NEWS & REPORT

ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE 第5戦 スーパー耐久レース in もてぎ

DATの挑戦はじまる。ST-Xは苦戦を強いられる

 2023年のスーパー耐久シリーズはいよいよ後半戦。第5戦の舞台となったのは、栃木県のモビリティリゾートもてぎだ。ブレーキに厳しいコースだが、この夏の猛暑もあり、8月31日(木)の走行初日から、気温35度を超える酷暑との戦いともなった。
 そんな週末に向け、ROOKIE Racingは今季これまでのレース同様3台体制で挑んだ。ST-Xクラスに参戦する中升ROOKIE AMG GT3は第4戦オートポリスでの優勝によりランキング首位につけているが、同時にウエイトハンデも厳しくなってきた。しっかりと上位につけレースウイークを終えることが求められた。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは前後の剛性アップを狙ったパーツを導入。市販車のGR86でもテストされてきたパーツだが、初日からしっかりと効果を確認することができた。
 そして、液体水素を使った挑戦は第4戦オートポリスの後、開発期間を設けるべく第5戦もてぎは参加せず。とはいえ、“もっといいクルマづくり”の挑戦は留まるところを知らない。TGRラリーチャレンジ等でテストを重ねてきた『ダイレクト・オートマティック・トランスミッション』を使用したORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptを投入することになったのだ。
 ROOKIE Racingのオーナーであるモリゾウが、たくさんの人たちにスポーツドライビングを楽しんでもらえれば……という思いのもと開発がスタートしたオートマティック・トランスミッションを搭載しており、この第5戦から新たな挑戦がスタートした。

特別スポーツ走行/STEL専有走行 8月31日(木)〜9月1日(金) 天候:晴れ 路面:ドライ

走行初日となった8月31日(木)は、午後1時から3時間の特別スポーツ走行が行われた。走行開始時点ですでに気温は35度を超え、ジッとしていても汗が噴き出してくるような陽気。チームスタッフも大粒の汗をかきながら3時間の走行をこなした。
 順調に週末に向けた準備をスタートさせたのは中升ROOKIE AMG GT3。Aドライバーの鵜飼龍太も、蒲生尚弥や片岡龍也などベテランからのアドバイスを聞きながら週末の流れを進めていく。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは走行途中に小さなトラブルが発生してしまい、途中長いピットインを強いられてしまうことに。監督も兼務する大嶋和也は剛性アップの狙いはしっかりと感じられたとしつつも、トラブル発生に「もったいなかったです」と振り返った。一方、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは佐々木雅弘のコースイン時にやや手間取ったものの、その後少しずつペースを上げていった。
 明けて9月1日(金)は午前9時30分から、グループ2の専有走行が始まった。ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは山下健太、加藤恵三と交代し周回。ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは佐々木、モリゾウと交代しながらラップを重ねた。午前10時45分からのグループ1の走行では、中升 ROOKIE AMG GT3は蒲生、鵜飼と交代し周回した。
 午後2時から行われた2時間の専有走行では、中升ROOKIE AMG GT3は平良響から走行を始めると、鵜飼、蒲生、そして片岡と交代。決してタイムが劣っているわけではないが、ウエイト分、さらに今回は性能調整もありライバル勢が速い状況だ。
 ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは山下から加藤、そして最後は豊田大輔が周回を重ねていくことに。この日はトラブルはなく、充実した2日目を送っている。
 そしてORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは佐々木からモリゾウ、石浦、ふたたび佐々木と交代しながら周回。時折ステアリングに装着されたパドルシフトを操作しシフトチェンジを行うことがあったものの、ほとんどの時間、ドライバーたちはDレンジに入れたまま、プログラミングに任せて走行を重ねた。シフトチェンジから解放されたモリゾウや小倉康宏は、プロのふたりとタイム差が縮まったことに喜びの声を上げた。「パドルも試してみましたが、Dレンジで走っている方が正確に作動してくれているので驚いています」と小倉も驚きを語った。ただ、熱の問題があり、ストレートスピードも伸びない。そこで、チームとTOYOTA GAZOO Racingは急遽車体の改良を実施。深夜、早朝に作業を行うことになった。

公式予選 9月2日(土) 天候:晴れ 路面:ドライ

 9月2日(土)も変わらぬ暑さのなかで迎えた予選日。ウォームアップでも3台は周回を重ねたが、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは前夜の大改良が実り、冷却性能が上がりストレートスピードも改善。ただ、これにより燃費が悪くなってしまったこともあり、ウォームアップ終了時にコース上にストップしてしまった。
 改良の弊害がさらに公式予選でも出てしまう。モリゾウがアタッカーを務めたAドライバー予選では、なかなかコースインできず、ようやく走りはじめたところで電気系のトラブルによりV字コーナーでストップしてしまった。ただ、ここでモリゾウから届いた無線でトラブルの原因が明確となった。佐々木のBドライバー予選までにトラブルが解消。2分08秒872で、惜しくもST-2クラスのGR YARISには届かなかったが、好タイムを記録することに。C、Dドライバー予選でもトラブルが再発することはなかった。
 一方、ORC ROOKIE GR86 CNF ConceptはAドライバー予選で加藤が「少し失敗してしまいました」と語るも、きっちりと#61 BRZを上回るタイムを記録。Bドライバー予選では山下健太が2分08秒098というタイムを記録し、大嶋、豊田大輔ともしっかりと予選を終えたが、熱の問題がやや課題となっていた。
 そして、ST-Xクラスの中升ROOKIE AMG GT3は、Aドライバー予選で鵜飼龍太が「最終コーナーで少し欲が出てしまいましたが、ウエイトハンデを考えると良いタイムが出せたのでは」と好タイムを記録。Bドライバー予選でも蒲生尚弥がアタックを決め、フロントロウの2番手を獲得した。片岡龍也監督も「ウエイトを考えると順調だと思います」と手ごたえを得ている様子だった。

32号車 決勝レース 9月3日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

3日間の走行を経て迎えた9月3日(日)の決勝日。朝方こそ曇り空だったものの、決勝レースを前にして気温はグングンと上昇。気温33度/路面温度42度という厳しい暑さのなか、午前11時14分、決勝レースの火ぶたが切って落とされた。
 前日の公式予選ではAドライバー予選を走れなかったことから、最後尾からレースを戦うことになったORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは、モリゾウがスタートを務めた。
 今回はST-5クラスの開催がないことから、前を走るのはST-4クラス車両が主だが、モリゾウはスタート直後からST-4車両を続々とオーバーテイクしてくる。DATの好影響でドライビングに集中できているのか、ペースも快調。9周目には、なんとORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの背後まで追いついてきた。
 モリゾウは19周を走るとピットインし、小倉康宏に交代する。今回は、前半の2時間をジェントルマンドライバーで、後半の3時間をプロで繋ごうという作戦が組まれていた。
「思っていたよりも良いペースで走れました。ただ、後半少しタイヤがタレてきたときは操作性が難しかったところはありました」と小倉。「スティント終盤は少しダウンシフトを入れたときもありましたが、ずっと楽に走れました」とDATも快調だったと振り返った。
 スティント序盤にはフルコースイエローも入るなど難しいなかでの走行となったが、小倉はしっかりと29周をこなすとピットへ。今度は佐々木にステアリングを託した。ここからはプロの出番だ。
「温度の問題もほとんどクリアすることができました。あとは、実はLSDに問題があったんです。予選のときに、ニュータイヤを履いてもユーズドタイヤとタイムが変わらなかったんです。ニュータイヤを履くとクルマが傾き、イン側がホイールスピンしてしまい、3速に上がったりしていたんです」と佐々木。
「燃料やタイヤによっても変化があったりなど、DATについては今回の決勝レースを通じて、さまざまな気づきがありました。そういったLSDの改良をすれば、MTよりもタイムは良くなると思います。それに、何より楽です(笑)。パドルでも走ることができますしね」
 そんなさまざまな発見を得ながら27周を走った佐々木は、76周目にピットイン。レースの残り2時間ほどを、石浦宏明に託すことになった。
 石浦も他のドライバー同様、Dレンジに入れたまま周回を重ねていき、途中一度ピットインを行うが、その直前には2分10秒855というレース中のベストラップも記録。このタイムはST-2クラスで優勝した#225 GR YARISのMTでのタイムに0.2秒差まで近づくものであり、石浦のペースの良さもあり、続々とST-2車両をオーバーテイクした。
 さらに終盤には、ST-2クラスの2番手を走っていた#7 ランサーが近い距離となった。ATのレーシングカーで歴戦の猛者を抜くことができれば、DATの大いなる可能性を証明することもできる。
 コクピットで快走をみせる石浦に、#7 ランサーとのギャップを報せる無線が飛んだ。無線の主はモリゾウだ。石浦はその期待に応えプッシュを続け、#7 ランサーを抜くまでには至らなかったものの、同ラップでフィニッシュすることに成功した。
「正直、初日の状態だったら完走できなかったと思います。それくらいこの4日間の進化はすごいと思いました」と石浦はレースウイークを振り返った。
「みんなでテレビ電話を繋いで、エンジニア同士がどんどん改良してくれるんです。その改良の現場を皆さんの前で観てもらいましたからね。もし市販化されたときに、『あのときの現場のクルマか』と分かるのが良いですよね」
 走り出しこそ苦戦したDATでの初挑戦は、市販化も見据える大きな可能性を残しレースを走り切った。佐々木は「ST-2クラスで戦ってみたい」と次なる挑戦へワクワクした表情を浮かべた。

28号車 決勝レース 9月3日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ


9月2日(土)の公式予選では、ST-2クラス車両を上回る総合31番手につけたORC ROOKIE GR86 CNF Concept。とはいえ、ライバルである#61 BRZはすぐ後方の33番手、そして今回も燃料を変更するなどさまざまなトライを繰り返し、速さを増している#55 MAZDA 3も34番手と、まったく侮れない。予選までで確認された剛性アップの走りを活かすべく、決勝レースでも先着することを目指した。
 今回、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのスタートドライバーを務めたのは豊田大輔。午前11時14分に迎えたスタート直後、大輔はシフトがうまく入らず、やや出遅れてしまう。そんななかで1コーナーイン側に向けてアプローチしていくが、#61 BRZの山内英輝選手がやや強引にさらにイン側を突いてきた。2台は1コーナーでまさかの接触を喫してしまう。
 大輔にとってはわずかにミスがあったことも事実ではあるが、「少し向こうが強引ではなかったかな、という印象があります。あちらはプロですし、こちらはジェントルマンで、ラインを1本残していたので……」と大輔は接触を残念がった。
 幸いにも車両を破損するほどではなく、2台はそのままレースを続けていくが、ふたたび競り合いのなかで2台は接触してしまう。これも大輔にとっては「ちょっと残念」な出来事ともなってしまった。
 ただその後、大輔は先行することができ、加えて後方からROOKIE Racingカラーのマシンが近づいてくるのに気がついた。モリゾウが駆るORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptだ。後続をかわし近づいてきていたが、ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは先にピットイン。「同じくらいのペースで楽しかったんじゃないでしょうか(笑)」という大輔との2台のランデブー走行はそこで終わりを告げた。一方の大輔も接触の影響もなく、29周のスティントを終えるとピットイン。加藤恵三に交代した。
 加藤は燃費の厳しさ、さらに暑さもあったことからタイヤも労りながら周回を重ねていったが、51周目、まさかのアクシデントが。バックストレートでブレーキングした際、右フロントタイヤがパンク。幸いピットに帰り着くことができ、車両にダメージはないままピットに戻ることができた。「その後はバランスを見ながら走っていきました」と加藤は緊急ピットインがありながらも、63周まで走りピットイン。今度は大嶋和也に交代した。
 序盤の接触、さらに加藤のスティントでのタイヤトラブルなど、さまざまなことがあったORC ROOKIE GR86 CNF Conceptだったが、大嶋に交代してからのスティントは順調そのもの。「燃費走行をしていきましたが、タイヤが消耗してくるとアンダーステアが強くなったり、熱の影響でパワーがいまひとつ出なかったなど課題はありましたが」と自らのスティントを振り返った大嶋だったが、何事もなくきっちりとスティントを遂行。残り1時間15分強のスティントを山下健太に託した。
「気温、路面温度が下がってきたのでペースも良かったですし、クルマのバランスとしては過去いちばん良かったくらいでした。燃費に気を遣いながら走りましたが、クルマの進化を感じることができました」と、この終盤のコンディションにORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはフィット。快調なペースで129周を走り切った。タイヤトラブル等もあったことからORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptには先着されてしまったが、それでも今回のクルマの進化は十分に結果に結びつけることができたと言えるだろう。
 次戦岡山は、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは欠場。次回の登場は最終戦富士となる。次世代のGR86に繋げるため挑戦を続けてきたが、今季の集大成とするべく、チームは最終戦に臨んでいく。

14号車 決勝レース 9月3日(日) 天候:晴れ 路面:ドライ

 ドライバーたちの頑張りにより、予選で3番手につけた中升ROOKIE AMG GT3。今回、性能調整やランキング首位によるウエイトハンデなど厳しい面もあるが、シリーズランキングを考えれば表彰台は獲得しておきたいレースに臨んだ。9月3日(日)の決勝日は気温33度という暑さとなったが、メルセデスAMG GT3はクーリングが優れており、ドライバーにとっても優しいことも武器と言えた。
 そんな決勝レースのスタートドライバーを務めたのは平良響。フロントロウの2台はジェントルマンドライバーがスタートドライバーを務めていたが、平良はなかなか2番手を攻略することができず、逆に背後につけた#23 メルセデスAMG、#202 NSXに攻められる展開となってしまう。8周目には#23 メルセデスAMGに先行を許してしまうが、逆に30周目、#1 GT-Rがラップダウン車両と接触しグラベルストップ。フルコースイエローが導入され、ここで中升ROOKIE AMG GT3は3番手に戻った。とはいえ、実力で#1 GT-Rを抜けたわけではない。今季悩まされている決勝ペースの悪さが今回も出る展開となってしまった。「なぜなのか分かりません。自分のドライビングも含めて原因を探って、これだろうと臨んでまたこれなので……」と平良は悔しがった。
 37周を終え平良は苦しいスティントを終え鵜飼龍太に交代。着実な走行を続けたが、「一生懸命走りましたが、やはり他の車両とのやり取りがうまくできず、無難な走りになってしまいました」と鵜飼は自らのスティントを振り返った。しばらく鵜飼は3番手をキープしていたものの、プロドライバーが駆る#31 RC Fに先行を許し、直後ピットイン。自らのスティントをこなし、蒲生尚弥にステアリングを託した。
 ただ、蒲生もいまひとつペースを上げることができずにいた。加えて、コクピット内では思わぬトラブルが起きていた。メルセデスAMG GT3はシートポジションは固定で、アクセル、ブレーキ、クラッチがついたペダルのベースを動かしてドライビングポジションをとる。そのペダルベースがしっかり固定されず、動いてしまっていたのだ。身長177cmの蒲生ならばまだドライブできていたが、最終スティントに控える片岡龍也の場合、身長170cmとわずかに小さく、ペダルがしっかり踏めない恐れがあった。
 蒲生は109周までなんとかコース上に中升ROOKIE AMG GT3をとどめ、ルーティンストップのタイミングまで引っ張りピットイン。チームは片岡に交代する際に一度ガレージインさせ、ペダルベースの修復に当たることになった。給油等の作業を終え、スケートに載せ中升ROOKIE AMG GT3を90度ターンさせると、メカニックたちはガレージに車両を押し始めた。
 しかし、ここでさらなる思わぬトラブルが。運転席側のドアが開いており、給油塔に引っかかってしまったのだ。「ガン!」という鈍い、嫌な音がピットに響き渡る。この衝撃でドアヒンジを壊してしまい、ペダルベースの修復に加えて思わぬタイムロスを喫してしまった。
 20分強の作業時間を経て、片岡はコースに戻りチェッカーまで走り切ったが、9周遅れの6位。ポイントこそ得られたが、思わぬ取りこぼしとなってしまった。
「作業での出来事については、チームにとって良い教訓になったと思います。ただ、根本的に今日のレースはウエイトがあったにせよ、遅すぎました。シーズンを通じてペースは悪かったですが、ウエイトも相まって余計それが強調されてしまいました」と監督兼務の片岡は振り返った。
「かなり厳しい展開となりましたが、しぶとくレースを続けていくしかないですね」と片岡が語るとおり、シリーズは残り2レース。根本的なペースの改善を行わなければ、僅差で守っているランキング首位の座も簡単に失ってしまう。中升ROOKIE AMG GT3にとって、正念場だ。