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ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Powered by Hankook 第1戦鈴鹿

挑戦は新時代。『もっといいクルマづくり』は休む間もなく続く

挑戦の春、ふたたび。今年もORC ROOKIE Racingが挑むスーパー耐久シリーズは、開幕戦を3月18〜19日、三重県の鈴鹿サーキットで迎えた。今シーズン、ORC ROOKIE Racingは、総合優勝を目指すST-Xクラスに挑む中升ROOKIE AMG GT3を加え過去最多となる3台体制に。大所帯となったが、それでもオフシーズンの公式テストからアットホームな雰囲気で、開幕戦に向けた準備を進めてきた。
 さらに、2022年から継続参戦する2台もそれぞれ新たな挑戦を始める。32号車ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、これまで使用していた気体水素に代わって、世界的に見ても困難な挑戦となる液体水素を燃料として使用。カーボンニュートラルの選択肢を増やす新たなチャレンジをスタートさせた。ただ、開幕前の公式テストこそ走行が叶ったものの、その後3月8日の社内専有テストの際に火災が発生。フェールセーフが働き大事には至らなかったが、開幕戦までの修復は不可能と判断し、2021年第2戦まで使用していたORC ROOKIE GR Yarisを投入。もちろん、『モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり』のためには、ただ参戦するだけでは意味がない。空力など、多数のパーツを盛り込んで鈴鹿サーキットに登場した。
 そして2年目の挑戦となるORC ROOKIE GR86 CNF Conceptも、ライバルのBRZと切磋琢磨を続けるべく臨んだ。こちらも新機軸を盛り込んだほか、社員ドライバーを新たに起用。クルマだけでなく、人も育てる一年にすべく、開幕戦に臨んだ。


特別スポーツ走行/専有走行:3月16日(木)〜17日(金) 天候:晴れ 路面:ドライ

迎えた3月16日(木)の走行初日。晴天に恵まれ、まずは午後0時15分からスタートしたグループ2の特別スポーツ走行にORC ROOKIE GR86 CNF Conceptが出走し、続く午後1時30分からのグループ1の走行枠には中升ROOKIE AMG GT3、そしてORC ROOKIE GR Yarisが走行。この日は1時間ずつのセッションが2回ずつ用意されており、途中クラッシュによる赤旗中断などを挟みながら周回を重ねた。
 明けて3月17日(金)は午前10時からグループ2、午前11時からグループ1の専有走行が行われ、午後は全クラス混走で2時間の専有走行が行われた。ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは午前は山下健太がドライブした後、大嶋和也、加藤恵三と交代。午後は大嶋、加藤がドライブした。この日はSUPER GTのテストでクラッシュし、負傷していた山下の回復具合を確認する目的もあったが、ドライブは問題ないものの、交代時にまだ違和感があり、チームは大事をとって山下を欠場させ、社員ドライバーの佐々木英輔に交代させることになった。
「昨年から使っていたものから煮詰めたりしていますが、感触が良いですし、クルマとしてレベルが上がっています」と言うのは今季監督も兼務する大嶋和也。
 一方、ORC ROOKIE GR Yarisは午前は佐々木雅弘、モリゾウ、小倉康宏とドライブ。午後はMORIZO、小倉、最後に石浦宏明がドライブした。意欲的なパーツを盛り込んだGR Yarisだが、ひさびさにドライブしたGR Yarisで、水素カローラとは異なるドライビングの楽しさを4人ともに感じている様子だった。
「楽しいですよ! リヤウイングやエアクリーナーなど、新たなGRパーツを投入していますが、一戦も無駄にしない取り組みを行っています」と佐々木。また小倉はサーキットレースでの初めてのGR ヤリスだが、佐々木同様「楽しいですね」というコメント。もちろん今回鍛えたものは水素カローラに活かせるものも多い。
 そして、ST-Xクラスを戦う中升ROOKIE AMG GT3は、午前は蒲生尚弥と鵜飼龍太、午後は平良響から鵜飼、蒲生、そして片岡龍也と交代しながら周回を重ねた。ST-Qクラスを戦う2台とは異なり、勝つための戦いだ。なかでもキーを握るのは、Aドライバーの鵜飼、そして初めてのST-X参戦となる平良。鵜飼は「少しずつ慣れてきていますが、速度域が速いのでトラフィックの処理の仕方、相手に迷惑をかけない走り方に気をつけています」と語った。また平良も、今までスーパー耐久では抜かれる側の参戦だったが、抜く側となったことでのドライビングの対応を続けていた。


公式予選:3月18日(土) 天候:雨〜曇り 路面:ウエット〜ドライ

予選日となった3月18日(土)は、前日夜から降り続いた雨のため、午前のフリー走行はウエットとなったが、3台ともに走行を重ね、午後2時からの予選に臨んだ。なお路面がわずかに濡れていたことからBドライバー予選がAドライバー予選に先駆けて行われた。
 まず出走したORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、大嶋が2分17秒968を記録。続いて出走したORC ROOKIE GR Yarisは佐々木が2分17秒658でわずかにGR86を上回ってみせる。そして、中升ROOKIE AMG GT3は、蒲生が2分00秒076と、総合トップタイムを記録してみせた。
 続くAドライバー予選では、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの加藤が2分19秒706と、初予選ながら好タイムを記録してみせる。そしてMORIZOも負けじとORC ROOKIE GR Yarisで2分21秒731を記録し、チームに明るいムードをもたらした。
 そして周囲を驚かせたのが中升ROOKIE AMG GT3の鵜飼だ。2分02秒725を記録し2番手に。中升ROOKIE AMG GT3は、合算でも総合2番手。デビュー戦でフロントロウを獲得してみせた。「初めてのスピード、タイムだったので、自分でもどこまでいけるか分かりませんでしたが、安全マージンをとって走りました」と鵜飼。
「ポールポジションは獲れず少し残念でしたが、無事クルマを戻せて良かったです」と笑顔をみせた。
 そしてORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは総合28番手、ORC ROOKIE GR Yarisは総合31番手と、非常に“近い”位置に。3台ともにC、Dドライバー予選をきっちり締めくくり、ORC ROOKIE Racingは明るい雰囲気で予選日を締めくくった。


#32 決勝:3月19日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

不安定な天候となった予選日から一転、迎えた3月19日(日)の決勝日は開幕戦にふさわしい晴天に恵まれた。これまで快調なペースで週末を進めてきたORC ROOKIE GR Yarisは、モリゾウがスタートドライバーとして開幕レースを戦うことになった。
 これまでもGRヤリスのドライビングを楽しんでいる様子だったモリゾウは、グループ1の最後尾からスタートを切ると、4周目には2分22秒703というラップタイムを記録。順調に周回をこなしていく。今回、同じST-QクラスのORC ROOKIE GR86 CNF ConceptやBRZと近いペースではあるが、無闇に展開を追うのではなく、まずはきっちりと20周をこなすとピットイン。佐々木雅弘に交代した。
 佐々木への交代後、レースは一度コース上のオイル漏れのため一度セーフティカーランとなる。ただそんな荒れ始めた展開にも惑わされることなく、佐々木は時折2分20秒台のラップを記録しながら、54周目まで34周をきっちりとこなしていった。
「全体的にクルマの良いところ、モリゾウ選手のスピード、小倉選手のスキルアップを感じられるレースになったのではないかと思っています。僕たちはレース展開に惑わされることなく、4人がそれぞれしっかり乗ることが目的なので、速さ、タイヤの使い方など、良いレースにすることができたのではないでしょうか」と佐々木。「またこのクルマでレースをして、28号車と争うのも楽しいかもしれませんね」
 代わってドライブしたのは小倉。GRヤリスでの初レースともなったが、これまでも2020年にGRスープラをドライブした経験もあり、速度域もまったく問題なく、またモリゾウと切磋琢磨する関係で、さらにこのスティントでは28号車を豊田大輔がドライブしていたことから、小倉は大輔と僅差の2分23秒台のタイムを記録しつつ、こちらも順調にラップを重ねた。
「すごく楽しかったですよ。GRヤリスは軽さもありますし、動きも良いクルマですからね。楽しくドライブできました。同じクラスの車両がうしろから来たりして、その動きを勉強したりしながらラップを重ねることができました」と小倉は27周という周回を走り、ストップ車両が多く出たことからセーフティカーランとなったタイミングでピットイン。レースはこの時点で3時間42分が経過しており、その後石浦宏明に交代。終盤に向けてラストスパートに入っていった。
 石浦はセーフティカーラン解除後6周目、2分20秒885というタイムを記録。この時点で、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptも順位が近く、ピットではお互いに順位を意識しながらの走行を楽しんでいた。
 ただスタートから4時間10分が経過したところで、ST-5クラスのトップ争いをしていた車両が130R立ち上がりで激しくクラッシュしてしまった。ドライバーの安全、さらにガードレール修復が必要となったことから、そのまま赤旗終了に。石浦のスティントは11周のみとなってしまったが、クラッシュしたドライバーがコクピットから脱出できた報せが届くと、ピットはホッと胸をなで下ろした。
「スタートからモリゾウ選手が良いペースで走ってくれて、同じST-Qクラスの車両のペースを見ながら、かなり戦える感触があったので、僕たちにとってはひさびさに緊張感あるレースをできました」と石浦は振り返った。
「最後はチーム内バトルも意識していたのですが、セーフティカー明けにちょっと運が悪くて(苦笑)」と、ちょっとしたズレでORC ROOKIE GR86 CNF Conceptとは1周差がついてしまったが、「盛り上がりもありましたし、水素カローラのときとは違う面白さがあったので、こういった緊張感を水素カローラのときも持ちながらやっていきたいですね」と今季から監督も兼務する石浦は、今シーズンの開幕戦の戦いをまとめてくれた。


#28 決勝:3月19日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

晴天のもと迎えた3月19日(日)の決勝日、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのスタートドライバーを務めたのは監督も兼務する大嶋和也だ。グループ2のスタート直後、ST-3クラスの車両の背後から、ライバルとなるBRZをリードしつつレースをスタートさせた。2周目には2分20秒926というラップタイムを記録し、その後もコースがクリアな状態で2分21秒台を立て続けに好タイムをマーク。BRZに対してのレースを進めていった。
「今年初レースとしては順調で、ペースもクルマも良い状況でした。路面温度が上がってきて乗りづらいところもありましたが、鈴鹿、そしてこのタイヤでは仕方ないところもありました。監督も務めつつみんなで意志疎通もできましたし、良い序盤にできたと思います」と大嶋は振り返った。
 レースはその後、開始から1時間が近づこうかというタイミングでフルコースイエローからセーフティカーに切り替えられるが、このタイミングで大嶋から初レースとなる佐々木英輔にステアリングを委ねた。
 社員ドライバーである佐々木は、緊張もありながら周囲からの支えもありきっちりと周回を重ねていく。「レース経験がほとんどなかったので、何もかも新鮮で楽しかった反面、体力的にも精神的にもいろんな意味で大変でした(苦笑)」と佐々木はスティントを振り返る。しかし、このレースを経験することで大きな気づきを得た様子だ。
「大変だったということは、自分のなかで足りなかったこと、今後やらなければいけないことを、レースを戦ったことで見えてきました。今後、次の戦いに向けて自分のなかでいかにブラッシュアップさせるかが明確になったので、その点は良かったです」
 佐々木は22周の自らのスティントをしっかりとこなしピットイン。山下健太の代役という大きな仕事を終え、豊田大輔にステアリングを託した。昨年限りでスーパー耐久参戦はひと区切りの予定だった大輔は、このレースウイークがひさびさのレーシングカードライブ。週末を通じてドライビングスキルを取り戻し、非常にコンスタントなラップをこなしながら30周という非常に長いスティントをこなしてみせた。
「楽しかったですね」と噛みしめるように大輔は語った。「昨年からスバルさんと戦ってきましたが、今季はクルマの開発ということをしっかりと確認し、ジェントルマンとプロのラインアップを合わせてやってきましたが、次のクルマに向けたことは胸襟を広げながら協調しながらやっていこうとしています」と大輔。
「僕のスティントでは、タイヤが良いときは良いのですが、タイヤがタレてしまってからは、クルマを曲げるために使えるものはなんでも使おうと、引き出しをすべて使って、ある程度安定して走ることができたと思います」
「また、社員ドライバーのふたりがある程度しっかり走ってくれたことが嬉しいです。僕たちは誰が乗っても速く走れるクルマづくりを目指していますから」
 その大輔の評価にもあったうちの社員ドライバーのもうひとり、加藤恵三がORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのコクピットに乗り込み、レース終盤に臨んだ。
「鈴鹿で木曜から走らせていただきましたが、レースも初めてですし、鈴鹿というコースも含めて、経験値が少なすぎるなかで乗り込みましたが、佐々木選手同様、20年以上会社でクルマに乗らせていただいた経験から、クルマと対話しながら走ることはできたと思っています」と着実なラップタイムで走行を続けた。
 残念ながら加藤のスティントは、スタートから4時間10分が経過したところで発生したアクシデントのためレースが赤旗終了となってしまい、11周のみで終わってしまうことになったが、「佐々木と一緒に今後もレベルアップしていきたいですね」と今後に向けて語った。
 レースの結果で言えば、プロがふたり乗り込んだBRZが先着することになったが、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptにとってはドライバーふたりの経験、そしてクルマの感触と、しっかりと手ごたえを得た開幕戦を終えることになった。

も兼務する石浦は、今シーズンの開幕戦の戦いをまとめてくれた。


#14 決勝:3月19日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

中升ROOKIE AMG GT3にとってのデビューレースとなる3月19日(日)の第1戦の決勝。他のチームの2台と異なり、目的はもちろん勝つことだ。そんなデビューレースのスタートドライバーという大役を務めることになったのは、TGR-DCドライバーで、初めてのST-Xクラスでのレースを戦う平良響。ポールポジションからスタートした#500 GT-Rを追い、まずは2番手でレース序盤戦を続けていった。
 そんななか、スタートから15分が過ぎる頃になると、後方からは少しずつ#31 RC F GT3が近づいてくる。ドライブしているのは平良が昨年スーパーフォーミュラ・ライツでチームメイトだった小高一斗選手。平良はしばらくはしっかりとポジションを守っていたが、スタートから28分というところの1コーナーでインを突かれ、S字までサイド・バイ・サイドの戦いを展開するも、先行を許してしまった。
「クルマの特性上、向こうの方がストレートが速いことはレース前から分かっていて、要所は抑えていたポイントが少し漏れて抜かれてしまいました」と平良。しかし見ごたえのあるバトルをみせると、その後はしっかりと3番手をキープし、一度目のセーフティカーランのタイミングを見逃さずピットイン。鵜飼龍太に交代した
 予選では素晴らしいタイムを記録し、チームを大いに盛りたてた鵜飼だったが、初めてのST-Xでのレースで困難に直面する。今回のレースはST-XからST-5まで全クラスが出走し、タイトで中高速コースが続く鈴鹿は他クラスをかわしながら高いラップタイムを維持するのが非常に難しいのだ。
「初めてST-Xクラスでレースを走りましたが、予選のようにまわりにいない状況ではしっかりクルマと対話することができましたが、他クラスの車両とのやり取りや、路面の変化に対し、まだドライビングがしっかりできていないなかで、他の要素が入ってくると、まだまだ足りないところがあると感じました」と鵜飼。
「もっとクルマを理解して走らせられるようにならなければいけないですし、もっと速度差があるレースができるようにしたいです。課題は多かったです」
 後方からプロが駆るライバルに先行は許したものの、それでも順位はまだまだしっかり表彰台、そして優勝が狙える展開。チームは規定の75分を走り切った鵜飼の健闘を讃えつつ、追い上げを期してエースである蒲生尚弥を送り出した。
 しかし、蒲生は2周を走った後、ピットに中升ROOKIE AMG GT3を戻してしまう。なんとギアが狙ったものに入らなくなってしまったのだ。原因はシフトポジションのセンサーのトラブル。長年メルセデスAMG GT3をドライブしている片岡龍也監督でさえ「あんなことは珍しい」という小さな部品のトラブルで、この交換のために28分を要してしまうことになった。残念ながら中升ROOKIE AMG GT3のデビュー戦優勝、そして表彰台の夢は限りなく遠くなってしまった。
 しかし、ここでレースを終えるわけにもいかない。シーズンを考えたとき、ここで得られるものはすべて得ておきたい。チームは急ピッチで修復を終えると、ふたたび蒲生をコースへ送り出した。83周目、蒲生は2分03秒511というラップライムを記録しハイペースで飛ばしていった。
 ただそんな追い上げも、ST-5クラス車両のクラッシュのため赤旗中断となってしまったことから、追い上げ半ばで途絶えることになってしまった。中断前、片岡もステアリングを握りコースインしていたが、「0.8周したところで終了となってしまいました(苦笑)」と決勝はほとんどドライブできずとなってしまった。とはいえ、それでも素早い修復の甲斐もあり、7位で完走扱いに。6点とはいえ、しっかりとポイントは得ることができた。
「ドライバーはそれぞれ経験が必要だと感じましたが、初戦ですからね。抜いていくのはすごく難しいです。チームとしても課題が見えましたし、チームメンバーもスーパー耐久は初めての人が多かったですから。良い経験ができたと思いますし、富士に向けて良い材料になったのではないかと思います」と片岡龍也監督は開幕戦を振り返った。


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