトに悩んでいたようだが、ORC ROOKIE Racing は迷うことなくドライを選択。佐々木は序盤から他クラス車両と混ざってバトルを展開しながらまずは7周でピットイン。2スティントでドライバー交代を行う作戦を組んでいく。22 周目にピットインを行うと、モリゾウに交代。こちらも安定したスティントを刻んでいく。給水素回数がガソリン車より多いのは去年と変わらないが、実は1回の給水素での走行可能な周回数は11 → 13 周と昨年より伸びているのだ。将来の市販化を考える意味では大きな進化である。進化を感じる1時間15 分を走りきると、小倉康宏へステアリングを委ねた。
レースはモリゾウから小倉に代わる頃になると少しずつ晴れ間も見えはじめ、ドライコンディションでレースが進んでいが、小倉が2スティントをこなし石浦宏明に交代した後、少しずつ小雨が舞いはじめた。石浦と言えどラップタイムが少しずつ下がっていく状況となっていった。
レースは残り30 分を切る頃になると、さらに雨脚が強くなりはじめ、ドライタイヤで走ることはできない状況に。路面は完全にウエットコンディションとなった。最後にORC ROOKIE Corolla H2 concept のステアリングを握ることになったモリゾウはウエットタイヤを履き、チェッカーに向けてコースインを果たした。非常にスリッピーなコンディション、さらにチェッカー間際にはフルコースイエローが入るなど、難しい状況となっていったものの、モリゾウは最後までORC ROOKIECorolla H2 conceptをしっかりとコントロール。5時間のレースを走りきった。
前戦同様、ORC ROOKIE Corolla H2 concept がきっちりと走りきるいつものシーンに見えるが、これまでと違うことは「ルーティン作業以外はノンストップ」で完走できたこと。つまり、信頼性の部分も前戦に続き実証されたということだ。ちなみに周回数は109 周と昨年の85 周を大きく上回った。これも速さ&航続距離が向上した“証拠”だ。
レース終了後の終礼でモリゾウはチームオーナー兼ドライバーとして、チームメンバー全員にこう言葉をかけた。
「今回2台そろって完走することができませんでしたが、ST-Q は『もっといいクルマづくり』に取り組むことが目的のカテゴリーです。今回の結果を無駄にせず、一歩、一歩、1戦1戦着実に進んでいくことで、我々の望んでいる『もっといいクルマ』に近づくと信じています。ドライバーとしては、本当はドライで走りたかったですが、これも練習かな……と(笑)。ただいつもよりも気持ちよく走れたような気がします。皆さん、ご苦労さまでした」。
ORC ROOKIE Racing がスーパー耐久に参戦を行う目的は“勝つこと”ではなく“未来を作ること”だ。今回、ORC ROOKIECorolla H2 concept が残した結果はあくまでも途中経過であり、ここで得たものをいかに次に活かすことができるのかが大事なミッションだ。
クルマ好き、レース好きの未来のための挑戦に終わりはない。
28号車決勝レース 7月31 日(日) 天候:曇り/雨 路面:ドライ/ウエット
「速さと乗りやすさがバランスされてきましたが、まだまだ『誰でも安心して』走ることができない状況です。ここからリスタート」とこの週末、鵜飼龍太が語っていたORC ROOKIE GR86 CNF Concept の2戦ぶりの決勝レース。厚い雲が立ちこめ、小雨がパラつくなかでスタートドライバーを務めたのは、その鵜飼だ。実は鵜飼は初のスタートドライバーで、スターティンググリッドで緊張している鵜飼に、チームオーナーでもあるモリゾウは「緊張している顔してるよ(笑)。力入りすぎてない? 楽しんでる?」と緊張をほぐすシーンも見られた。それが功を奏したか、鵜飼はST-2 クラスの車両に混ざりながらペース良く序盤のレースを戦っていった。
13 周目には、同じカーボンニュートラルフューエルを使うライバルである#61 BRZ に先行されるも、鵜飼は安定した走りを続け、スタートから1時間11 分、29 周を走りピットインし、蒲生尚弥にドライバーチェンジ。路面はほぼドライとなったことで蒲生は2 分07 〜08 秒台のラップタイムを記録しながら追い上げ、BRZ のピットインのタイミングで前に出ることに成功した。
蒲生は69 周まで走りピットインし、豊田大輔にORC ROOKIE GR86 CNF Concept のステアリングを託す。しかし、大輔へのドライバー交代のタイミングでマシンに異常が報告され、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはピット内に移動した。原因はアッパーマウントのボルトの緩みで、メカニックが増し締めを行いピットアウトしたものの、このタイムロスによりBRZ とは2周の差がついてしまった。
大輔はピットアウト後、2分08 〜09 秒台を記録しながら追い上げを期していったが、スタートから3時間07 分が過ぎたころ、「パワーが出ない!」と緊急ピットイン。エンジニア/メカニックは即座に故障診断を開始した。チェックに時間がかかるとの判断から大輔はいったん降車し、スポットクーラーで汗にまみれた身体を冷やした。話を聞くと
「鈴鹿で起きた症状によく似ている。場所が良かったので戻ってくることができたが、ジェットコースターストレート下だったら無理だった……」という。
その後、エンジンを再始動させて問題がないことが確認され、再びコースイン、約30 分のロスとなったもののここから挽回……となるはずだった。
しかし、そこからわずか10 分後、先ほどの症状が再び発生。大輔はORC ROOKIE GR86 CNF Concept を1コーナーのランオフエリアに乗り入れそのままストップ。ピットまで戻ることも考えたが、トラブルの原因は燃料ポンプのヒューズ切れで再発の可能性も高いことから、チームはリタイアを選択することになった。ちなみに#61 BRZ は途中クラッチが切れないトラブルでエア抜きを行うロスタイムがあったが、それ以外はほぼノントラブルで完走している。
最終的に決勝レースでORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのステアリングを握ることができなかった大嶋和也監督代行は「前回、参戦を止めて改善を進めましたが、まだまだ課題があり完走できなかった。次に向けてみんなで話し合い、次戦ではしっかりと完走して終えられるようにしたい」と語り、すでに気持ちを次のレースに向けていた。
その後、大嶋監督代行とメカニックたちは雨が降り続けるなか、けん引されてピットに戻されてきたORC ROOKIE GR86 CNF Concept と大輔を迎えに走った。いちばん悔しい思いをしているドライバーのケアをいち早くしたい……という想いが行動に出たのだろう。
1戦をスキップしてまで臨んだ結果が完走に結びつかなかったことは悔しいところだが、これも改善の途上なればこそ。そしてORC ROOKIE Racingが家族のようなチームであることを感じさせる一面が垣間見えた気がした。
2022 年第4戦オートポリス リザルト
2022 年第4戦オートポリス データ
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