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ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第5戦 もてぎスーパー耐久 5Hours Race

初挑戦で新たな課題も見つかる。GR86 は新たなスタートラインに

2022 年のスーパー耐久シリーズも残すところ3戦。『もっといいクルマづくり』、『カーボンニュートラルに選択肢を』などさまざまな目的をもちシリーズを戦うORC ROOKIE Raing は、第5戦の舞台となる栃木県のモビリティリゾートもてぎに臨んだ。モータースポーツ界で言う“ストップ・アンド・ゴー”のレイアウトで、ブレーキにも厳しいコースでもある。晩夏の季節、ドライバーへの負担も大きいレースだ。
2021 年は開幕の舞台であったこともあり、ORC ROOKIE Corolla H2 concept はこのもてぎでの初走行。ピットレーン入口すぐにある車検場に水素ステーションが設けられた。この大会に向けて水素エンジンの出力、トルクアップが目指され、これまで予選で使用していたパワーアップされた“モード”を決勝レースでも使用するトライがなされた。

第4戦オートポリスではトラブルが発生したORC ROOKIE GR86 CNF Concept の開発も休むことなく進められている。パワーやブレーキの開発などが果たされたが、次期車両へ向けた開発を兼ね、これまでもさまざまなアイテムが盛り込まれている。「バランスを取るのが難しいのかもしれません(片岡龍也監督)」というが、このもてぎに向けては、さらにシフト操作時に回転数を合わせてくれる機能が盛り込まれた。市販車でも『iMT(インテリジェントマニュアルトランスミッション)』として採用されているものだが、「みんなが乗りやすく、対話ができるクルマ(鵜飼龍太)」としてサーキットでも“武器”にもなる機能だ。


専有走行 9月1日(木)〜2日(金) 天候:曇り/雨 路面:ドライ/ウエット

 走行開始となった9月1日(木)のもてぎは曇り空。しかし湿度が非常に高く、テントでジッとしていても汗が流れ落ちてくる。午後1時から3時間行われたORC ROOKIE Corolla H2 concept はハーネスのトラブルもあり周回数を伸ばせなかったが、佐々木雅弘がドライブした後、小倉康宏、モリゾウも大粒の汗をかきながらドライブ。水素の燃費をそのままにパワーを上げるトライやダンパーの確認などを行っていった。

明けた9月2日(金)は、午前9時30 分から専有走行が行われたが、雨によりレインコンディションに。ORC ROOKIE Corolla H2 concept は走行を見合わせ、午後2時からの専有走行では曇り空になったことから周回を開始した。佐々木からモリゾウ、小倉と繋ぎ、最後はモリゾウが再び乗り込むが、ここでモリゾウは2分17 秒365というベストタイムを記録。佐々木のベストともほとんど変わらず、周囲を驚かせた。この走行後、翌週に行われるWEC 世界耐久選手権に参戦するTOYOTA GAZOO Racing の6人のドライバーとの『タイムアタック対決』がトヨタイムズの企画として行われたが、ここでふたりのドライバーがORC ROOKIE Corolla H2 concept に乗り込むも、いずれもモリゾウのタイムを上回れず。WEC ドライバーたちにとっては初めてのもてぎ、初めての水素エンジン車での走行とは言え、こちらも大きな驚きとなった。またタイムアタック対決も佐々木と石浦宏明が挑み、ORC ROOKIE Racing が勝利。笑顔で専有走行日を終えた。

 一方のORC ROOKIE GR86 CNF Concept も実り多き専有走行となった。木曜特別スポーツ走行から金曜グループ2専有走行、午後の全クラス専有走行とラップを重ねたが、「制御系は変更がありましたが、改善していますし、前戦のトラブルも対策できています」と大嶋和也が語れば、新搭載のiMTを歓迎するのは豊田大輔だ。

「シフトダウン時にヒール・アンド・トゥをするとき、ブレーキの踏力が減ってしまっていたのですが、iMT を入れていただいたことで、クルマとの対話に集中できるようになりました。すごくポジティブです。クルマとしてはまだスイートスポットが狭いところがありますが、自分の習熟とアップデートに集中しています」と大輔。

 またこの日、ST-4 のTOM’SSPIRIT GR86 のドライバーの河野駿佑が発熱があり、欠場することに。ORC ROOKIE Racingの鵜飼龍太が予選日からTOM’SSPIRIT GR86 に乗り込むことになった。開発ドライバーでもある鵜飼はORC ROOKIE GR86 CNF Concept とTOM’S SPIRITGR86 を同週末で乗り比べる貴重な機会を得ることになった。


公式予選:9月2日(土) 天候:曇り 路面:ドライ

予選日となった9月3日(土)のもてぎは曇り。午前10 時からウォームアップが行われ、ORC ROOKIE Corolla H2concept、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept ともに周回を重ね午後1時からの公式予選に臨んだ。
ORC ROOKIE Corolla H2 concept はまずAドライバーの佐々木が2分14 秒083 という好タイムを記録。続くBドライバー予選では、モリゾウが魅せた。2分16 秒561 と、前日までのタイムを大幅に縮めてみせる。このタイムに動揺したわけではないが、Cドライバー予選でユーズドタイヤでアタックした石浦は2分15 秒618 を記録するも、モリゾウとは1秒以内と僅差。さらに予選後、走路外走行があったとして石浦のベストタイムが抹消され、2分17 秒347 という予選結果に。なんと同コンディションでモリゾウが先行してしまったのだ。これには石浦も苦笑い。佐々木は「結果的にいちばん若い、スーパーフォーミュラ二度のチャンピオンの石浦選手に勝っちゃいましたから。モリゾウさんは常に進化しているんです」と評した。
小倉も2分16 秒936 を記録し、予選を締めくくった。

 一方ORC ROOKIE GR86CNF Concept はまず蒲生が2分08 秒817 とST-2 なみの速さをみせると、大輔が「少し失敗してしまった」と言いつつも2分11 秒105 を記録。合算で総合28 番手と同じST-Q の#61BRZ のひとつ前のグリッドにつけた。「狙っていた諸元に対してセットアップがすごく良くなっています。必要だったあるパーツを取ったことで、すごく幅が広がった」と大輔は言う。大嶋も2分10 秒789 を記録するも、黄旗中だったことでベストタイム抹消。2分11 秒754 が予選通過タイムとなった。


32号車決勝レース 9月4日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

もてぎには1万人のファンが訪れ、賑わいをみせるなか迎えた9月4日(日)午前11 時からの決勝レース。グリッドでもさまざまな自動車メーカーの首脳陣がORC ROOKIE Corolla H2 concept のもとを訪れ、モリゾウと言葉をかわした。

薄曇りのなか迎えたスタートで、ORC ROOKIE Corolla H2 concept のステアリングを握ったのは小倉康宏。もてぎは「好きなコース」だが、序盤からST-4クラスの車両と抜きつ抜かれつのバトルを展開していった。「まわりが燃料をたくさん積んでいるなかで、水素エンジンは燃料の重さがない。すごく楽しく序盤のレースを戦うことができました」と小倉は振り返る。ORC ROOKIE Corolla H2 concept 自体も小倉の言うとおり快調で、10 周を終え、まず最初の給水素を終えると、2分18 〜20 秒ほどの安定したラップタイムでさらに11 周を走りピットイン。ちょうど1時間ほどというタイミングで、チームスタッフ全員と握手を交わしたモリゾウがいよいよステアリングを握った。

 モリゾウも小倉同様、2分19秒台から2分20 秒台の安定したラップでORC ROOKIE Corolla H2 concept を走らせていくが、ちょうどスタートから1時間30分ほどで給水素を行うタイミングで、モリゾウがエンジンが吹けない症状を訴えてきた。ORC ROOKIE Corolla H2 conceptはガレージに入り、急ぎトラブルの原因を探っていった。

 このトラブルの原因は、今回「パワーも上げて、回転数も上げる新たなチャレンジをした(佐々木)」結果による熱害。対策を施し、水素エンジンも冷却されると、ORC ROOKIE Corolla H2 concept は元気なエキゾーストノートを取り戻した。急遽予定よりも早くドライブすることになった石浦宏明が30 分間のガレージインを経て、ふたたびコースインしていった。

「自分のスティントではトラブルは解消しており、気持ち良く走ることができました」と石浦は快調なペースで走行を重ねると、43周に一度給水素を行い、56 周までドライブ。佐々木にステアリングを託した。「ST-Q クラスは開発も兼ねているので、こうして実走でトラブルが出て、それを解消できたことは次に繋がることだと思っています」と石浦はこのレースを振り返った。

佐々木のスティントでもすっかりトラブルは解消しており、61周目には2分15 秒262 というベストタイムを記録してみせる。「今回、実はパワーも上げて、回転数も上げる新たなチャレンジをしています。それでいて燃費はそのままでいけるトライをしています。木曜日に回して金曜日に結果を出し、日曜に改めて投入したのですが、最初のチャレンジではトラブルも出たりしたものの、再チャレンジしたときは走れたんです」と佐々木。

「トラブルが起きるとき、起きないときの違いがなんなのかを今後に繋げ、トラブルが出ないようにするという次への課題を得られました。そういう意味では収穫です」少しずつ夕暮れが近づいていくなか、佐々木は80 周まで走り、ピットへORC ROOKIE Corolla H2 concept を戻した。ピットで待ち受けるのは、ふたたびすべてのスタッフと握手を交わし待ち受けたモリゾウだ。

 モリゾウが乗り込んだのは午後3時とはいえ、この日も湿度が高くまだまだ体力的には厳しい。そんななか、交代してすぐに2分18 秒370 という自己ベストタイムを記録。まわりを驚かせてみせた。終盤にはフルコースイエローなども入りなら、モリゾウはORC ROOKIE Corolla H2 concept をちょうど100 周のチェッカーに導き、仲間たちが待つピットに手を振った。

 トラブルこそ出たが、カーボンニュートラルへの挑戦はまだまだ道半ば。壁を乗り越えた先にこそ未来がある。今回初登場となったもてぎで、ORC ROOKIE Corolla H2 concept はその意義とたくましさを披露した。


28号車決勝レース 9月4日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

迎えた9月4日(日)の決勝レース。ORC ROOKIE GR86 CNF Concept のスタートドライバーは、「実はもてぎはあまり得意ではなかったので、今日はたくさん走って克服したい」と語っていた大輔。しかし序盤から、同じST-Q クラスでカーボンニュートラル燃料を使う#61 BRZ が後方につけてきた。しかも#61BRZ にはプロドライバーで昨年ORC ROOKIE Racing の仲間だった井口卓人が乗っている。。
相手は大輔のことを良く知っている。もてぎでの抜きどころで61 BRZ は大輔に迫ってくるが、ORC ROOKIE GR86 CNF
Concept はストレートでの加速が優っており、勝負どころを見極めた大輔はしっかりディフェンス。一歩も引かない走りをみせ、その走りは1万人のファンが訪れたもてぎを沸かせた。

延々と続くこのバトルだが、実はORC ROOKIE GR86 CNF Concept にとっては大きな意味があることだ。これまでの3戦、
「スイートスポットが狭い」とドライバーたちに指摘され続けていた。この日はTOM’S SPIRITGR86 をドライブしていた鵜飼が言う「誰が乗っても乗りやすく、対話ができるクルマを目指しています」というORC ROOKIE GR86 CNF Concept のコンセプトが、大輔がバトルを楽しめる状態にまで具現化していたのだ。
大輔は#61 BRZ を抑えたまま、22 周を終えピットイン。蒲生尚弥にステアリングを託すと、その表情からは笑顔がこぼれた。
「スタートからずっとバトルで、すごく楽しかったです。井口選手が相手で、自分の成長を知っている人と戦えましたし、お互いにリスペクトしてバトルができました」と大輔。
「井口さんとのサーキット上での“対話”は本当に楽しかったです」
ステアリングを受け継いだ蒲生も「いろいろな発見がある週末ですし、進化を感じました」とラップを積み重ねていく。第2戦富士、さらに第4戦オートポリスとトラブルが続いていたORC ROOKIEGR86 CNF Concept だが、今回は快調だ。蒲生は60 周までしっかりとスティントをこなすとピットイン。大嶋和也に交代した。
 
この時点でレースはすでに半分となる2時間30 分ほどを経過しており、コースコンディションも少しずつ変化。「燃料をフルに積んでいたときは少しアンダーステアで、思ったよりも燃費が良くなかった」と自らのスティントをきっちりとこなすべく、リフト&コーストと呼ばれる燃費セーブのドライビングを駆使していった。それでも大きくタイムを落とすことなくラップを重ねた。「クルマも最低限コントロールできる範囲に入ってきた。今までとはレベルが違うクルマになっていました」と大嶋はORC ROOKIE GR86 CNF Concept を評した。
「ただクルマがすごく良くなったとは言え、コントロールの範囲内に入ってきた状態。このデータをもとに開発し直していけばさらにレベルが上げられると思います」大嶋は98 周目まで走り、ふたたび大輔にステアリングを託した。
大嶋同様にややアンダーステアを感じ、また第1スティントとはブレーキのフィーリングも変わっていたが、「自分のスキル
のなかでコントロールできる範囲内だったので、その幅が広くなっているのがすごくポジティブなところでした」と129 周の
チェッカーまできっちりとORC ROOKIE GR86 CNF Conceptを運んだ。

 夕焼けが差すなか、ピットに戻ってきた大輔は「クルマもアップデートできましたし、今回はモータースポーツの楽しさを感じることができました。ひさびさに『レースしたな』という感覚です。それにノートラブルで走れたのは鈴鹿以来だったので、それが何より嬉しいです」と笑顔をみせた。
 

もちろん、まだこれは大嶋が言うところの「コントロールの範囲内に入ってきた」だけの状態。ORC ROOKIE Racing はこの笑顔に満足せず、もっといいクルマづくりを続けていく。
「このデータをもとに開発し直していけば、さらにレベルが上げられるんじゃないかと思います」と大嶋は語った。
次なるクルマづくりの新たなステップへ向けて、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept は新たなスタートラインに立った。


2022 年第5戦茂木 リザルト


2022 年第5戦茂木 データ


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