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ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC 24 時間レース

水素エンジンの挑戦は2年目に。GR86 も新たな課題を見出す

 ORC ROOKIE Racing の終わらぬ『もっといいクルマづくり』への挑戦は、4回目の挑戦となる第2 戦『NAPAC 富士 SUPER TEC 24 時間レース』を迎えた。

2021 年、世界を驚かせた水素エンジン投入によるカーボンニュートラル社会実現に向けた『意志ある情熱と行動』がスタートを告げたのもこのレース。あれから1年が経ち、チームはシーズンのハイライトとも言えるレースに、充実の体制で臨むことになった。

 初参戦から速さ、そして給水素時間などを大幅に改善してきたORC ROOKIE Corolla H2 concept は、今回世界初公開さ

れたばかりのGR カローラ RZ のボディに変更された。これにより、ドライビングフィールは大幅に向上した。また、今回も『つくる』『はこぶ』『つかう』の仲間が増え、神戸製鋼のトンあたりのCO2 排出量の削減率が100 % である

『Kobenable Premier』を、水素エンジンカローラのサスペンションメンバーに使用。ジャパンハイドロが6月から国内販売およびレンタルを開始する『水素専焼発電機』を、富士スピードウェイ内イベント広場の一部ブースで使用し、電力供給を行う。

そして、ドライバーも勝田範彦、TOYOTA GAZOO Racing WRT の代表であるヤリ=マティ・ラトバラを加えることになった。さらに、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept もレース2戦目を迎え、富士に新たな改良を施し持ち込まれた。今回はさらに関口雄飛という頼もしい助っ人を加え長丁場のレースを戦う。ライバルのBRZ も軽量化を施しているだけに、戦いは注目を集めた。


専有走行:6月2日(木) 天候:晴れ 路面:ドライ

 富士 SUPER TEC 24 時間レースの週末は長い。晴天に恵まれた6月2日(木)の専有走行から臨んだORC ROOKIE Racing だが、まずは午前10時20分からスタートした専有走行1回目で、ORC ROOKIE Corolla H2 Conceptは佐々木雅弘が、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept は蒲生尚弥がステアリングを握りコースイン。セットアップを進めていった。
ただ、開始から1時間が近づこうかというタイミングで、ST-Q クラスに今回から参戦する車両がクラッシュ。ガードレールにもダメージが及び長い赤旗中断となった。
再開後、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept はそのまま蒲生が、ORC ROOKIE Corolla H2 Concept は佐々木が4周をこなした後、モリゾウに交代。ここでモリゾウは2分02 秒703 というベストタイムをマークする。水素エンジンカローラが登場してから1年間のクルマ、そしてドライバーの進化をまずは証明してみせる。
インターバルを経て、午後2時40 分からスタートした専有走行2回目は、午前に続き晴天のもと迎えた。ORC ROOKIE GR86CNF Concept は蒲生が5 周を走った後、豊田大輔に交代。21周をこなし1 分58 秒463 をマーク。その後、鵜飼龍太に交代し、鵜飼も14 周を走行。1 分57 秒871 というベストタイムをマークした。ただ、大輔も鵜飼も今回のGR86 は「スイートスポットが狭い」と評している。
一方、ORC ROOKIE CorollaH2 Concept はモリゾウからコースイン。13 周を走り2 分01 秒554 というベストタイムを記録した後、いよいよヤリ=マティ・ラトバラにステアリングを託した。レース前、モリゾウから「左手のシフト操作を練習しておいて」というメッセージが寄せられていたが、やはりラトバラは右ハンドルに当初は慣れることができないでいた。ラトバラは少しずつペースを上げながら13 周を走ったが、ベストタイムは2 分01 秒757。モリゾウにわずかにベストが及ばなかったのだ。しかもその後にドライブした勝田範彦にもベストタイムで抜かれてしまった。
「アキオさんに勝てるように頑張らないと!」とラトバラは専有走行の後、佐々木や石浦宏明に質問をしながら過ごした。ORC ROOKIE Racing に、国を超え、世代を超えてのドライビングの話の華が咲くことになった。夜間走行では、今回夜を担当する石浦、勝田、蒲生、大輔がそれぞれドライブした。


公式予選:6月3日(金) 天候:曇り/雨 路面:ドライ/ウエット

 走行2日目となる6月3日(金)は、午後0時から行われる公式予選のみというタイムスケジュール。まずはグループ2の公式予選がスタートし、Aドライバー予選にはORC ROOKIE Corolla H2 concept は佐々木が出走し、1 分58 秒867 という好タイムをマーク。また、ORC ROOKIEGR86 CNF Concept は蒲生がアタック。1 分55 秒236 と、今回デビュー戦となるST-4 のTOM’S SPIRIT GR86 を上回るタイムをマークしてみせた。
続くBドライバー予選では、ORC ROOKIE Corolla H2 concept を駆ったモリゾウが魅せる。それまで2分01 秒台までしかマークできていなかったモリゾウだが、ラップを重ねるごとにタイムを縮めていくと、8周目にはなんと2 分00 秒540 まで
タイムを縮めてみせたのだ。ピットでは熱心にドライビングを指導してきた佐々木が歓声を上げる。
このタイム合算の結果、ORCROOKIE Corolla H2 conceptは総合37 番手グリッドを獲得した。
TGR 佐藤恒治プレジデントも予選後に行われた記者会見では「1年で7秒短縮するなんて、なかなかできない」と驚くもの。水素エンジンカローラとドライバーの進化を感じさせた。


 一方のORC ROOKIE GR86CNF Concept は、大輔がアタック。こちらも負けじと1 分56秒617 と大幅にタイムアップ。
合算でも32 番手につけた。Cドライバー予選では突然の強い雨が降り赤旗中断もあったが、Dドライバー予選、E・Fド
ライバーのフリー走行でも全ドライバーがしっかりとタイムをクリア。ラトバラは2 分01 秒224というをマークしてみせた。ドライブを楽しんでいる様子で、決勝レースも「楽しみだね!」と笑顔をみせた。


32号車決勝レース 6月4日(土)〜5日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

6月4日(土)午後3時、いよいよ決勝レースの火ぶたが切って落とされた。スタートの大役を担ったのはモリゾウだ。ST-4 クラスの集団のなかに挟まれながら冷静に序盤をこなし、一度給水素を行った後、53 分を走りラトバラに交代。石浦、勝田と繋いでいく。序盤は非常に順調だ。

 しかしすっかり暗くなり、午後8時が近づこうかという頃、ORC ROOKIE Corolla H2 concept は一度ガレージに入る。

もともとこのレースではインジェクターを交換する予定だったのだが、データをチェックしたところ早めの交換が必要と判断したためだ。この作業には1時間30 分ほどを要してしまうが、何よりも大事なことは「走り続けること」と片岡龍也監督。

佐々木雅弘に交代し、午後9時35 分にピットアウトすると、午後10 時30 分前には1分59 秒876 というベストタイムをマーク。快調ぶりをみせた。もともとの予定どおり、夜間は佐々木、そして石浦が担当する予定だったが、暗いなかをそれぞれ6スティントずつ担当。午前0時30 分過ぎには石浦が乗り込み、深夜の走行を続けていった。ピットアウトのたびにマネージャーがペンライトで石浦を盛り上げ、それに応え午前3時半前までの長丁場を乗り切った。2021年の初参戦時は給水素のために頻繁なピットインが必要だったが、明らかに航続距離が伸びている。

クルマの成長を大いに実感しながら、レースは早朝を迎えていった。

 午前4時過ぎからは、ふたたび勝田が乗り込み一度ピットインした後、2スティント目に入っていく。しかしナイトセッション終了間際、夜が白みはじめた午前4時50 分、勝田はコカ・コーラ・コーナー立ち上がりでスピンを喫しクラッシュ。フロントにダメージを負ってしまった。

 ORC ROOKIE Corolla H2 concept にはこれまでなかったアクシデント。ピットに戻った勝田は思わず天を仰いだが、チームスタッフは急いで「走り続ける」ために修復にかかる。ピット裏からは急いでスペアパーツが出されていくが、カラーリングはされておらず真っ黒。ちょうどこの頃サーキットに戻ったモリゾウも見守るなか、ステッカーを貼り“ワンチーム”で元の姿に近づけるべく作業が進められていった。

 フロントが黒くなったORC ROOKIE Corolla H2 conceptがコースに戻ったのは、午前7時25 分、小倉康宏のドライブでふたたび走り出すと、ラトバラ、モリゾウ、そしてふたたび勝田と交代。休息をとった佐々木、石浦と乗り込んでいく。ただ、レースもすっかり終盤となり、コース上には他車のラバーがたっぷり乗った状態。「すごく滑りやすい状況でした」と石浦もドライブに苦戦し、また、インジェクター交換の後はややパワーも絞っていたこともあり、ラップタイムはプロでも2分02 秒台となっていく。

 そんな状況もあり、小倉、ラトバラも同様にラップタイムに苦しんでいくが、ORC ROOKIE Corolla H2 concept 自体は好調。残り35 分、2年目の挑戦を締めくくるべく、ふたたびモリゾウがコクピットに乗り込んだ。

 ところが、モリゾウは難しいコンディションのなか、2分02 秒台を記録していく。これにはピットで見守ったプロたちも目を見張った。「最終的にモリゾウさんの予選でのベストタイムをラトバラさんが抜けなかったんです。驚きました!」というのは佐々木だ。

「トータルの走行距離も伸び、今回水素エンジンカローラがもつ目一杯を出せたと思います。モリゾウさんのタイムもそうですが、運転のスキルも伸びている。まさに人もクルマも鍛えられたのが今回の24 時間レースだったのではないでしょうか」

 最後はORC ROOKIE GR86 CNF Concept、TOM’S SPIRIT GR86 と並んでチェッカーを受けたモリゾウ。

「意志ある情熱と行動」のもとに始まったカーボンニュートラルへの挑戦の2年目は、こうしてレースのフィニッシュとともに、新たな挑戦への始まりを告げた。


28号車決勝レース 6月4日(土)〜5日(日) 天候:曇り 路面:ドライ

6月4日(土)午後3時の決勝レースに向け、ORC ROOKIE
GR86 CNF Concept のスタートを担ったのは大輔。走行初日から「スイートスポットが狭い」と語っていた大輔だが、56 台ものクルマが走る決勝では、その難しさが顕著に出始めてしまう。序盤こそプロが駆るTOM’S SPIRITGR86 を従えながら走っていたが、クラス違いの車両が出はじめ、ラインを外すようになるとガクンラップタイムが落ちはじめた。

「クルマが本当に難しいものでした。時間があれば“人にクルマを合わせる”ことをしたかったのですが、今回は“人がクルマに合わせる”ものだったんです。スイートスポットがすごく狭いクルマでした。クリアラップで他に何もない場合はすごく気持ち良く走ることができる」と大輔は説明する。「しかし、一度スイートスポットから外れると全然タイムが出ない、コントロールが非常に難しいクルマになっていました。シェイクダウンからいろいろな問題に対応してきましたが、カーボンニュートラル・フューエルへの対応が先で、クルマの味つけに時間を割けていなかった」
 
なんとか最初のスティントをこなし蒲生尚弥に交代。
その後鵜飼龍太もドライブするが、やはり鵜飼も「この活動は“モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり”のためのものです。なんでも乗りこなすプロドライバーと、社員評価ドライバーの自分、大輔さんと、みんなが一緒にやって作る乗りやすいクルマが“もっといいクルマ”なのだと改めて理解しました」と評した。
プロならばまだしも、大輔や鵜飼には乗りづらかったのが今回のORC ROOKIE GR86 CNF Conceptだったのだ。実際、事後にラップタイムを見ると、蒲生や大嶋和也、関口雄飛と言った面々は比較的ラップが安定しているが、大輔や鵜飼ではの“落ち”が激しい。

「速く走るだけなら、もっと性能を追求し、スイートスポットが狭いクルマならばできますが、いろんな人が乗る耐久レースではやはりそれは難しい。自分も今回はかなり苦戦しました。楽しみながら、勝負しながら、譲りながらとレースはいろんなことがありますが、その中では本当に幅が狭いクルマでした」と鵜飼。

それでも、長い24 時間でさまざまなものを得るため周回を続けていくが、蒲生がドライブ中の午前2時15 分ごろ、315 周を走ったところでORC ROOKIE GR86 CNF Concept にミッショントラブルが起きてしまう。車両はリペアエリアに運ばれ、クルーが機材をもち駆けつける。まだ暗さが残るなか、屋外でもミッション交換が始まった。なんとか修復が完了し、ふたたびコースに戻ったのは午前4時41 分。この後は鵜飼から大嶋、関口、大輔、蒲生と交代していくが、やはりコース上にラバーが乗りすぎており、ラップタイムもさらに下がっていった。その後も大きなトラブルなくラップをこなしていったORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは、最後は鵜飼、そして大輔と交代し、長い24 時間のチェッカーを受けた。

「トラブルは付きものですし、開発しながらのレースですからね。今回良かったのは、週末通してみんなで『これはダメだ』と指摘することもできたし、開発担当の人たちに伝えることができたこと」というのは大嶋だ。

ミッショントラブルもあり、今回はTeam SDA Engineering BRZ CNF Concept にも15 周差をつけられてしまった。

しかし「課題だらけですが、何もしなかったら課題も出ませんよね。今日出たものを今後に繋げなければなりません」と鵜飼は語った。「まわりのチームをリスペクトしながら、争いながらこういう取り組みを続けていますが、もっとスピード感をもってやりたいです。ポジティブに捉えれば、今回のレースは良かったですが、運転が楽しく安全で、24 時間でも“また乗りたい”と思えるようなクルマを作らなければいけません」


 今回得たものをいかに次に活かすか。終わりなき挑戦は続く。


MORIZO’s Voice


昨年の富士24 時間から水素カローラで参戦してから、1年が経ちました。
この1年、トヨタのカーボンニュートラルへの取り組みが進みともに挑戦する仲間も増え、クルマも進化してきました。
そして今回、ORC ROOKIE Corolla H2 concept での2年目の挑戦は昨年よりも160 周距離を伸ばしました。
余分に走った分だけ、我々の水素社会の未来に我々の意志ある情熱と行動によって近づいたということです
これこそが皆さんの力です。
またORC ROOKIE GR86 CNF Concept も新しいカーボンニュートラルの選択肢に取り組みましたトラブルもあったなかでしたが、良く完走してくれました
これもまた、皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。

ROOKIE Racing オーナー  豊田 章

2022 年第2戦富士24H リザルト


2022 年第2戦富士24H データ


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